表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

そして壊れる日常 4

今度は間を空けずに投稿できましたぁ。

頑張って書きました。

少し蛇足な文が多い気がしましたが、ぜひ、読んでみて下さい。

「ごめん、直人。もう大丈夫」

 綾音は大きく深呼吸を一つすると、普段通りの落ち着いた様子を取り戻し、直人にそう言った。

「お前があんな風に取り乱すとは思わなかったよ」

 直人は綾音があのように赤面し、狼狽える様子など一度も見たことは無かった。そうとは言っても、直人が綾音と知り合ったのはこの学校に入学してからのことなので、深い仲だというわけではない。普段の綾音は直人が思っているような、真面目で決断力のある頼れる少女というだけでは無く、このような意外な一面を持った少女でもある。ただ、この場で直人が知らない一面を露わになった。ただそれだけのことである。

「私、恋愛話は少し苦手なのよ………」

 綾音は少し俯き加減にそう言った。

「そのわりには、いつもおれと未奈をからかいやがるな」

「だって、あんた達お似合いじゃない。付き合っちゃいなさいよ」

 先程の様子とは打って変わり、綾音は困ったような素振りも見せず、直人の顔をしっかりと直視しながら言った。

「朝も同じようなことを言われたよ」

今度は直人が困った素振りを見せながら呟いた。

 だいたい、お似合いだというだけで綾音は自分をからかうが、そのことに対して、苦手意識はないものか。そのような矛盾が直人には残ったが、再びあのように赤面されては話しが続かない。そう思い、その矛盾を己の胸にしまい込み、先程から未奈と芝からまともに受け合ってもらえなかった本題を直人は切り出す。

「お前、あの時担任になんて言ったんだ?」

「あの時………って?」

「おれの方に担任が歩いて来た時に、担任の耳元で何か囁いてたろ?」

 その言葉を聞くと綾音は思いだしたように「あぁ、あれね」と漏らし、そのまま黙り込んだ。二人の沈黙の間に、心地よい風が流れ、綾音の長く黒い髪をなびかせる。直人はその時、先程、芝が述べた通り、綾音が物憂げに何かを考えていることがその表情から読み取れた。風が止むと綾音は話を始めた。

「相談されたのよ、担任から。保健室の雪姉ちゃんと仲良くしたいんだが、どうすればいいって」

「………どういうことだ?」

 直人は綾音の話が自分の尋ねたことと、どう関係があるのか理解できない。理解できたのは、保健の先生の名前が雪ということくらいだ。

「ごめんね、はしょりすぎたみたい。雪姉ちゃんは私の近所に住んでいるお姉さん。真白ましろ ゆき先生。小さい頃は良く遊んでもらったわ。そして、担任は雪姉ちゃんと高校時代の同級生。担任は雪姉ちゃんのことがずっと好きだったけど、その思いをずっと雪姉ちゃんに告白できなかったらしいの。それで担任は教職に就くとたまたま雪姉ちゃんと同じ学校に配属されて、これをチャンスと思って雪姉ちゃんと仲良くなろうと思ったみたい。でも、きっかけがどうしても掴めなかったそう。そうして時間が過ぎていくと、たまたま私が雪姉ちゃんと仲良く話をしてたのを見つけて、私に相談してきたってわけ、最近は毎朝一緒に雪姉ちゃんの所に話をしに行ってあげてるわ」

「ホームルームをすっぽかしてか?」

「ええ」

「職務怠慢にもほどがあるぞ」

 綾音もそう思うわと一言告げた後、再び話し始めた。

「でも、担任はなかなか雪姉ちゃんとうまく会話できなくてね。毎朝話してるのは、ほとんどあたし。担任は適当な所で相槌を打つだけだったわ。今朝はついにそのことを指摘してやったの。自分からも雪姉ちゃんと話そうとしろって。その矢先に直人のバッグの中から子供が飛び出してね。それで、担任に言ったの。『あの子を雪姉ちゃんの所に連れていけば、きっかけはできますよ』って」

 だから担任は顔を赤らめ、やけに畏まったのかと直人は納得したが、またこの矛盾が生じる。直人は包み隠さずに綾音に尋ねる。

「お前恋愛話は苦手だったろ?」

「えぇ、そうよ苦手よ」

 綾音は直人から視線を外し、頬を少し紅に染めながら言った。そしてその状態で、こう続ける。

「さっきのあたしを見たでしょ。だいたい、私は誰とも付き合った経験も無い上に、こういう恋愛話をすることすらままならないのよ。それなのに、担任から恋愛相談されて………。私には荷が重いわ」

「正直にそう担任に言えばいいじゃないか。担任は生徒の悩みを解決する立場につくべきだろ、なのに何で悩みを相談した挙句に生徒をこうして悩ませているのか。呆れるね」

 直人がそう言うと、綾音は意外にもこんなことを口にする。

「できないわ、だって二人ともお似合いだもの」

 だから、お前はお似合いなら苦手は無視できるのかと直人は綾音に示唆してやりたかったが、ここでは口をつぐむ。綾音は話を続ける。

「それにね、どうやら雪姉ちゃんも担任のこと気にしてるみたいなの。だから、担任も雪姉ちゃんのこと気になってるって話したら、じゃあ、担任の口からその言葉が聞きたいって。もう………」

 綾音はクルリと向きを変え、フェンスに手をかけ、小さく見える街並に向かい、こう叫んだ。

「どうすればいいのよーーーーーーーーーーー!!!!」

 その声はきっと校内は愚か、街の人達にも聞こえたであろう。綾音はその後、フェンスに額を当ててもたれかかり、体中の力を振り絞ったように肩で息をついた。直人はあまりに突然の出来事で、暫し言葉を失う。

「………突然どうした?」

 直人がようやく発した言葉がこれである。すると、綾音はスッと背筋を伸ばし、長い黒髪をかき分けると直人と向き合い満足気な顔をしていた。

「あぁ、スッキリしたわ。私ね、苦手でも少し頑張ってみたいの。雪姉ちゃんと担任が仲良くなるのはきっといいことだから。嫌だからってやらないわけにはいかない。うじうじなんかしてらんない。何か行動を起こさなきゃ」

 綾音はその満足気な表情に笑みまでも浮かべて、そんなことを口にした。

また、直人は暗に綾音は自分の事を言っているのではないかと感じた。うじうじ悩んでおらず、何か行動を、良かれと思った行動を取るのが何よりも良いという意味だろう。綾音が直人に対して、言った気は無いにしろ、現在様々な葛藤を抱えている直人には絶好のアドバイスであった。直人も心がまた少し楽になった気がしていた。

 そして、突然の綾音の叫び声に驚きを示したのは、直人だけでは無かった。少し遠方で与太話をしていた未奈と芝も、綾音の元に駆けつけて来た。

「なになに!?突然叫んでどうしたの?直人になんか変な事されたの?」

「してねぇよ」

早とちる未奈に向け、直人は言った。綾音はその様子を見ると、クスクスと笑いながら、直人の顔をニヤリと見つめる。直人は綾音の目つきが「だから、お似合いなのよ」と諭しているような気がして堪らなかったので、わざと綾音と目線を逸らした。直人が綾音をもう一度見る時、それは綾音がもう一度口を開いた時であった。

「さぁ、そろそろ教室に戻りましょ、休憩時間が終わっちゃうわ」

「そうだな、一時間目は貴重な睡眠時間だ、今宵の教師共の子守歌(授業及び解説)は心地よいものかな?」

綾音が促したあと、芝はそう言って校舎内部へと続く階段に足を進めた。

「今宵ってまだ朝だよ」

 未奈はそんなことを芝にいいながら、芝の後を追っていく。直人もその後を追おうと足を踏み出すが、綾音に名前を呼ばれ、その歩みを止める。

「どうした?綾音」

「あの子、あんな風に元気に見えるけど、かなり無理してるわ」

 綾音の指すあの子とは未奈の事であろう。綾音は時折、芝と共に歩く未奈を見ながらそう言った。

「直人はあの子が気にするといけないから、悩みを打ち明けてないようだけど、今はそのことで、あの子は悩んでいるわ。あの子は直人に頼られたいと思っているの。だから些細な事でも、直人が本当に気にしていることとは別の事でも何でもいい。あの子も少し楽になると思うから」

 綾音はそう言い残し、直人よりも先に未奈達を追いかけた。

 直人は良かれと思い、未奈には何も相談しなかった。だが、それが裏目に出て結果的に未奈を傷つける始末である。しかし以前考えた通り、事が事である。直人が命をかけた戦争に巻き込まれたなどと未奈に相談した所で、何か良い打開策は生まれるのだろうか。巻き込まれた本人である直人自身が、ただ逃げ回ることしかできない状況である。もちろん、打開策を見出すなど無理なことだろう。相談した所で、ただ、心にかかる重圧を折半し、二人で現状を悲しみ合うことくらいしかできないのである。それならば、誰も巻き込まず、一人でこの重圧を請け負うのが吉であると直人は考えた。

幸い綾音は本当に悩んでいる事以外でも何か悩んでいることを相談してあげると未奈の心も楽になるだろうと的確にアドバイスをしてくれた。担任が恋愛事には疎い綾音をなぜか頼り続けたのも直人は理解できる。綾音はこのようにして、人の足りない所を見抜くのが得意のようだからだ現在、直人が少し気がかりになっていることは充が学校について来たがるのをどうやったら阻止できるかということ。そんなことなら、迷わず未奈に相談しようと直人は心に決め、屋上に吹く心地よい風を一つ浴びた後、直人も屋上を後にした。




一時間目の授業は現代社会であった。直人達は休み時間ギリギリまで屋上にいたため、慌ただしく教室に戻る羽目になった。教室に入ったのは本鈴が鳴り響いている最中、現代社会の老教師とほぼ同時の到着である。それから、急いで着席し授業で使うものをバッグから引っ張り出そうとして直人は気づく。今朝、直人が持ってきたのは教材では無く、一人の幼い男の子であったことを。運よく、直人の後ろの席に座っている図体の大きい男、芝は授業開始早々から、授業で使う道具だけを机の上に出して、屋上での宣言通り眠りこけた。直人は芝から勝手に教材を拝借して、この授業をやり過ごすことにした。

授業が開始して30分後。直人に激しい睡魔が襲い掛かる。突如として、重みを持ち、垂れ下がってくる瞼をどうにか持ち上げ、起きていようとしたが、老教師の口から放たれるあのゆっくりとした口調に加え、もごもごとした曇った声がどこか子守歌のように聞こえ、直人に追い打ちをかける。やがて、直人は睡魔と老教師の子守歌とも言うべき声に負け、意識が飛びそうになる。その途端、握っていたシャープペンシルが直人の手中から滑り落ちた。シャープペンシルはそのまま床まで自由落下を続け、カチャンと音を立て、その動きを止めた。その出来事が直人を眠りから救い出したのだった。

 直人は寝ぼけており、シャープペンシルを落とした際に、どのくらいの音が教室に響き渡ったのか想像はつかなかったが、教壇に立っている老教師と目が合ってしまう。落ちたシャープペンシルの芯は折れて無かったものの、老教師の話の腰は折ってしまったようで、老教師は口を閉ざし、直人を睨みつけていた。そんなことはおかまいなしに、直人は自分の足元に落ちたシャープペンシルを拾い上げ、今までずっと話を聞いていたような素振りを見せた。すると老教師は直人を注視するのをやめ、再び遠くを見るような目をし、教室の壁のただ一点だけを眺め、解説の続きを始めた。

 直人は声に出して怒られなかったものの、あの睨みで怒られた気がして納得がいかず、今日提出されるはずだった授業アンケートに

 現代社会のあのおじいちゃん先生のもごもごとした曇った声は、眠気がさした生徒に対してはトドメの一撃となり、全く眠くない生徒には聞きづらく、非常に害悪である。

とでも書いてやろうと思ったが、先生ももうお歳である、呂律も回らないのだろう。改善しようも無い所を指摘された所でどうしようもない。結果として、老教師を傷つけ、怒りの炎に油を注ぐことになる事になるだろうと考えると直人は書こうとする気も失せた。老教師もあと少しで定年退職だ、今回のことは長い目で見ようと、直人は偉そうに老教師を心の中で許した。

 直人はもうあの声を聞く気になれなかったので、一度溜息をつき、ふと辺りを見回した。すると、ほとんどの生徒は先程の直人と同様に、眠りに落ちてしまっているではないか。後ろの芝など熊のようないびきを立てて寝ている。起きているのは綾音と未奈と一部の真面目なクラスメイトくらいで、教室にはくうくうといった寝息が静かに響いていた。授業がこんな壊滅状態になろうと老教師が注意一つしないのは、耳が遠く、視力も衰えてしまっているからではないかと直人は考察してみるが、すぐに無駄な考察であったと気づき、ふと窓の外に目をやった。

 この何気なく目をやったことを直人は幸運だと感じた。

 その瞬間にたまたま直人の目に映ったのは宙に浮いた人、それは紛れも無く先日直人を殺そうとした『炎神』であった。

 あの日のように炎神は直人の方に掌をかざす。そして、あの日同様に掌の中に炎が生まれていく。炎神との距離は50メートル近く離れているものの、あの炎弾が放たれた場合、確実に直人に命中するだろうが、今から動き出し完全に相手の死角に入り込めば話は別だ。しかし、直人は炎神の襲来にいち早く気づけたにしろ、炎神と初めて出会った頃のように動き出せずにいた。あの炎神の睨みは老教師の睨みとは格段違う。見たもの全てを恐れおののかせる殺意ある睨み。現状、直人は足を震わせ、ガチガチと歯を鳴らすことしかできなかった。

 炎神が口元に笑みを浮かべたのを直人が見届けた刹那、掌の炎弾は直人に向けて一直線に放たれた。


ありがとうございました。

ようやく、話が動いて参りました。

次回は戦闘!また頑張って書いていきます。

誤字・脱字あれば気軽に送ってください。

感想もお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ