第77話
「――理解は、してもらえないんですか?」
アキの言葉。
――それに続く様に、ひばりが太助に問いかけた。
「おかしな事を聞くね?」
「願う先は同じはずです」
「ああそうだね――けど、君達の目指す未来を賛成する訳にはいかない」
「――何故です?」
「それが出来るなら、最初からこんな事になってはいないからだよ――第三次世界大戦が終わった時点が、君等の願いのタイムリミットだ」
「誰がそんな事を決めた? 今からでも――」
「遅すぎるんだよ――もう僕達の方針を止める資格なんて、誰にもありはしない」
有無を言わせない――そんな雰囲気で、太助はそう言い放った。
――その横でクラウスも、沈痛な表情でこくりと頷いた。
「なんでそんな事が言えるんですか?」
「――じゃあ聞くけど、僕達だけを否定する理由って何?」
「――どういう意味だよ?」
「僕達の方針なしで平穏に暮らす事が出来ないのに、何故否定するのかを聞いてるんだ――もっと考えて立ちまわれば、こんな事にならずに済んだのに」
「――もっと考えてればって」
「僕達に考え直す余地を提示できる機会は、あった筈だけどね――正輝様が大神白夜と戦った後の事とか」
北郷正輝と、大神白夜の戦い。
そう言われて、ひばりにも綾香にも苦い記憶が頭をよぎった。
――核兵器、毒ガス。
それらが平然と使われ、大罪や美徳が直々に出向いての鎮圧が必要となる程の、大乱世。
「――これでどうして僕達を否定出来るのさ? 自業自得を全部僕達の所為にしてるだけじゃないか」
「だからって、やっていいことと悪い事があるだろ!」
「だから、それで僕達だけを否定する理由は何って聞いてるんだよ。九十九だって元々は、アニメのヒーローに憧れるいい奴だったのに」
「なっ!? ――嘘つけ! それがなんでああなるんだよ!?」
「夏目さんは下がっててください。平行線ですから」
「……わかったよ」
アキに言われ、渋々と下がり――
「――申し訳ありません」
「いや――なあクラウス、あんたは……」
「私は神と正輝様に忠誠を捧げた身――異を唱えるつもりはありません」
「――そうか」
クラウスの所で、話を始めた。
「――ぬぼーってしてる割に、意外と激情家だね。まさか真正面から綾香ちゃんに反論するだなんて」
「――欲望や暴力に晒され続けた結果でしょうね。欲を持つ事を忌み嫌い、あくまで自分の役割を果たすことだけに拘っている……そんな感じでしょうか?」
「――これもまた、あたし達が向き合わなきゃいけない問題……なんだよね」
「――ええ」
2人でそんな会話を交わしている間に、太助はカルテを挟んだバインダーを取り出し、作成し始める。
「――貴方は医者でもあるなら、命に対する価値観くらいはあると思っていたのですが」
「そりゃあね――僕だって医者なんだ。僕の手で守れた未来、救う手段を提示できる事は、素直にうれしいとも誇らしいとも思うよ」
「なら――」
「――だからこそ、永遠の平和を創らなきゃいけないんだろ。欲望を斬り捨てた正しい世界なら、それが可能だ」
「それは違います――欲望は生きる為の燃料です。あれが欲しい、あの人に勝ちたい、この人には負けたくない、死にたくない、裕福になりたい、幸せになりたい――そういう者があるから、頑張って行けるし生きていけます。欲望自体が悪い物じゃない筈です」
「――それが出来ないからこうなってるんだって、なんでわからないかな?」
いらついた雰囲気で、太助が怒気を含んだ声でそう言い捨てた。
「出来る人だっています。そういうのまで――」
「人の意思なんて侵されるものさ。第三次世界大戦の終結がいい証拠だろう? ――子供に救われたって言うのに、ただ乾くばかりで戦いを終わらせた意味なんてないじゃないか」
「子供に救われた世界――その事実に、随分と執着してるのですね」
「するさ――14人の子供達が成した事って、結局何なんだよ? ……もう人は楽園を創るだけの技術も基盤も手に入れてるのに、なんでここまでしないと秩序を担えない事を気にもかけないのさ?」
「……」
「食い荒らされる社会に、喰い合い続ける人間――願う理由も競う理由も曖昧かつ勝手で、ただひたすらに乾くばかりじゃ、欲望なんてもう呪いじゃないか――生きる事“だけ”を尊重するんなら、人なんてもう終わった方がいいよ」
カルテを作成し終え、太助はそれをしまう。
「――甘く見ていたかも知れません。ですが、私達は諦めませんよ」
「はい――貴方がそこまで考えた上で従事してるなら、あたし達だって」
「……そう」
「しかし、何故そこまで?」
「単純に、ここで起きた事を無意味にしたくないだけだよ」
ふと太助は、最も大きなクレーター。
――おそらく、そこで決着がついただろう地点に目を向け
「――14人の子供達は、世界を救った。首相は子供達と共に1時代を築き上げ、そして人は、延々と乾くばかりだった……それが第三次世界大戦の終わりが齎した物だからね。せめてここで起こった事は、系譜としてしっかりと受け止めるべきで、受け止めさせるべきだと思ったから」
「――そうですか」




