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第85話

――怠惰と希望の全面戦争勃発から1日が経過。



大罪、美徳、あるいは小組織によるナワバリ。

それ以外にも政府職員、あるいは官僚たちとその家族が暮らす、政府直轄の街がある。


といっても、そこで暮らせば正と負の諍いに巻き込まれる事はない――と言う訳ではない。

犯罪契約者にしてみれば、政府と言えど所詮は一般人の組織。

いくら契約者最強の14人を統括出来るとは言え、直接契約者を止める力はないに等しい。


その為、町並みや建物は美観より防衛を主体とした、殺風景な街並みとなっている。

その一角の官僚専用同然の高級住宅街もまた、美観主体の豪邸

と言うより、頑丈さを前面に出したドームみたいな防壁――その中に、敷地と豪邸がちゃんとある――が、立ちならぶ。


「――さて、どうしましょうか?」


その高級住宅街の道路を走る、一台の車両。

知識の契約者、天草昴が政府首相、井上弥生を伴いとある政府高官の家を目指していた。


政府は基本的に世の頂点であり、契約者最強の14人を纏める組織。

その政府の官僚相手では、政治的な問題があり如何に美徳と言えど押し通れない為、首相を同伴した上で事に臨むしかない。


「――どうするもこうするも、昴君が集めた証拠に不備はあるの?」

「いえ、そこは間違いはありません。万事ぬかりなく」

「ならば後は私に――貴方達の母に、任せなさい。ここからは私の戦場なのだから」

「……はい」


彼らが目指すのは、希望と怠惰の全面戦争の首謀者。

今だ停滞を続ける、正義支持派閥と勇気支持派閥の議会を利用し、首相の責任問題をでっちあげ退陣させ、契約者社会の恩恵を独占しようとした高官の住宅へと。


「――本当に、私達は何をやってるんでしょうね」

「……もう僕にもわかりませんよ。本当に欲望を斬り捨てるべきなのか、それとも他に方法を探すべきなのか――そもそも第三次世界大戦を止めた事は、本当に正しかったのか。それが齎した物は、本当に平和なのかさえも」

「……」

「――意味を見いだすのも人なら、意味を壊すのも人……命も欲望も平和も、その意味が壊されている今、それを壊した人と言う種は一体何を望んでいるのでしょうね?」

「――前提が壊れてしまえば、いかなる物も尊ぶ理由を失う……か。何て簡単で自分勝手なのでしょうね、私達人間は」


「首相、天草様。もうすぐです」


運転手の言葉に、昴も首相も表情を引き締める。

一般的なイメージから180度かけ離れた住宅街の、とある一角に辿り着き――


「どうぞ」

「ありがとう」


運転手がドアを開け、昴がまず先に出て首相をエスコート。

そして――目の前のドームの様な建物に目を向ける。


「さて――みのり、任務だよ」

「はいはーい♪」


車の助手席から、元気のいい掛け声とともに外に出て――昴の背中に飛びついた。


「お呼びカナ~?」

「説明するから降りたまえ。スーツが皺になる」

「ちょっとは嬉しそうな顔してよ~! 身長はつぐみんとどっこいどっこいだけど、こっちはもうすぐDカップになるのに」

「そう言う事を男性の前で言う様な品のない女性は、嫌いだと言った筈だよ」

「……はーい」


むくれた顔で、渋々と飛びついた昴の背から降りる少女。


キャスケット帽子を被り、薄手のベストを羽織りネクタイを着け、ショートパンツにスニーカーと、活動的な格好をした少女。

身長がひばりやつぐみよりやや低く、更に昴に甘える様に抱きついたりと幼い印象を持たせるが、前述の2人同様出る所は出ている体型。


知識の系譜“探求”の契約者、天草みのり。

昴とは従兄妹の間柄であり、彼は特別扱いはしてはいないが、組織内では有名な仲良し兄妹として扱われている。


「――説教は後にして、君は首相を護衛だ」

「ん、了解。んじゃ……バーリア♪」


みのりが手を広げ、指先に念動力で構成した珠を作りだす。

それをはじき――首相の周囲に、その珠を点として更に念動力で結び、バリアを形成。


「では行くよ」


それを見届け、重厚なイメージ溢れる門に歩み寄り、昴は呼び鈴を押そうとして――


『うっ、うわあああああっ!!』


「……?」


微かにだが、違和感を感じた。


「……? どうしたの一体?」


更にふとある事に気付き――


「みのり、バリアを全開にしたまえ!“ジョワユーズ”!」


いきなり大声を上げ、昴は光の剣を構築し、ガードの体制を取る。

その直後――


バギィッ!!


「たっ、助けて!! たすけえぇあああああっ!!」


突如門が壊されたと思いきや、人相の悪い男が顔中から出る物を全部出し、グシャグシャな有様で、駆け出てきた。

その男も、地面が砕ける様にひびが入ったと同時に、そのひび割れに飲み込まれるかのように姿を消した。


「――遅かったな。天草」

「――! 大神君、何故ここに!?」

「誰かが何かを仕掛けるなら、希望と怠惰――そう思い、目を光らせていた」


――そう言って、担いでいた縄で雁字搦めとなっている、1人の男を昴の前に投げ出した。

それから首相に向き――教科書通りの礼作法を取る。


「お久しぶりです、首相」

「ええ、お久しぶりね。白夜君――でも流石にこれは」

「いえ、その辺りはご心配なく――」


白夜は1つの紙束を取り出し、首相に差し出す。

それを受け取り、読み進め――。


「――呆れてものも言えないわね。まさかフォールダウンだけでなく、犯罪契約者と繋がり敵対派閥を脅していただなんて」

「その敵対派閥の主導者が、私のナワバリの出身者でしてね」

「調査を依頼されたと? ……わかりました」

「では、私はこれで」

「待ちたまえ」


帰ろうとした白夜を、昴が止める。


「……君はこれから、一体どうする気だい?」

「――北郷と事を構える気はない事だけは確かだ」

「とても大罪のセリフとは思えないね」

「では、私に対として機能し、北郷を倒せとでもいうか? 確約された幸福を実現できない正義を倒せと……ふざけるな」


普段感情を出さない白夜にしては珍しい、怒りのこもった声。

それは、昴も首相も――みのりも冷や汗をかくほどの物。


――平和とは、確約された幸福を得たと勘違い出来る世界

――救いとは確約された幸福を提示し続ける事であり、これをなせない場合踏み躙り、破滅させること……そんなゆがんだ物

そして――不幸とは、斬り捨てる物あるいは他人になすりつけるための物。


「これが違うというのなら、人は間違った平和や救いを求めている……そんな腐った物のため、対として立つなどできるか――さて、そろそろ時間か」

「? 何か用事でもあるのかい?」

「大した用事ではない――戦争の撤収準備が始まる前に、少々憤怒に攻め入るだけだ」

「なっ……!」

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