第79話
始まりと終焉は、常に唐突にやってくるものである。
「――めんどくせえ」
雰囲気がものぐさその物の、覇気を感じさせない表情。
更には色々と怠っている事がわかる、だらしなさを隠そうともしない着崩した服装に、ぼさぼさの髪とにきびやらが目立つ肌。
しかしそれらを払拭し、頂点であるイメージを湧き立たせる要素
まずは、彼自身の3m級の身体を一回り大きくした位の直径を持つ、巨大な鉄球。
それから伸びる人の指どころか腕くらいに太い鎖を、大木を粗く削った様な右腕に何十回とも巻き、それらを含め片腕で軽々と担いでいる事。
そして、眼前の敵に対しボサーっとした雰囲気を纏いつつも、敵への警戒と隙を探る狩人の眼である事。
その後ろに従える傘下の契約者達を腕で制し、最前線に佇む男。
怠惰の契約者、荒川公人
「――さて、行くか」
その荒川公人とは対照的に、こちらは覇気に満ち溢れた表情
一本線の切り傷が走る凄味を与える顔の瞳に、強い意思の湛えられた男。
合成獣と思われる銀色の毛皮のジャケットを素肌に直接はおり、ダメージ加工を施したジーンズをはき、獣の爪を模した銀色の篭手を付けた手に握られている、3mある身長の2倍はある巨大な斧。
こちらも同様に、従えている傘下を手で制し、単身前へと出向く男。
希望の契約者、鳴神王牙
最強の14人でも3mクラスの巨漢同士が揃うその様は、距離が離れていても圧巻。
両名の傘下達は見るだけで息を呑む。
――その次の瞬間。
「めんどくせえ――“超重隕石”」
公人がいきなり、右腕にくくりつけられた極太の鎖を握りしめ、軽く左に振るって一歩踏み込んだた後に、横なぎにブンと振るう。
その鉄球には、公人の能力で重力場が纏われており、契約者随一の怪力も手伝って隕石を思わせるような豪速で振るわれ――
『うわあああああああああああああああああああああああああっ!!』
鉄球が通過した地点は、公人と王牙の立つ位置の中間――まだ数十mの開きがある。
だと言うのに、振るわれた鉄球が引き起こした衝撃は、希望傘下の下級契約者、合成獣を、ほぼすべて紙きれのごとく吹き飛ばした。
「くっ、うううっ……」
『ひひーーーんっ!!』
「踏ん張れ! 耐えるんだ!!」
その一部、系譜クラス以上は吹き飛ばされず、かろうじて耐えきっていた。
ただし、下級系譜に位置するレベルの契約者達は、各々の能力を全開にして何とか耐えきる者も居れば、耐えきれず吹き飛ばされる者と様々
希望自慢の突撃部隊、合成獣メガホースを駆る通称熱血騎馬軍もまた、こらえつつも耐えきれず吹き飛ばされる馬や騎手が出ていた。
「うっ! うぅぅっぅうう!!」
「ぬううううううっ……ド根性おぉぉぉぉおおおおおっ!!」
希望の上級系譜達。
熱血の契約者、赤羽竜太
彼は愛用の片手剣とハルバードを交差させ、防御の体勢を取り難なく耐えきる。
そして熱血騎馬軍団長、根性の契約者、名取雄太
彼の跨るメガホースは最も屈強であり、彼自身もそれを乗りこなせる屈強な身体もあり、耐えきる事が出来ていた。
「…………」
そんな中で、ただ1人。
王牙だけが自然体のまま、立ちはだかっていた。
「制止に来たのはいいが、来るのが遅過ぎだ昴」
「――すまなかったね。これでも急いだんだけど」
その後ろ。
今だ人や合成獣すら巻き上げ続ける暴風が巻き起こる中で、平然と歩く1人の男――知識の契約者、天草昴。
公人の不意打ちは、彼の接近を気付いたが故の物だった。
「――お前なら気付いているだろう? 事の発端に」
「――そろそろしびれを切らす頃だと思ってたけど、まさかここからだなんてね。ごめんけど」
「謝罪せずとも、加勢ならいらん。元より公人はワシの対、ワシが相手をするのが筋と言うものだ――すまんが」
「――わかった」
ふっと光が掻き消えるかのように、昴はその場から姿を消した。
「――さて」
王牙は振り返る。
「うっ、うぅっ……」
「大丈夫か、しっかりしろ!」
上級系譜や、下級系譜の実力者こそ無事だった。
しかし自慢の熱血騎馬軍や、下級契約者の大半に被害が大きく、死にこそしていない物の完全に総崩れの状態。
「竜太、雄太、早く陣形を……」
「――めんどくせえ」
「――!」
そこを見逃す公人ではなく、第二撃を構え――
「――“超重隕石”」
「“一騎当億”!!」
轟音が響き、周囲を薙ぎ払う衝撃波が生じる。
その中心で、公人の重力場を纏わせた鉄球に、爆発の力を纏わせた斧をぶつけ、相殺する王牙――その2人が対峙していた。
「二撃目など許すと思うか?」
「――めんどくせえ……毒島、動揺が崩れないうちに速攻の後、戦線を展開しろ」
「了解ダ!」
怠惰の上級系譜、狡猾の契約者、毒島彰
それに指示を飛ばし、その指示に従い総指揮を執り始める。
「ちっ……」
「めんどくせえ……よっと」
「! うおっ!」
ダンっと公人が踏み込み、ぐっと鉄球を押し切る様に力を込める。
王牙は力比べになれば分が悪い為、距離を取り――
「んんんんっ!」
「――うぅ~っ……」
両名共に、武器を持たない左拳を構え、その拳に互いに爆発と重力の力を集中。
「! ヘッド達から離れロ! 巻き込まれるゾ!!」
号令がかかるも、時遅し。
距離があるにも拘らず2人の拳が突き出され、拳から発する重力と爆発のエネルギーがぶつかり――
「うっ、うわあああっ!」
「ぎゃああっ!!」
近くにいた怠惰の軍勢を巻き込み、辺り一帯を吹き飛ばす。
「――今のうちだ、俺が前に出る。雄太は体勢を立て直す指揮を」
「わかった」
その衝撃が収まらぬ内に、上級系譜2人が軍勢を立て直すべく奮闘。
「げぼぉっ!!」
――しようとした直後、何かが吐き出される様な音。
竜太が気付いて回避した途端、先ほどまで経っていた地面が溶解していく。
「ケケケッ、一戦願おうじゃねーかヨ」
「よかろう!」
怠惰の上級系譜、狡猾の契約者、毒島彰。
その名の通り、体内で生成した毒を吐きだしそれを操る能力を持つ。
毒の製造方法は――
「ぐっ……ぐぐっ……げぼぉっ!」
体内に蛇、蠍などの有毒性の合成獣を棲ませ、“蠱毒”の要領で日々より強力な毒を生成し続ける。
当然その扱う“合成獣”は、上級系譜を相手にできるだけの力はある。
「“噴射槍”」
吐き出される様にして姿を現し、口内から伸びるかのように襲いかかる大蛇。
それを迎え討つべく、竜太はハルバードを構え、ぶつける。
「へへへッ。俺の能力“進化する蠱毒”の毒と合成獣攻撃ニ、どこまでついてこれるかナ?」
「ぬかせ!!」
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
王牙は爆発の力を使て加速し、公人に飛びかかる。
足に爆発の力を纏わせたまま、飛び蹴りを放ち――
ガシイィッ!!
「っ!」
「――めんど、くせえ」
公人に受け止められた。
「――めんど」
「うおぉっ!!」
「くせえ」
勢いが殺されぬ内に、公人はその足を掴んだまま引き寄せ、王牙の腹にパンチをブチ込み、つきあげる様に王牙を頭上に担ぎあげ、地面にたたきつけ――
「めんどくせえ」
追い打ちをかける様に、公人は足に重力場を纏わせつつ振り上げ、思い切り踏み降ろす。
ガシィッ!
「――調子に……」
「めんど――!!?」
「乗るんじゃない!!」
「くせ――」
――が、その足を受け止めた王牙が、公人の体勢を崩しつつ起き上がると同時に担ぎあげ、思い切り地面にたたきつける様に振りおろす。
「――めんどくせえ……いてええ」
「まだめんどくせえが先に出るか」
「……めんど……くせえ……」
ボキボキと両拳を鳴らし、首をこきこきと鳴らしつつ回す。
そして右腕の鎖の束をほぼ力ずくで外し、更に上着を脱いで鉄球と共に捨て――ちょいっと人差し指で“来い”と言わんばかりのジェスチャーをとる。
「――ほうっ」
王牙も意を汲み取り、斧を地面に突き立て脱いだ上着を斧の柄にかける。
「よかろう」
「――めんどくせえ」
ブンっと拳が繰り出され――ぶつかり合った。
――所変わり
「見事ドンピシャだな――まさかと思うが」
「私がいつ扇動を指示し、お前はいつ実行した?」
「アンタ自身が動いた可能性もあるだろ」
「――考えてからモノを言え。この戦いで、私に一体何をしろと?」
「そっちにしか分からん何かがあるかもしれんだろうが。アンタは気まぐれなのか作為的なのか、意味があるのかないのかすら、全く分からん事を普通にするだろ」
「くだらん妄想をするな。私は現状に対し、今以上の物を欲するつもりも、北郷に代わり世の要の中心に立つ気もない」
傲慢のナワバリにて。
指示されていた希望と怠惰の監視に出ていた、暗殺者ベルグは報告の為戻っていた。
――相変わらず、白夜が何を考え何の為に行動しているのか、わからないままに。
「――だとしたら、どういうつもりで俺に監視を指示した?」
「ナワバリの運営は、情報の最先端に立っていた方がやり易い」
「……で、どうすんだ?」
追求した所で無駄だし、聞きだしたとしてもそれが真意である保証は全くない。
そう判断したベルグは、これからの指針を問う事に
「今は静観だ。ナワバリの防衛に専念する」
「また正義の動向は無視か」
「――人の進める未来は、現状2つしかない。その1つを潰す程、私は愚かではない」
「2つって……」
「北郷の指し示す……いや、指し示さざるをえなくなった、欲望を斬り捨てた正しき世界を実現し、生きるだけの存在になるか。はたまた北郷を否定し、差別と暴力の渦巻く混沌の世界として滅びるかだ。まあ契約者の今の技術ならば、生きるだけの存在になった所で問題などないだろうが」
「一条宇宙の事は?」
「――あの男がどんな方針を掲げた所で、現状では無理だ。北郷の方針でなければ秩序を守れない……逆を言えば、人は既に末期寸前であると言う事」
「末期寸前って……」
「末期ならば、北郷のやり方でも秩序は保てはせんし、正義から許す選択肢と守護者の意思を奪ったのは、他ならぬ人――それを理解出来ない……いや、しようとしないなら、誰が何をやろうと同じ事」
ベルグに1枚の紙を差し出し――
「――“弱さは罪”……弱者が行きつく先が現実となったのが、今のくだらん悲劇に満ちた世界だ」
白夜はそれだけ言い捨てると、その場から姿を消した。




