第一話(12)
番号順、なんて言ったって、つまりは成績順だ。進級試験の席次そのものだから、レナが最初で、俺が最後。はいはい、安定安定。しばらく呼ばれることもないだろうし、気詰まりな空間を離れてどっか適当に――。
「どこへいく? ノア=セルケトール」
シュナ=フェブリテに呼びとめられて、ギクリと身を固める。
「私は、意欲のない者は欠席にすると言ったが」
おそるおそる振りかえった先で、凪いだ茶褐色の瞳にぶつかった。予想外にも、怒っているというより、まるで面白がっているかのような瞳。シュナの考えが読めずに、戸惑う。
「……あんた、ずいぶんと俺に肩入れするね」
「クリスが直々に引き取った秘蔵っ子だ。教導者として興味を引かれるのは当然ではないか?」
「俺になにを期待してんのか知らねーけど、無駄だよ。期待外れで悪かったな」
内心うんざりしながら、おざなりな返答をする。このパターンには、いい加減に飽き飽きしていた。
一応、養父ってことになる先代学長クリス=セルケトールは、名の知れた術士だったらしい。弟子をとることもなく、伴侶もいない。たった一人、気まぐれに拾い上げた孤児が、俺。的外れな期待は、度々投げかけられた。
「しかし、魔力はある」
シュナは、気分を害した様子もなく、より面白がるように目を細めた。気まぐれで獰猛な肉食獣のようだ。愛玩用に飼いならせるとは、とても思えないけれど。
「あーそうらしいね。でも、使えねーもんになんの意味がある?」
「使えない? 違うな。お前は、『魔術が組めない』だけだろう」
言うが早いか、シュナは愛剣を振り上げた。
「は!?」
突然のことに、わけがわからないまま頭を守る。一か八か、鞘をつかんで勢いを殺そうとするが――おいおい、フェイクかよ。いま一瞬、力を抜くどころか手放しやがった。
「触れた、か」
ニィ、と笑ったシュナは、すぐに剣を引いてしまう。――ほんの束の間、彼女が手を放した短い時間だけ支えた長剣は、冗談みたいに重かった。
「なるほど、あの男の姓を与えられるだけはある」
「はあ……?」
意味わかんねえ。触れた? なんでここであの人が出てくるんだ。
俺がセルケトール家に引き取られた経緯は、学内なら誰だって知ってる。ほとんど義務みたいな、単なる保護。拾ったもんは自分で責任取りましょうっていう、あれ。それ以上でも、以下でもない。
シュナを問い詰めようとした矢先、クラスメイトが一人吹き飛んだ。数メートル宙を舞って、どさり、と地面に落ちる。
――沈黙。そして、ざわめき。
すぐに別のやつが、血相を変えて飛んできた。