第二話(7)
「ただいまから、剣術の実技試験を執り行う。今年度の免除対象者は、レナ=フェイルズのみだが――受ける意思があるのか?」
最前列に陣取るレナの姿をみとがめて、シュナ=フェブリテが問う。「はい!」と歯切れの良い声をあげて、レナがうなずいた。
「そうか。いま一度、進級条件を確認する」
シュナの言葉に合わせて、魔力感応式のL型スクリーンが起動した。
「先日行われた筆記試験では、ここにいる全員が基準を満たし、実技試験の受験資格を与えられた。現在のところ、留年確定者は出ていない。この学年は優秀だな」
スクリーン上には、容赦なく順位と氏名、さらに点数までもが映しだされる。満点をたたき出しているのは二人。レナとコウだ。並ぶ『1』の数字が、燦然と輝いてすら見える。
ウィルは、と探せば、予想通り真ん中よりかなり下の位置に名前を見つけた。
俺の名前は探すだけ無駄だ、……と思ってたんだけど、意外なことにウィルと大差のない位置に見つかった。
レナのスパルタ詰め込み塾の賜物に違いない。
最後には、あの優等生を絵に描いたようなレナが、「意味は理解しなくていいからとにかく覚えて」とか鬼気迫る表情で言ったんだっけ。
……あの日は、つらかった。
過去の経験上そうなる予想はしてたから一ヶ月前から避けつづけてたんだけど、逃げきらせてくれるレナじゃなかった。
おかげで望みをつなげてるわけだが、素直に感謝しがたい。
「魔術試験の結果は見ての通り。免除規定を満たしていない者は、剣術試験との合計点数で90点を越えることが進級の最低条件となる。――もっともこの中には、魔術試験を放棄するという舐めた輩もいるようだが」
シュナの視線が、最後尾で息を潜めていた俺を射抜く。
「そういう輩には、より厳しく採点してやるべきだと思わないか? ノア」
クラスメイトが一斉に俺を振り向いた。うげぇ、と顔をしかめた俺を、シュナが鼻で笑う。なんつー師匠だ。これが弟子にする所業かっての。
「ソーデスネ」
いやいや絞りだすように返事した俺に、さざなみのような嘲笑が起こった。
その向こう側に、かすかに眉間にシワを寄せたレナの姿。
……あーあ、完全に怒ってら。
笑顔を形作っていた口角が、ひくりと震えた。作り笑顔なんて、俺には無理な芸当だった。