第一話(11)
シュナが左腕を振るうと、なにもない空間から、円形の台座が現れた。
続いて、その上に、一つ二つと積み上がっていくのは――すべて、剣だ。大きさも形もさまざま。小刀から大ぶりな両手剣まで。変わり種で言えば、双剣やレイピアなんかもある。
「お前たちも知っての通り、魔器となりうる剣は、主を選ぶ」
雑然と重なった剣の山から、適当な一振りを掴みだして、シュナは手招きした。
「コウ=リステナー。前へ」
指名されたのは、小柄な少女だった。
真っ黒なショートボブの、おとなしそうな学生。なんどか見かけたことはある。まあ、曲がりなりにもクラスメイトだし。ほわほわっとした温厚な雰囲気は、レナよりかよっぽど『お姫さま』らしい。
コウは、魔術実技では、レナに次ぐ実力者だと聞いている。要するに学年二位の、これまた優等生ってことだ。
関わったことは、もちろんない。ああいう内気なタイプは、よっぽどの理由がなけりゃ俺みたいなのに近寄らないし。興味本位に絡んでくることもないから。
シュナは、取り上げた剣の柄を、コウ=リステナーに握らせる。すると、短い悲鳴をあげて、コウは剣を取り落としてしまった。――なんだ、いまの。剣が振動した?
驚いた様子もないシュナは、地に落ちた剣を拾い上げると、コウに問う。
「お前にこれを扱えるか?」
「え……?」
「答えろ」
「無、理……だと、思います」
「理由は」
すこし迷ってから、コウは探り探り回答した。
「わずかですが、……反発が、起きました。この剣は、私を、拒絶して……います」
「では、どれならば扱える?」
「えっと……」
視線をさまよわせたコウが、やがて一点を指し示した。
「あれです、シュナ教官。あれなら、私でも受けいれられる……と、思います」
コウの示した剣は、なんの変哲もない小ぶりな片手剣。さっき、シュナが適当に取りあげた剣と、よく似ている。装飾がないのもあって、ぱっと見じゃなにが違うのかわからない。
「なるほど。戻ってよろしい」
ちらり、とコウの示した剣を検分すると、シュナは満足げにうなずいた。合格、ということなのか。見た目ではまったくわからないが、どうやら二振りの剣には、大きな違い――おそらく『格』とかそういう類の――があるようだ。
正しい見極めを讃えるように、シュナは両手を合わせ、パン、パンと音を鳴らす。それから、学生全体に視線を流して、重々しく告げた。
「聞いたな。魔力の反発が起こったら、すぐに手を放せ。すなわち、それは過ぎた力ということ。くだらないプライドで命を失いたくなければ、相方は慎重に選ぶがいい」
剣は主を選ぶ。逆に言えば、ふさわしくない者を拒絶するってこと。わかりやすいっちゃあ、わかりやすいが、それだけに不安もつきまとう。
学生たちの表情は真剣そのものだ。なんせ、よほどの理由がない限り、ここで選んだ剣と卒業まで共に過ごすことになる。これからの成績に直結するかもしれないっていうんだから、死活問題だよなあ。
ただし、俺にとっての問題は、もっと低次元な話。――はたして、俺を受けいれる剣があるだろうか? 仮にも、ゆくゆくは剣魔術の器として魔力をこめられることを前提とされた魔器だ。
一応、俺にも、魔力そのものはあるらしい。まともに量ったことはないけど、危険視されたくらいだから、それなりにあるんだろう。高望みはしない、が、うまいこと騙されてくれねーかな。
「では、番号順に剣を選んでみろ。一人ずつだ」
一人目のレナが進み出たのを確認して、俺は学生の輪から離れた。