第一話(10)
「本講義では、剣を扱う。命を奪う武器だ。お遊び感覚の攻撃魔術とは、わけが違う。相応の覚悟を持って挑むように」
にわかに、ざわめきが起こる。落ちつきなく顔を見合わせる学生たちを、シュナは恫喝した。
「静まれ! ――よろしい。先に言っておくが、適性がないと判断された者については、実技のない別カリキュラムに移ってもらうことになる。自信がない者は申し出てもよい。ただし、上級学年で剣魔術を学ぶ前提として、本講義の修得を義務付ける。以上だ。なにか質問は」
レナの手が、まっすぐ挙げられる。完璧な角度で天を指した挙手に、シュナの目が細められた。
「シュナ教官」
「なんだ、レナ=フェイルズ」
「別カリキュラムとは、具体的にどういったものでしょうか?」
「座学だ。魔道研究の基礎を学ぶ」
ふたたび学生がどよめき、シュナの一睨みで無音に戻る。
魔道研究ね。つまり、学者コースってことなんだろう。そっちのカリキュラムに移った段階で進路は限定されたも同然ってこと。俺としては全力で回避したいルートだけど。
「では――進級試験は、どのように行われるのですか?」
「例年通り、実技および筆記だな。ただし、剣術・魔術の一方で基準を満たした者は、他方の実技試験を免除する。ゆえに、別カリキュラムに移る場合、この制度に基づき剣術試験を免除されることが進級の最低条件となる」
剣魔術はもともと戦闘に特化した技術だし、研究に従事する魔導士にとっては必須技能じゃない。だからこその救済措置だろう。
……騎士志望なら、ぜひとも身につけておきたいものだけど。
というのも、ヒトの身で扱える純粋な『攻撃魔術』には限界があるからだ。
高等魔術に位置付けられるものは、転移に代表されるように、そのほとんどが補助系。攻撃に転用できるものがなくはないけど、正直なところブーストかけて殴る方が早い。
一定以上の効果を期待すれば、なんらかの代償――自分自身の寿命なんかを捧げる覚悟がいる。講義で教える術式の構成要素の大半は安全弁で、省いても発動はするけれど制御をまちがえれば命に関わると、いつかレナが言っていた。
だから、高位の魔術士は前触れもなく消えていく。あの人のように。ヒトの身にはあまる術を行使してきた、その代償として。
まあ、魔術なんてものに無縁な俺には関係のない話。
聞きたいことは一つだけだ。
レナの質問が一段落ついたことを確認して、口を挟む。
「――魔術試験の免除は?」
「前例はない。しかし、規定はある」
シュナの視線が、俺に移る。
「私の基準は厳しいぞ? ノア=セルケトール」
試すようなまなざしをまっすぐ見返して、口の端を上げた。望むところだ。可能性ゼロの魔術に比べたら、その方がずっと現実的。差し込んだ希望の光に、やる気も湧いてくる。
満足げにうなずき、俺から視線を外したシュナは、学生全体を見渡した。
「質問は以上か? ――では、講義を始める」