短編 同じ願い、違えた道
「――よう、正輝」
「――ああ、宇宙か」
「第三次世界大戦後の復興がたった1年で一段落って、俺達が言うのなんだけどすごいよな。契約者の力ってさ」
「ああ。ある程度生活も落ちついたら、やっと来るんだな。平和が」
「まだだよ。弥生おばさんから聞いたけど、まだまだ世の中大変なんだって」
「ならまた救えばいいさ。また14人で力を合わせて、平和な暮らしを皆ですごすんだ! 宇宙だっているし、皆居るんだからきっと出来るさ。太助ともそう約束したんだ」
「――一時はどうなるかって思ったけどな。でも、政治とかはまだわからないけど、井上おばさんが色々と頑張ってくれたから、今があるんだ」
「その恩はこれから返して行くんだ。おばさんはもうすぐ政府首相になるって話だろ? だったらこれからは、きっといい世界になってくれる筈――だから」
「ああ――約束だ。この願いはずっと一緒だって」
「約束だ!」
「――ん?」
懐かしい夢――第三次世界大戦が終わって、色々と苦労した日々の中。
美徳の中では、一番の親友だった男とのある一時を思い出し……目が覚めた。
「……夢、か」
第三次世界大戦終結
ほんの5年前に終わり、4年くらい前に井上弥生が首相に就き、契約者社会が始まった。
――当時はまだ、わからなかった。
けれど、今ならわかる――井上首相がどれだけ苦労して、ここまで来たのか
人に理解してもらう――ただそれだけが何て難しいんだろうと、何度も思った。
いや……今でも認める事が出来ない人間はまだまだ多い。
「なあ、北郷。お前は――」
お前は一体、この世界を見て、この世界に生きる人間を見て、この世界に生きる人間の何に触れて、そんな結論に至った?
――北郷正輝が今の様な方針を取るようになって、何度も問い詰めたことだったが……何も話してくれなかった。
“――これだけは信じてくれ。あの時お前と一緒に願った事、1度として忘れた事はない”
ただそれだけが、正輝が言葉にした事だった
――今思えば、あの時決闘を決意したのは早まったかもしれない。
あの時北郷と対立せず、もっとよく話し合って居れば――もう少し違う未来があったかもしれない。
第三次世界大戦のその先。
平和を願っていたはずなのに――その願いはどこへ行ってしまったのだろう?
なぜ代わりに、平和を望んでいた子供を暴君に変えなければ、秩序を維持できない世界が待っていたのだろう?
――契約者社会が始まったばかりとはいえ、一体何を願えば人は正義を狂気に駆り立てる事が出来るのだろう?
――なんで
「――なんで人はこんなにも、残酷なまでに自分勝手なんだろうな?」
――所変わって
「……」
北郷正輝は1人、宇宙と同様にかつての一時を夢に見て――そして、目覚めた。
どんなに昔を想おうと、その場面に戻る事は出来ない“過去”
どれだけ理想を願おうと、それを絶対に許さない“現実”
未来に願いをはせる――昔は無邪気だったからこそできた事かも知れないが……
今では何て難しい事なんだろうと思う。
「……」
――宇宙に対しては、申し訳ない気持ちは確かにある
そして、今まで殺した本当なら罪のない者達にも、懺悔の意思はある。
しかし――今更どうしろと言うのか?
止まる事を許さないのも人であるなら、進む事を許さないのも人――平和とは欲望と理性の均衡の上に成り立つ物だと言うのに、人はそれを拒む
“独占”
それが人にとっての秩序であり、正解。
――理性を拒み、他人の願いを拒み……そして独占が揺らげば、簡単に人は人の命の価値を簡単に貶める。
“自分の欲望だけが正解”
……だとしたら、秩序とは一体何なのだろうか?
“一徹”の契約者、椎名九十九
本当は中原大輔という名前で、椎名九十九と言う名は彼が憧れていたヒーローの名前――ヒーローに憧れる少年だった。
――人の秩序と言う名の独占と、正解と言う名の身勝手
当時12だった彼は、その2つに晒されたが故に、今の思想に――狂気に駆られた
今やっている事が間違いだと言うなら、それを正解にしたこの世界は何だと言う?
気に入らない事を罵倒していれば、問題は誰かが何とかしてくれる――そう思っているのならば
「――なあ、一条」
「――なあ、北郷」
『――平和とは、一体何なのだろう?』、




