第一話(13)
「シュナ教官! ウィルが……」
「なんだ、剣に噛まれたか?」
シュナが、カラカラと豪快に笑うと、隠されていた顔の下半分があらわになった。顔の輪郭に沿って、深々と抉られた爪痕――魔傷だ。魔に堕ちた獣につけられた傷は、癒えきらずに爛れて痕になるという。普通に生きていたら、まず出くわすことのないもの。
「くだらない見栄を張るなと言っただろう。舐めてかかると殺されるぞ」
軽く返された言葉に、学生はギョッと目を剥いて、倒れたまま動かない身の程知らず――ウィルを確認する。ま、衝撃で気絶しているだけだろうとは思うけど。
「己の力を過信しないことだ。それらはすべて魔剣。意思を尊重しなければ手痛いしっぺ返しをくらう。――さて、みな選び終えたか?」
「あの、ウィルは……」
「放っておけ。じきに起きる」
きっぱりと言い放ったシュナに、学生たちは微妙な表情をして黙りこんだ。さすが、鬼教官の名は伊達じゃないってか。頬を引きつらせていると、不意にシュナの眼が俺を捉えた。
「ノア=セルケトール。お前の番だ」
「うぇ、――はい!」
あわてて取繕うも、遅い。本日二回目の衝撃が頭を襲う。
「いっ……」
「早くしろ、馬鹿者」
くそ、容赦なくぶん殴りやがった……。頭を抑えながら、渋々前へ進み出る。
四方八方から突き刺さる視線が痛い。自分で言っちゃなんだが、よっぽどめずらしいんだろう。俺が教官と会話してるとか、授業に参加してるとか。特に今年――義父さんがいなくなってからは、サボりっぱなしだったから。
ダラダラと歩を進めて、台座の正面に立つ。山と積まれていた剣も、学生一人一人の手に渡って、幾らか減ってはいる。それでもまだ目測ではわからないほどの数が、ここにある。
適当に手を伸ばして、一つ目の剣を探す。でかい両手剣とかは好みじゃないし、レイピアや双剣なんてのも無理。重さで叩き割るよりかは、斬れ味が鋭くて手になじむような――そういうやつがいい。
できる限り、動きを制限されたくない。まあ、完全に望みどおりになんて、始めから思っちゃいないけど。
ひとまずは、近くにあるものから適当に……なんだ? なにか、聞こえて……?
《える? ……りの、しい……もの》
頭の中に響く声。
子供のように無邪気に。
うれしそうに。
悲しそうに。
さまざまな感情を織り交ぜて、響いてくる。
《み……けた、……えり、おか……り》
握っていた剣が、ガタガタと震える。反発ではない。でも、違う――これじゃない。