第76話
我ながら、長くなってるなあ――と思います。
ですが、討論的な闘争というのもこの戦記作品の、1つの戦いとも思うのです。
そういう意味じゃ、GAUさんのオリキャラと正義側は絡め易いし、対立させやすいのです。
「――あの」
「譲歩出来るのは“攻撃しない事”のみ――君達が敵である事にかわりはないよ」
「けどよ……」
「その延長線上での事だ。君達を責める気はないし、施しを受け取る理由もない――それで充分だろ」
“攻撃しない事が、最大限の譲歩”
それを順守し、あくまで差し伸べた手を取らない。
頑なに拒む太助に、ひばりも綾香も何も言えなくなる。
「――頑なですね」
「――勘違いしないで欲しいね。さっき攻撃しなかったのは、ここを傷つけたくなかった事と、デストラクターの武装を知られたくなかったからだ……君を傷つけたくなかったのもあるしね」
「そうですか」
失血で多少血色が悪くなっているにも関わらず、会話する間も太助の手は止まらない。
銃創、それも貫通しているというのに、太助は動揺する事も痛みに顔を歪める事もなく、冷静沈着に応急処置を施す。
「――技術者とは思えないふるまいだな」
「まだ出血は致死量じゃないし、これ位の痛みならとうに慣れてる」
「そうかよ……なあ」
「ん?」
「――アンタがそこまで拘るのって、やっぱり……」
「キズの事なら昔の話だ。それに恨みで動くなら、医者に何てなってない――そう言った筈だけどね」
そう言って、自身のブレイカーを晒し、綾香につきだす。
――正義の系譜、忠義のブレイカーを。
系譜のブレイカーが使える事
それがどういう意味かは、同じ系譜――その中でも限られた、頂点に最も近い上位の契約者として、十分に理解はできている。
「単純に僕自身が正輝様の指し示す、欲望を斬り捨てた正しい世界を支持してるからだよ。契約者の技術さえあれば、食料や資源で争う必要はない。後は欲望さえなくなれば、永遠の平和が訪れる」
「私達には許容できませんね。その為に犠牲を払う事も、欲望を斬り捨てる事も」
「全部必要な犠牲だし、欲望ほど平穏に必要ない物もないよ。正しい世界――正義が行う統制の管理下で、平穏な暮らしを徹底させる永遠の平和の為に、必要な犠牲だ」
「強制された平穏があるかよ!」
太助の吐き捨てるかのような発言に、綾香が激昂し怒声を上げた。
流石の太助も貧血気味の頭には応えたらしく、処置をする手を耳に当て少しよろめく。
「大丈夫ですか?」
「――クラウス、血液パックと食糧持ってきて」
「はっ、はい!」
「――悪い。大丈夫か?」
「――話の続きは、輸血終わってからでいいかな?」
――その後、太助の処置は終わり、こちらも自分の手で輸血を施す。
当然だが、ひばりの手伝うと言う声は一蹴され――
「――では私では……」
「いらない」
もしやと思っての、アキの手伝いも即決で断られた。
更に言えば、その後太助は食事に入ったが――
太助は持ち込んだ食料だけを食べ、ひばり達が提供しようとした食事には一切手をつけないどころか、見向きもしなかった。
「――ふぅっ……」
「……見事なまでに、あたし等の分食ってないな」
「施しは受けないと言った筈だよ――さて、続きと行こうか」
輸血と食事で、ある程度血色もさした顔になった太助は、続きを促した。
「――平穏ってのは強制された時点で、平穏じゃないだろ」
「そうですよ。平穏はもっと暖かで自由で、安心に満ちた物です。誰かの管理下で命の危機に晒されてる時点で、そんな物平穏じゃない」
「貴方達のやり方は、ディストピアにすぎません――さらなる悲劇を生みだすだけです」
3人の主張を聞いてなお、太助は表情を変えない。
「――買いかぶり過ぎたか……君達は違うって思ってたんだけどね」
――ただ、侮蔑か失望か。
それを感じさせるただ一言を、吐き捨てる様に呟きながら
「――そんなにあたし等の意見が気に入らないか?」
「うん、気に入らない」
「――どうしてですか?」
「第三次世界大戦終結後を、ハッピーエンドに出来なかった――そこを考慮してるとは思えないからだよ」
第三次世界大戦。
人類史の上では、最後の人同士の戦争と称される大戦であり――世界の大きな分岐点ともなった戦争
この戦争を終わらせたのが、現在で言う大罪、美徳の14人の頂点――最強の契約者。
――当時10かそこらの、子供達だった。
「――これ位は知ってるだろ?」
「当たり前だろ。その子供達――あたし達の宇宙兄、ひばり達のユウさん、アンタ達の北郷さんのおかげで、大戦は終わりを告げて今と言う時代を創ったんだ」
「あたし達はそれに感謝してるし、そんな人達について行ける事を誇りに思ってます」
「うん、僕だって同じだよ――“しかし人々は、そんな力を持つ子供達を恐れモンスターとみなし、家族や親しい人諸共に迫害しその存在を否定し続けました”」
2人の言葉に賛同の意を示し――太助はまるで物語でも読むかのように、そう言い放った。
――その被害者だけに、実感と言う名の説得力のおまけつきで。
「――ハッピーエンドなんて、所詮は物語の中だから可能なんだよ。自分たちには直接の関係がないんだからね」
「――確かに酷い物ですね……物語としては、最低です」
血まみれの白衣を上に羽織り、包帯を巻いているだけの上半身で露わになっている太助の身体――その刻まれた傷に、アキは目を向ける
「“しかしそんな人ばかりではありません。子供達を守ろうとする理解者が現れ、その理解者は懸命な努力と苦労を重ね、やがて子供達と共に契約者社会と言う新たな時代を築きあげました”――これは大事なところではないのですか?」
「――そうだね。これは失態だった」
「貴方が人を嫌悪し、そんな思いを抱いてしまった事は、無理もないかもしれません――ですが私も、子供に救われた世界で醜態などさらせない、位の理解はありますよ……命に意味を見出した事を、醜態になどしたくはないのですから」




