第五話(21)
目の前には、今にも隔壁を割って飛び立とうと暴れる、巨大な光の鳥。羽ばたきのたびに高温で燃える羽が雨のように降り注いでくる。でも、さっきまでの熱さにくらべればなんのこともない。
あれを止める。
そのために、なにをすべきか。俺に何ができるか。
たぶん、……わかる。
深々と息を吐き、吸って、両手を天に掲げる。
「運命は静かに時を刻む
その時計は今動き出す」
口を開けば、聞き覚えのない詠唱が勝手に出てくる。身体を囲うように、魔力を伴った風が渦を巻く。感じる――言葉を交わすこともできないような、小さな精霊たちがざわめいている。
これは魔術ではない。
制御のための術式展開は不要。
精霊の助力を請う必要もない。
資格と代償さえあればいい。
聞け。聞き届けろ。
俺は此処に還ってきた。
古ぼけた資格でも、いまさら無効とは言わせない。
「我に与えられしこの能力
我に定められしこの役目
始まりを齎す者として
終わりを導く者として
今、運命に命を下す――」
誰に宣誓してるんだ、これ。
神様もどきさえいないらしいのに。
誰の許可を取ってんだか、と馬鹿馬鹿しい思いが一瞬よぎる。
「翡翠の輝きの下に、
一刻その針を止めよ」
誰でもいいか。なんだっていい。
これは俺の願い。俺の意思。
何者にも侵させない。
たとえ俺が何者なのだとしても。
この願いの結果が何に通じようとも。
「流転の担い手に束の間の安寧を――吹き止めよ! 翠嵐」
発動と同時に内側から何かがごっそりと奪われていくような感覚がして総毛立つ。
みどり、だ。視界一面に、翡翠色が広がっていた。風が吹いた。吹き荒れた。それから。あとは、もう。よくわからない。
成功、したのか、どうか……目が霞んでろくに確認もできないまま、急速に意識が遠のいていく。翡翠色の嵐の向こう側で金色の頭が動くのを見た気がする。
カイル、――いや、レナ――?
くそ、身体は動かないし頭も働かない。立っている感覚すら曖昧になっていく。今どうなってるんだ、俺の身体。
代償が何か聞きそびれたが、まあ、そういうこと、なんだろうな。
仕方ない。
俺が望んで選んだ結末だ。
たとえこのまま、二度と目覚めることができなかったとしても――やるだけやったんだ、後悔はない。
《それでいいのか?》
なんだ? なにか聞こえる。
《本当に、それでいいっていうのか?》
フィオンの声とは違う。あの小生意気な少年の声ではなくて、誰だ、この、男――でも、つい最近、どこかで、聞いたような――?
そこで、俺の意識はふつと途絶えた。




