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第75話

鎮圧と殲滅

相反する目的で攻撃し続ける2組は、数が途切れた途端に綾香とひばりの鎮圧したサイボーグの処遇を巡り、ひと悶着……


「――? いいのかよ、コイツ等」

「そっちが取り押さえた敵なんだ。そっちの好きにすればいい」

「――正義の一員にしては、話がわかるな」

「戦闘員と技術者じゃ、心構えが違うよ。クラウスは元々戦闘員じゃないし、僕はいわずもがな――それに、嘘偽りがない事は理解出来たから、僕に否定する理由はないしね」


は、意外な事になかった。


「――“汝、殺すなかれ”を破りし事を、お許しください」


――その傍らで、クラウスは祈りをささげていた。

自身が葬った者たちへの祈りと、自身が正義の為と言えど牧師として破ってはならない戒律を破ったことへの懺悔の為に。


「しっかし、狙いがまさか東城博士の暗殺とはな――でも、サイボーグ40体に加えて全身サイボーグ10体って、幾ら系譜だからって技術者1人に大げさすぎないか?」

「それはそうですよ。正義を指示する理由の1つは、太助さんのおかげなんですから」

「まあ、わかるけどさ――あんな危なっかしい物造る変態科学者であっても、サイボーグ義肢と人工培養皮膚外装の開発でたくさんの人を救った、尊敬すべき人なのは事実だし」

「――変態は酷いですよ」


実際太助は、義肢を必要とする人や皮膚病患者からは、人気は高かった。

と言っても、本人は功績や栄光に全く興味がない為、その事は全く知らないし知ったとしても“だから?”な態度。


「多少は理解出来た……と見てよろしいのですか?」

「そう言う考えの下で何とかしようとする――その意思が偽りじゃない事だけならね」

「考えその物を受け入れる気まではないと?」

「君達の考えは、世に理解されねば意味がない――そして世は、それを理解出来る様な器量を持ちあわせていない」

「――決めつけるのですか?」


アキの問いに、無言で太助は頷いた。


「――貴方も同じ意見なのですか、クラウスさん?」

「ええ、支倉さん……しかたがないと考えております」

「――あんたは話がわかる。そう思ってたんだけどな」

「それとこれとは話は別ですよ、夏目さん。私自身も、優先すべきは今の世を正輝様の正義の下で統率する事であり、人の命の価値はその後に取り戻すべき――そう考えております」

「つまり後回しかよ」

「ええ、そうです――“汝、隣人を愛せよ”。今の人と言う種ではこの言葉に意味を持たせる事は、不可能であると考えておりますので」


――その傍らで、ひばりと綾香はクラウスに問い詰めていた。


基本的にクラウスはスタンダードな牧師であり、基本的に温厚な人格者である。

その為、強硬思想の強い正義の中では、対外交渉役や重鎮に来賓といった重要人物のボディガードとして、正輝に重宝されている


「貴方達は私達の意見を受け入れる事は出来ない――そう仰るのですね」

「神に仕える身としてあるまじき姿勢である事は、重々理解しております――ですが私も正輝様に大恩ある身であり、今の世を正せるお方は北郷正輝様ただ1人と確信する者達の一員。その御方の方針がそうであり、それが世の秩序の要に成り得ていると言うなら、それに従うまでです」

「見事なまでに模範的な答えだな。まあ、クラウスらしいっちゃらしいけどさ」

「あの、東城さんは……」


ドンっ!!


「――っ!!?」

「え……?」


ひばりが問いかけようとした途端、突如響く銃声。

次にひばりの五感に飛び込んだのは、問いかけようとした相手の腹が撃ち貫かれ、倒れ伏す光景。


『ヒャッハアッ!! 任務完了ダゼ!!』


更に機械的な声が響き、振り向いてみれば先ほど捕縛したサイボーグの1体。

それが、肘から先を銃その物にした様な腕を、こちら側に構えていた。


――足元に、本来その先にあるだろう腕の義肢を置いたままで。


「太助さん!?」

「そんな! 手足縛って武装は全部壊した筈なのに!?」

「あっ! 綾香ちゃん、あのサイボーグの足もと!」

「ん? ――あっ! くそっ、ダミーの腕で誤魔化してやがったのか!?」


「――っつぅっ……」


撃たれた腹を抑えながら、太助がゆっくりと起き上がる。


「ンダア!!? オイコラバケモノォッ! シブトク生キテネーデンジャネーヨ!!」


それを見たサイボーグは激昂し、再び銃の腕を構え今度は太助の頭に狙いを定め――


「サッサトクタバッテ広大ナル大地ノ贄ニナリヤガ――」


グシャアッ!!


クラウスの思念獣メタトロンに頭を握りつぶされ、絶命した。


「――何と言う事だ……太助さん、大丈夫ですか?」

「騒がないでくれないかな? 致命傷じゃないから、すぐ治療すれば問題ないよ」

「いや、なんでそこまで冷静なんだよ!?」

「出血は致死量じゃないし、骨や内臓に異常はない。技術畑でも系譜の契約者なんだから、ただ痛いだけなんだけど」

「じゃあすぐに手当てを……」


ひばりは太助に手を差し伸べるも――。


「――いらないよ、自分でやるから」

「でも、銃創ですよ?」

「君は医療系じゃないだろ。クラウス、僕の医療道具持ってきて」

「ええ」


クラウスが立ち、太助の医療道具を取りにいったん場を離れ――。


「あの……」

「致命傷じゃないって言っただろ。そんなに深くはめり込んでないよ」


太助はその間、羽織っている白衣で傷を抑えつつ、“接触感応サイコメトリー”で、傷の診断。


「太助さん、こちらを」

「――ああ、ありがと。さて……」

「ひゃっ!」


太助は治療の為に上着に手を掛け、脱ぎ始める。

アキと綾香は平然とする中で、ひばりが軽い悲鳴をあげて、手で目を覆い隠す――事は出来なかった。


「――!」

「え……!?」


ひばりもそうだが、綾香も目を疑った。

太助が露わにした上半身は、先ほど刻まれた銃創以外にも、幾多もの傷跡刻まれていた。


刺し傷、切り傷、火傷ならまだ良い方。

酷い物では、ネジ穴や焼き鏝跡と言ったあり得ない傷跡まであり、その異常さに綾香もひばりも目を見開いていた。


「何? ――ああ、これ? 人の醜さの証明だよ」

「人のって……まさかそれ」

「僕は北郷正輝の――14人の1人の幼馴染だからね。標的にされた」


第三次世界大戦終結。

それを導いたのは、後に大罪、美徳と呼ばれる14人の子供達。


――その14人を恐れ、忌み嫌う者達はその14人の子供たちの血縁、あるいは親友に至るまで迫害を行った。

後の世――つまり現在で言う、大地の賛美者の前身にあたる者たちの始まり。


「――全部奪われたよ。帰る場所は焼き払われて、家族も皆殺されて、僕はこうして傷を刻まれて……そう言う意味じゃ、君がそうなったのはある意味幸いかもね。来島アキ」


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