第二話(5)
「なにそれ。神話? 三大神ってやつ?」
「循環の風、創造の光、破壊の闇。そいつは、【風】ゆかりの品らしい」
「まじ? 神様のもん人間が持ってていいのかよ」
話半分に聞いているらしいウィルは、似合わない神話なんてものを話す俺を、ニヤニヤと眺めている。
俺だって、エルフから預けられた、なんて経緯を知らなかったら、鼻で笑えただろうけど。『ヒトにもエルフにも、振るう権利はない』――まるで俺が人間ですらないみたいな言い草だ。
そんな馬鹿な話あってたまるかよ。
「なんかの手違いってやつじゃねーの」
軽く笑いとばす俺に、だよなぁ、とウィルもうなずく。
「そういや、ノア。お前はどうすんの?」
「どうすんのって?」
「来月の進級試験だよ。席次に反映されない筆記はいいとして、実技の方はみんな必死だぜ? 魔術も魔術で激辛採点ってウワサだし、剣術に至っちゃ九割越え――免除資格の前例がない」
「なるようにしかならねーだろ。席次とかどうでもいいし」
真剣な顔で悩んでいたウィルが、あきれたように口を開ける。
「どうでもいい?」
こういうとき、こんな奴でもエリート学園生の一人だったなと思い出す。
「魔術実技0点が約束されてるようなもんだからな、俺の場合」
「あー、そういやそうだっけ」
魔術が使えない。どうにもならない致命的な俺の欠点だ。
「つかさあ、そもそも、なんで魔術使えねーの? 見てて思うけど、ノアって、術式わからないわけでも、魔力練れないわけでもないんだろ?」
「レナの十倍は時間かかるけどな」
「姫は規格外っしょ」
あっけらかんとウィルが言う。
レナの構築速度は異常だ。授業外で簡略化しまくってるのを見てるから、余計に思う。ほとんどが安全弁だっていうなら、本当は術式なんてなくたって魔術使えんじゃねえの、あいつ。人間には無理な芸当だけど。
「外に出せないんだよ。俺の魔力は魔力のままで、術式に使える形まで変換されないらしい。どっかの過程に障害があるじゃないか、ってさ」
「ふぅん。よくわかんねーの」
聞いてきたくせに、もう興味が削がれたらしいウィルは、勝手に俺の書棚を物色している。
「言っとくけど、なんも出てこねーからな」
「うっそ!? 私物の入り込む余地があるとしたらココしかないっていう俺の名推理は?」
「ないもんはないっての。いちいち家捜しすんのやめろ」
「だって殺風景すぎんだもん、ノアの部屋。粗探ししたくなるやん? 娯楽ねーの、娯楽」
「ない」
信じられない、と顔に貼り付けたウィルの部屋が、露出度の高い女のポスターで埋まっていることは知っている。
「そういやノア、講義の後、姫に会わなかった?」
「いや、今日は見てないけど、レナがどうかしたのか?」
「んーなんか、お前探してたっぽいんだけど、いつもよりニコニコしてて機嫌良さげだったから一応」
「笑顔……ね」
それはたぶん、かなり機嫌が悪い方だろうな。
原因に心あたりは、残念ながら、ある。