第8話
下着泥棒騒動。
一般人のみならず、勇気に憤怒の契約者にも被害者が続出。
更には巷で話題の下着泥棒の義賊団“パンツァー・ドラグーン”の仕業ともあり……
盗まれた下着は、モテない男たちへとばら撒かれている。
――憤怒および勇気の契約者にも、その施しを受けている者あり。
「てか、怒ってる理由が下着泥棒じゃなくて、泥棒って――」
「あはは~っ、誤解させちゃって悪かったな。でもお気に入りだったからさー」
「――と言うか、僕の方が恥ずかしいよ。これじゃあ」
「……もうちょっと女の子としての恥じらいくらい持とうよ」
あれから、綾香の説得(?)に奮闘し、周囲をなだめた後に朝食。
ただ、綾香が怒っていたのが、下着泥棒ではなく泥棒の方で、お気に入りのが盗られたとは言っても、金銭関連の事だった事に脱力。
それから周囲の契約者の女性達は、光一直々に捜査すると伝え納得してもらえた。
「光一預かりにするって言った途端、皆納得して任せたもんな」
「こういう所羨ましいよね」
「うんうん」
「――なんか別の意味で納得された様な気がするんだが?」
どうにも釈然としない物を感じた光一だった。
「所でタカ―」
「ん? 何?」
「貰ったのか? 施し下着」
「来てないよ!」
「そうか? よかったな。モテない男ってみなされた訳じゃないんだ」
「いや、鷹久がモテない男と認識されたら、間違いなくモテの度合いは存在しないって」
「それは過大評価過ぎだよ」
「そうだぞ。別に色男って訳じゃあるまいし」
いや、だってなあ……
と光一は言おうとして、やめた。
「でもあたしも捨てたもんじゃないな。盗られたって事は、美人ってみなされた証拠だ」
「下着ドロの被害で喜ぶ女なんて初めてだ」
「――だから、もっと恥じらい持とうよ。綾香ちゃん」
「――そうだよ。なんか僕まで恥ずかしいから」
「???」
総すかんの理由に気付かず、幾つも疑問符を浮かべる綾香。
しかしわからないならわからないでいいと決め、光一に問いかける。
「で、どうすんだよ?」
「憤怒側で捜索して処分するしかないだろ。綾香と鷹久は、俺達の分の通常業務頼む」
「ん、了解――ってちょっと待って! 今さり気に自分の仕事押し付けなかった!?」
「んじゃ、行くぞひばり」
「あっ、うん。って、あたしも?」
「男1人で下着ドロの調査やれと言うのか?」
――所変わって。
「――俺は、施しはなかったみたい」
「――あたしは盗られてた」
朝食後、一旦2人は自宅に帰って家宅捜索。
――光一の場合は施しがないか、ひばりの場合は盗まれてないかの確認のために。
「間違っても暴動起こすなよ?」
「――わかってるよ。それより」
「ん?」
「いつもなら、ここで光一君から小さい子もありなのかって茶化すと思ったのに」
「いや、俺だって場くらいわきまえるから。じゃあ早速だけど、被害者に聞き込み調査だ」
「あっ、うん」
――時は過ぎ。
「次は――ってここかよ」
「知ってるの?」
「修哉が通ってる中学校だよ。何人か被害に遭った子がいるって」
「中学生の盗むって……」
「いや、俺達も中学生くらいだけどな? ――それより、急ぐか」
校門をくぐり、一路2人は職員室へ。
今は休み時間の為、何人かの生徒がちらほらと見えるのを――
「ホントは、あたし達もあの中に居たかも知れないんだよね」
「――普通に未練がある?」
「それは、まあ――あんな事なかったらって、思うことあるよ? 別に今が不満って訳じゃないけどね」
「――俺はないな、微塵も。あの頃と違って俺には、生きる意味があるんだ。命かけられるボスがいて、ひばりって信頼できる仲間がいて、慕ってくれる部下がいる今の方が」
「……」
断言した光一に、ひばりは何も言えなかった。
「っと、悪い悪い。気分いい話題じゃなかったな」
「あれ、光一に支倉さん?」
「ん? 確か、佐伯和人だっけ?」
「どうしたの? こんな所で」
「仕事だよ。下着泥棒の調査」
あーっと、和人は表情を苦くした。
「? どうかした?」
「実は……」
「ん? おおっ、ひばりちゃんに――黒モヤシじゃねえか」
そこへ更に、声が割り込んできた。
振り向いた先には、顔を包帯で覆ったミイラ男がいて、ひばりは軽く悲鳴を上げ光一の後ろに隠れる。
「その声、たしかほおずりだっけ?」
「鬼灯だ、ほおずき! 気色悪い間違え方するな!」
「あっ、すまん。その顔、もしかして施し下着でも見つかってボコられたか?」
「んな訳あるか! なんで俺の所にそんなもんが……」
「じゃあポケットから零れ落ちてるそれはなんだ?」
「え!? ちっ、違う! これは施し下着じゃない!!」
「何もねーよ。てかそれじゃもっとまずいだろ」
カーッ! カーっ!
「テメ、ハメやがったな!?」
「だからやめなよ。契約者の上位、上級系譜相手なんだよ?」
「まあハメたのは悪かった、すまん。で、職員室どこ?」
「あっ、こっちだから案内するよ」
その後、教師つてに教頭、校長へと話を着け、許可をもらい――
女性教諭ツテに、ひばりが被害者とマンツーマン。
「やっほー」
「忙しそうね?」
そのマンツーマンの教室の前で、椅子に座って地図と手帳を見比べる光一。
声をかけたのは、江藤愛奈と佐伯紫苑の2名。
「2人も盗られたの?」
「うん」
「そうよ――許せない!」
「――宥めるのはもう勘弁なんだけど」
「? 何かよくわからないけど、大変みたいだね?」
「――ははっ」
光一の乾いた笑いに、2人も苦笑した。
「でも、態々上級系譜が2人も出張る事なの?」
「それは聞かないで欲しいな。色々とあるんだよ、組織にはね」
「ふーん。で、久遠さんはもらったの? 施し下着」
「貰ってない」
「ふーん……じゃあさ、ボクのを」
ガラっ!
「あっ、次誰?」
「ボクだね、じゃあちょっと行って来る」
「はーい」
愛奈が教室に入り、光一は改めて地図と手帳を見比べ始める。
「あの」
「ん? どうかした、佐伯さん?」
「紫苑でいいわ。少し相談があるんだけど、良い?」
「? いいけど」