第9話
「本当に面白い事件が起きてますね――流石は凪さん」
「――何故お前にこの事を教えたのか、わかるか?」
「え?」
「予知は完全ではない。未来とは、たとえるなら透き通った純水――絵具を一滴垂らすだけで、簡単に色を変える」
「?」
「未来に絶対等ない――この事件もまた、表面上が面白いと言うだけかもしれん。そう言う事だ」
「どういう事です?」
「それを考えさせるために教えた……失望させるなよ?」
「――はっ、はい!」
「――成程ね」
「その辺り、頼めないかな?」
「やめといた方が幸せ、とだけ言わせてもらうよ。しかし――」
「? どうかした?」
「いや――こっちの話」
ガラっ!
「終わったよー」
「じゃあ……」
「あっ、ちょっと待ってくれない?」
愛奈が終わり、紫苑が入ろうとした所で、光一がストップをかける。
疑問符を浮かべる2人をしり目に、光一は教室の中へ。
「? どうしたの、光一君?」
次の生徒かなと思ったひばりは、入った途端に戸を閉めて周囲を警戒し始めた光一に、疑問符を浮かべながら質問。
「ひばり、調査は一旦中止だ」
「? どうかしたの、いきなり?」
「――この学校、被害者が多過ぎるのが気になる」
「え? ――確かに、被害者が今まで調査に出向いた所より、多い気がするけど」
「この学校での調査は方向性を変える。後日改めて……」
「それは困りますね」
相談を遮るように、1人の女性教師が入ってきた。
事件の事で、女生徒の相談役となっていた教師で、この調査の手伝いをしてくれた温和な雰囲気を纏い、メガネをかけた人。
「――あの、教師が盗み聞きなんて感心しませんね?」
「すみません。ですが調査を中止と言うのは、流石に教師としても女性としても、聞き捨てなりません。今学校はこの事件の所為で、男女の軋轢が生まれてしまい、乱れています。ですから、迅速な対処を求めます」
「いえ、調査をやめるのではなく、方向性を変えるんです。この学校は他と比較して、被害者が多過ぎるので――」
光一の発言は、突如遮られた。
教室内に轟音と共に爆発が生じ、窓ガラスは全て割れ校舎を揺るがした。
「きゃーーーっ!!」
教室から響いた轟音に、調査のために並んでいた女子生徒たちがパニックを起こし、逃げ惑う。
当然他の教室でも、突然の轟音と爆発に全員がパニックに陥り、絶叫と脚音が校舎内に充満する。
「だから困るって言ってるのよ、バケモノ」
――その渦中の教室で、女教師が吐き捨てる様にそう言い放った。
銃口から、煙を出す小型グレネード砲を手に、
「先生……何を、やってるんですか!?」
「――それ、本物?」
一部始終をたまたま目の当たりにしていた、紫苑と愛奈が唖然とした状態で問いかける。
くるりと向けた顔は、明らかに教師がするような表情ではなかった。
「うるさいわね――“バケモノ”が広大なる大地の贄となった。ただそれだけ」
「! “大地の賛美者”!?」
ひばりの叫びに、女教師はにっこりと笑い頷く。
「ええ。人の道を外れ、悪魔に魂を売り渡した外道“契約者”……死と言う浄化を施し、広大なる大地の贄とする神聖なる使徒。それが私達、大地の賛美者」
「そんな……先生が、テロリストだなんて」
「汚らわしい呼び方しないで頂戴。私たちは使徒よ、悪魔を討つ正義の――」
「――下着泥棒をカムフラージュに、上級系譜の暗殺か。確かに俺の想定外だった」
ぎょっと、ひばりを除く全員が目を見開いた。
小型グレネードで吹っ飛ばされた筈の光一が、けろっとした顔で服をはたいてるのだから。
「壁壊れちゃったね」
「あとで物質操作系呼んで直させるよ」
「くっ!」
女教師が小型グレネード砲を投げ捨て、太腿のホルダーから取り出した銃で、光一を撃つ。
チュイン! チュイン! チュイン!
「やめとけ、弾代の無駄だ」
銃弾を受けつつ、光一は右手を軽く上げ掌に電流を流し始める。
その電流ごと右手を突き出すと、派手な放電音を鳴らし電流が女教師を襲い――
「あぐっ!?」
電流を喰らい、倒れる。
――顔に施した特殊メイクがはがれた様を晒しながら。
「……変装かよ。本物は生きてるかな?」
「……」
「……」
その様子を見ていた愛奈と紫苑は、呆気にとられていた。
契約者は、人を超えた能力を使える事は知識として知っていただけで、実際に見た事はない。
――増して、上級系譜クラスの力等、そうそう見られる物ではない。
故に、面喰っていた。
「大丈夫?」
ひばりの声で、2人ははっと我に返る。
「えっと……うん、大丈夫」
「――契約者の能力なんて、見るの初めてだから、つい」
ドガアンッ!
2人の戸惑いを無視する様に、グラウンドの方から轟音が。
3人が目を向けた先では、光一が窓を開けてリボルバーを構えている姿が。
――外では、超電磁砲を受けてスクラップとなったパワードスーツの残骸が。
「なっ、なんだよ今の!?」
「光一の“超電磁砲”だ。以前見たことあるからわかる」
「――これが、上級系譜の力」
避難した生徒たちの中の錬、修哉、和人は、突如校舎から走った光の線に、パワードスーツの破壊される場面に、唖然としていた。
「――嘘だろ? 今の、あのモヤシ野郎がやったのかよ!?」
「嘘じゃない。信じれないかもしれないが――あっ」
「え?」
ふと校舎を見た先。
破壊された校舎の3階から、何かが飛び降りた。
「――怖かったあっ!」
「私も――出来ればもうやりたくない」
「ひばりもコントロール上手くなったな」
「まあ、これ位はね」
現れたのは久遠光一、支倉ひばり
そして、学校の生徒の江藤愛奈と、佐伯紫苑。
『死ねえ、契約者! 悪魔に魂を売り渡した外道め!』
『広大なる大地の贄となれ!!』
その比較的近くのテロリスト――“大地の賛美者”のパワードスーツ2体。
1つは、刃を人型に継ぎ合わせた様なフォルムの、近接戦闘型。
そしてもう1つは、両腕のガトリング砲と肩の砲身が特徴の重爆撃仕様。
その重爆撃仕様のパワードスーツが、肩のキャノン砲を光一達に狙い定め撃ち出す。
「させねえよ」
3人を庇う様に光一が立ちはだかり、両腕の袖を捲る。
不自然に黒く染まった両腕に電流を纏わせ、2つの砲弾めがけて電流を纏ったパンチをぶつけたその瞬間、両腕を纏う電流の強さが増し――
砲弾が打ち返され、重爆撃仕様のパワードスーツが破壊された。
『おのれぇぇええええええ!!』
それを見て激高した、もう一体の刃を継ぎ合わせた様なパワードスーツが、光一に襲い掛かる。
「……テロリスト相手でも、やっぱり悲しいよ」
そう呟いた少女は、自身の腕くらいの長さの2本の剣を抜き――
「“属性武装”」
ザンッ!!
『!?』
パワードスーツを四肢を斬り裂いた。
「光一君」
「――一般人の安全確保が最優先。その次で良いなら」
「……わかった。あたしも、そのつもりでやるよ」