第80話
怠惰と希望の全面戦争勃発。
その知らせは瞬く間に世に知れ渡り――パニックを引き起こした。
「――荒川に、王牙が」
怠惰は基本的に、自分から動く事はよほどの事がない限りあり得ない。
まして、全面戦争に踏み切る事自体が、彼を知る物から見ればあり得ない。
「――誰かが糸を引いている、か?」
契約者の全面戦争を望む者と言えば、第一に浮かぶのが大地の賛美者。
次点としては、政府の反契約者派閥。
負の契約者側の大罪、正の契約者側の美徳。
これらと並び立つ一般人側の最高機関政府と言えど、決して一枚岩ではない。
“契約者社会の母”井上弥生を中心とした、契約者擁護を掲げる派閥。
これが主体となって政権を担っているとはいえ、政府には未だに契約者を危険視する派閥、大地の賛美者の息のかかった派閥は存在する。
それらが何らかの干渉を行っても、何ら不思議はない。
――が、証拠がない
「――なんにせよ、止めなければ……綾香、鷹久!!」
「あいよ!」
「はい!」「
「怠惰と希望の戦争を止める――綾香は俺と一緒に、鷹久はナワバリを頼む」
「「了解!」」
宇宙のやるべき事、成そうとする事。
それをよく理解している2人は、とうに準備はできていた。
綾香は既に戦闘準備を済ませており、鷹久は部下の契約者達に指示を出すべく、足早に去っていく。
「綾香」
「ああ、どこまでだって運ぶぜ。宇宙兄!」
「頼む」
綾香は宇宙の手を取り“瞬間移動”し――
その途中で、阻まれていた。
「――大丈夫か、綾香」
「平気だよ」
突如の攻撃。
それから庇うように綾香を抱き抱えつつ、目の前の襲撃者を見据える。
1人は、ショートボブの髪にメガネをかけた、釣り目の女性。
軍服にタイトスカート、ブーツを履き手にはレイピアが握られている。
「お久しぶりですね。夏目綾香さん」
「――! 冬野智香!?」
正義の下級系譜であり、戦闘部隊副隊長であり現戦闘部隊長代理。
正義の系譜“規律”の契約者、冬野智香。
そして――
ガシィッ!!
「――待ってると思ってたよ、北郷」
「――来ると思っていたぞ、一条」
正義の契約者、北郷正輝も出向いていた。
2人は互いの姿を確認すると同時に飛び出し――宇宙は蹴りを、正輝は拳を繰り出しぶつけ合う。
「うわっ!」
「くっ……!」
正輝の拳と宇宙の蹴りがぶつかり合うと同時に、衝撃波が発生し綾香と智香に襲い掛かる。
綾香は双剣を、智香はレイピアを構え、防御の体制をとり――耐えきった。
「――いきなりだな」
「お前なら、俺がどう出るかはわかってたろ?」
「それに対し、我がどう出るかもわかっていたな?」
「俺の出る幕じゃないって言いたいんだろうが――どけ!!」
「通さん!!」
宇宙の蹴りと右拳ぶつけあったまま、正輝は左拳を繰り出す。
その左拳は、宇宙が風を纏わせた両腕でガードし、その衝撃を利用してワザと吹っ飛び距離をとる。
「“風銃”!」
両手の指2本を突き出す様に手を握りしめ、その指先から風の弾丸を幾つも撃ち出す。
「すぅーーーーーーーっ!!」
それに対し正輝は思い切り息を吸い込み、その風の弾丸1つ1つに拳をぶつけ相殺しつつ、距離を詰めていく。
「はあっ!!」
気合とともに放った拳を、宇宙は膝でガード。
そのガードした足で正輝の腕を巻き込むように身体を回し、勢いを着けての回し蹴りを、正輝は飛び込むように前転して回避。
振り向くと同時に正輝は両腕を使い、宇宙のさらに勢いを利用しつつ風で加速させた踵落としを、受け止める。
ズゥンッ!
それと同時に正輝の足もとを中心に、轟音を上げ地面が多少陥没。
両腕が塞がった正輝が蹴りを繰り出し、宇宙がそれを両腕でガードし、2人はいったん離れ――同時に駆けだす。
正輝の拳が宇宙の右腕で受け止められ、宇宙の蹴りが正輝の左腕でガード。
連打の応酬が始まり、同時に互いの顔面に互いの拳がめり込み――2人はふんばり、再度連打の応酬を続ける。
互いにガードしては受け、ガードされてはブチ込みを繰り返し――
「はあああああああああっ!!」
「うおおおおおおおおおっ!!」
その応酬をいきなり止め、2人は縁を描くように同時に軽く横飛び。
膨大な量の風を圧縮し、拳に纏わせた宇宙。
通常以上に膨大なエネルギーを、拳に纏わせた正輝。、
2人は前へ飛び、交差し――振り向きざまに、拳をぶつけあう。
「うっ、うううっ!!」
「おおおっ! おおおおおっ!!」
ギリギリと鍔迫り合いするかの様に、2人の拳が衝撃波を生みつつぶつけ――2人は吹き飛ばされ、地面にたたきつけられた。
「はあああっ!!」
「でやああっ!
それをモノともせず、2人は駆けだし――
正輝は右拳を握りしめ、宇宙は身体を反転させ――拳と蹴りがぶつかり合った。
――一方で。
「――随分と偉くなったな。あの時の冷徹女が」
「――上級系譜に至っていないとはいえ、貴女に殴られたころとは違います」
「人聞き悪い事言うな。あの時何したか、忘れたとは言わせねえぞ!」
宇宙がまだ正輝と衝突する前。
綾香は目の前の女性――智香が率いる部隊と共同での任務につき、そこで衝突した事があった。
追い詰めた犯罪契約者が人質を取り、勇気側が攻めあぐねている所を――容赦なく、人質ごと吹き飛ばした事で。
「あの程度――人は平和を実践できなくても、死ぬ事は出来るでしょう」
智香は強硬派閥――九十九に近い思想の持ち主である。
「――お前らに、情と言う物はないのかよ?」
「欲望のままに差別と暴力の渦巻く、汚らわしいだけの歴史を繰り返そうとする者達をかばう輩に、情だなんだと言われる筋合いはありません」
そう吐き捨てるように言いながら、レイピアを構える。
「私も上級系譜まであと少し。やれないことはありません」
今回の登場キャラ、冬野智香は――
夏目綾香を反転させたキャラとして、イメージしてみました。




