第二話(8)
レナから逃げるように視線をそらすと、めずらしく、コウと目が合う。
あれ以来、一度も口を利いていない物静かな優等生は、やはりなにも言わずにジッと俺を見つめ――なんだ?
感じた違和感の正体をつかめないまま、シュナが打ち鳴らした両手に、意識をさらわれた。
「試験は一対一の試合形式で行う。制限時間は10分。どちらかが傷を負うか、剣を取り落とすなどして続行が危ぶまれた場合、その時点で試験を終了する。得点については、勝敗によらず、試合中の行動から総合的に判断する。なにをしてでも勝てばいいというものではない。わかったな?」
バラバラと了承の声が上がる。
「先に言っておくが、私は、一人一人の進級ラインなど加味してやるつもりはない。心しておけ」
口元のローブを引き下げ、にやり、とシュナが笑う。はっきりと浮かびあがった魔傷が、どことなく凄みを演出する。学生の返事のトーンが、一段階下がった。
「シュナ教官」
「なんだ? レナ=フェイルズ」
いつかのように、まっすぐ垂直に手を挙げたレナが、質問を口にする。
「対戦表は、どのように?」
「番号順でいいだろう。不都合がある場合は申し出てもいいが、個人的な感情での変更は認めない」
「私が参加すると、一名、あぶれてしまいませんか?」
「問題ない」
きっぱりと言いきったシュナの視線が、学生の波を越えて、また俺に突き刺さる。
「ノア。お前の相手は、私だ」
細められた茶褐色の瞳に、ぞくりと肌があわだった。あの瞳が射抜いているのは、俺か、それとも――ローブの中で、腰にさげた【飆牙】の柄をなでる。
まだ一度も、こいつを抜いてシュナと手合わせしたことはない。
反則的な軽さと鋭さに慣れるため、なんども振るってはみたけど、その度に思い知る、格の違い。もはや本質から違ってしまっている、別次元の剣。
――シュナも、こいつの力を見てみたいんだろう。
「かまわないな?」
「はい」
もの言いたげなレナの視線を感じながら、深くうなずく。殺しきれない興奮に、声がゆれた。
「よろしい。――30分後に試験を開始する。遅刻は認めない。各々、準備を整えた上で試験に臨め」