第二話 進級試験、人知れずして闇は迫る(1)
「身体能力に頼りすぎだ。相手の動きを読む努力をしろ」
「無茶、言うな……!」
「言葉が乱れているぞ」
「っ……すみませんシュナ教官!」
叫んだ瞬間、あっけなく吹っ飛ばされた模擬刀に、乾いた笑いが漏れた。うそだろ。
こっちは『今』で手一杯だってのに、シュナは、何十手も先を読んでんじゃないかってくらい、容赦なく俺の『次』をつぶしてくる。
動けなくなった一瞬に、あっさりジ・エンド。このパターン、何回くりかえしたことか。
「身のこなしには目を見張るものがあるのだが。純粋な速さと力では、お前は私に優っている」
「よく言う……傷一つねぇくせに」
えげつないほどの実力差を前にすれば、なんだって好き好んで個人指導なんかしてんのかと、やさぐれたくもなる。
「単純すぎるんだ」
鞘に収めたままの愛剣をなでながら、シュナが言う。
「はあ?」
「いまのお前なら、いっそ剣を手放した方がマシだろうな。神剣の主には、およそふさわしくない」
「好き勝手言ってくれる……」
「事実だ」
散々な言われように頬を引きつらせた俺を笑う、茶褐色の瞳。そこに浮かんだ穏やかな光に、なにも言えず黙りこむ。
「次の一手をたやすく読まれるから、速さに優っても避けられる。次の一手を読めないから、小手先の技術に押し負ける。お前は、剣に囚われすぎているよ、ノア」
んなこと、言われたって――。
深く呼吸をして、肩の力を抜く。どうしようもなく高い壁に向き直って、ゆっくりと頭を下げた。いつか絶対に越えてやると、歯を食いしばりながら。
「もう一回、お願いします」
シュナは、無言で目を細めた。
――それから、一体どれだけ特攻をしかけ、剣を拾いに行かされただろうか。
「終わりだな」
シュナが剣を置いたのを合図に、膝から力が抜けた。結局散々いいように誘導されて、振りまわされて、いい加減に限界がきていたらしい。歯ぎしりして、乱れた息を喉の奥に押しこめる。
「今日はここまでにするか?」
「……まだやれる」
「殊勝な心がけだが、講義時間が終わる。私が戻るまでに、ここを片づけておけ」
「おい、シュナ!」
「減らず口め。吠え声だけは一人前だな」
長い外套を風にふくらませて、悠々と歩みさっていくシュナの背中が、どこか笑っているように見えた。
「くっそ……化け猫め……」
あれで義父より年上だというのだから信じがたい。実年齢より若く見えるのは魔力の影響だとしても、四十超えの身のこなしかよ、あれが。