第一話 少年は剣と出会い、物語は動きだす(1)
カミサマってもんは、存外、意地が悪い。
公明正大なんて謳っちゃいるけれど、現実はそうそう甘くない。ヒトの描いた理想郷はどこにも存在しちゃいなくて、世界はいつでも理不尽で不平等。そういうもんなんだと、思っている。
天は二物を与えず――なんて、誰が言いだしたか知らないけど、嘘っぱちだ。
いつの世にもオキニイリは存在する。特別なニンゲンはいくつもの恩恵を授かって生まれ、それ以外はあぶれたカケラを抱いて生まれる。いたって単純明快な話だ。
俺は、その他大勢の一人でしかなくて、世界の中心にはなりえない。
ちっぽけで、無力で、――それでも。
俺は俺で、在りつづけるしかない。
この両手で守れるモノがあるのなら、一つも取りこぼしたくなかった。身不相応な願いかもしれない。それでも、手に入るモノはすべてかき抱いていたかった。
俺が俺であることを、許してくれた人たちを。
掲げた手のひらを陽に透かして、目を細める。擬似的な木漏れ日を浴びながら、そっと天球を握りこんだ。掴めやしない光は、あんなにも遠い。
風にすくわれた前髪が、視界の隅でふよふよと踊っている。真っ青な背景にゆれる、翡翠色の毛。めずらしい色味は人目をひく。
大抵のヒトの髪は、金、茶、黒。すこしばかり赤みがかっていたり、くすんでいたりという差異はあっても、青系の色素には、まず出会わない。原色の華やかな色彩を見かけたとしたら、それは精霊の類だ。
いつだったか、奇異のまなざしがうっとうしくて、刈り上げたこともあったな……幼なじみに爆笑されて、二度としないと決めたけど。
「風の色、……か」
眼の端に涙まで溜めて笑いながら、「せっかく綺麗な色なのにもったいない」とあいつは言った。
風にゆれる森の色。
芽吹いたばかりの若葉と、降りそそぐ恵みの水をまぜた色。
きらきらしい比喩を並べたてた幼なじみは、本気でそう思っているようで――。
昔のことを思いだして、くすり、と笑いが漏れた。
あいつがいるから、まあ、いいかと思う。俺が大切に思った人は、みんな、いなくなってしまったけれど。まだ、あいつがいる。
だから――。
「ノアー……?」
風が運んできた少女の声を聞いて、寝転がっていた上体を起こす。そろそろ来るだろうとは思っていたけど。毎日毎日、飽きもせずによく探すものだ。