表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Skew World Overture  作者: 本宮愁
II.精霊の治る土地
128/155

第二話(2)

 頭からいかなきゃ最悪どうとでもなるだろう、という大雑把な目論見は成功したらしいが、舞い上がった土埃をもろに吸い込んだ俺は派手に咳き込んでいた。


「けほっ……げほ」


 無事、といえるかどうか際どい感じに身体が痛むけど、なんとか生きて不時着はできた。


 ぺっと砂まじりの唾を吐き出しながら薄目を開けて身を起こそうとしたとき、大音声の叫びが鼓膜を揺さぶる。


「悪い!!!!」


 よく通る若い男の声だった。


「漏らしたつもりねえんだけど、なんか、そっちにデカいのいったっぽいって、セルシアが」


 聞き覚えはない。動きながら声を張り上げているようで、荒い息づかいの合間に言葉が届く。


 でかいの? っていうか、いったいどこから――声の元は近いけど、位置関係に違和感がある。土を踏む足音が頭上から聴こえる気がするんだが。


「うん、()()()

「っ……!?」


 二人目の声は、はっきりと上から聞こえた。


 木の葉に隠れてよく見えないけど、俺が叩き折ってきたのとは別の木の枝の上に、ローブを羽織った小柄な人影が立っている。


「うっそだろなんで? さっき俺ぜんぶ仕留めたよな――こっち片付けたらすぐ向かう。お前は手出すなよ」

「ありがとう。僕を心配してくれるなんてレオンは優しいね」

「ちげえよ心配してんのは今夜の飯!」


 声は二人分ハッキリと聞こえるのに、会話の相手の姿は見えない。これ、魔術……か? よく目をこらしてみると、音の発信源らしい宙空にうっすらと浮遊する陣が見えた。


 どれだけ離れてるかわからないけど、特定個人に関わる音だけを、そこにいるのと変わらないほどの音質で転送するなんて、かなり高度な部類の魔術だ。


「さて――手出し無用と言われはしたけれど、先に問わせてもらおう」


 風に吹かれて、声の主のローブがはためく。袖口から覗く手首はずいぶんと華奢だった。女? いや、それにしては声が低い。あの細腕なら、魔剣士ということはないよな。やはり高位の魔術師か?


 名のある魔導師ならば所属する国家の紋章を身につけるものだけど、ローブにそれらしきものは見当たらない。身元を伏せた高位の魔術師なんて、後ろ暗い事情があるとしか思えないが――そもそも、ここがまだ大陸の西側、精霊の領域であるならば、普通の人間がいるはずはなかった。


 そしてそれは、俺に対しても言えること、なわけで。


「きみは何者だ? 人間? 精霊? あるいは魔性の類か」


 茶褐色の瞳でじっと俺を見下ろしながら、穏やかながらも有無を言わせない重さをもった声色で問う。


「黙秘したければそれも結構。ただ、連れは野育ちでね。()()()()()()()()()()()等しく獲物と認識されるかもしれない」


 淡々と語る魔術師の肩に、何食わぬ顔をした白銀の少女がふわりと舞い降り――風精霊は親しげに頬擦りをして、そのまま溶けるようにして消えてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ