第二話(2)
FDでの実技演習が始まって一ヶ月。
シュナは、早々に俺を隔離した。
【飆牙】の件があるとはいえ、一人だけ別の場所で個別指導なんて、特別扱いにもほどがある。
シュナに散々弾きとばされたものと、予備のもう一つ。二本の模擬刀を拾いあげて、転移陣の上に雑に並べる。シュナの魔力で隔離されたこの空間には、どうせ誰も入って来やしない。
鬼教官の期待に応えられている気は、情けないことに、まったくしない。
それでもシュナは一貫して、俺を『ノア』と呼ぶ。言外に、己の弟子と称してはばからない。落第生と知られるノア=セルケトールを、だ。
「俺でいいのかよ……シュナも、お前も」
美しい白銀の刀――【飆牙】を掴みあげる。
こいつに選ばれたことも、俺の実力のうちって言えばそうなんだろう。【飆牙】を抜いて手合わせしたのなら、シュナとて簡単にはあしらえないかもしれない。これは、それだけの力を持った剣だ。
……だけど、だからこそ、甘えたくない。
《きみを選んだわけじゃない》
小憎たらしい少年の声が響いた。
直接脳内に語りかけられるような感覚に、思わず【飆牙】を取り落としそうになる。
《きみたちは、とっくに選ばれていた。僕はただ、定められた筋書きにしたがっただけのことだ》
抑揚のない声を響かせて、それきり【飆牙】はまた沈黙を守る。
「選ばれて、いた……?」
俺が? 路地裏に打ちすてられた孤児が? 幸運を生かすこともできずにくすぶっていた、どうしようもない落第生が?
――モノ好きがいたものだな、と自嘲しながら、さざめく胸のうちに気づいていた。
選ばれていた。
必要とされていた。
無為に散るだけの運命ではなかった。
たったそれだけの事実に、どうしようもなく心が浮き立つ。なんて安い。
どんな運命だって、かまわないんだ。そこに理由があるのなら、俺は喜んで飛びこんでいける。
――なんて。
「いくらなんでも、夢見すぎだよな」
気まぐれな剣は黙りこんだまま、なんの答えも返してはこなかった。