表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Skew World Overture  作者: 本宮愁
I.離島の魔術学園
2/155

第一話 少年は剣と出会い、物語は動きだす(1)

 カミサマってもんは、存外、意地が悪い。


 公明正大なんて謳っちゃいるけれど、現実はそうそう甘くない。ヒトの描いた理想郷はどこにも存在しちゃいなくて、世界はいつでも理不尽で不平等。そういうもんなんだと、思っている。


 天は二物を与えず――なんて、誰が言いだしたか知らないけど、嘘っぱちだ。


 いつの世にもオキニイリは存在する。特別なニンゲンはいくつもの恩恵を授かって生まれ、それ以外はあぶれたカケラを抱いて生まれる。いたって単純明快な話だ。


 俺は、その他大勢の一人でしかなくて、世界の中心にはなりえない。


 ちっぽけで、無力で、――それでも。

 俺は俺で、在りつづけるしかない。


 この両手で守れるモノがあるのなら、一つも取りこぼしたくなかった。身不相応な願いかもしれない。それでも、手に入るモノはすべてかき抱いていたかった。


 俺が俺であることを、許してくれた人たちを。


 掲げた手のひらを陽に透かして、目を細める。擬似的な木漏れ日を浴びながら、そっと天球を握りこんだ。掴めやしない光は、あんなにも遠い。


 風にすくわれた前髪が、視界の隅でふよふよと踊っている。真っ青な背景にゆれる、翡翠色の毛。めずらしい色味は人目をひく。


 大抵のヒトの髪は、金、茶、黒。すこしばかり赤みがかっていたり、くすんでいたりという差異はあっても、青系の色素には、まず出会わない。原色の華やかな色彩を見かけたとしたら、それは精霊の類だ。


 いつだったか、奇異のまなざしがうっとうしくて、刈り上げたこともあったな……幼なじみに爆笑されて、二度としないと決めたけど。


「風の色、……か」


 眼の端に涙まで溜めて笑いながら、「せっかく綺麗な色なのにもったいない」とあいつは言った。


 風にゆれる森の色。

 芽吹いたばかりの若葉と、降りそそぐ恵みの水をまぜた色。

 きらきらしい比喩を並べたてた幼なじみは、本気でそう思っているようで――。


 昔のことを思いだして、くすり、と笑いが漏れた。


 あいつがいるから、まあ、いいかと思う。俺が大切に思った人は、みんな、いなくなってしまったけれど。まだ、あいつがいる。


 だから――。


「ノアー……?」


 風が運んできた少女の声を聞いて、寝転がっていた上体を起こす。そろそろ来るだろうとは思っていたけど。毎日毎日、飽きもせずによく探すものだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ