第74話
「だから何だよ?」
太助の言葉
間髪いれず、綾香は批判の言葉を叫んだ。
「そう言われて“はいそうですね”何て言って尻尾巻いて逃げるんなら、最初から宇宙兄についていきゃしねえ!!」
「だろうね。君、聞き分けも頭も悪そうだし」
「頭は余計だ!!」
そう言って、綾香は愛用の双剣を抜き構えを取る。
――太助を守る様な立ち位置で。
「――いいの? 僕が死ねば、技術面で正義に大打撃を与えられるのに」
「アンタ見殺しにしたらあたし等の負けだろうが!! そんな事になったら後味悪い上に寝ざめ悪いし、何よりこれまでのすべてを捨ててまで守ろうとした宇宙兄に――」
「ん、わかった――で、なんで君まで」
「合わす顔――っておい! 最後まで言わせろよ!!」
綾香の言葉を遮り、呆れた様な視線を向けながら、綾香のとなりでこちらは金属棍を手に構えるひばりに問いかけた。
--綾香の怒声を無視して。
「“命が大事”を誰一人実践できない――そんな事、絶対に二度と言わせない」
「君1人に変わった所で」
「1人じゃない――それで十分です。命の価値が唾まみれで足跡だらけのまま、未来を迎えられない……そう思う人を2人にも3人にも……」
「――DT-0、起動」
――また言葉を遮り、太助は端末を操作しデストラクターと呼ぶアンドロイドを起動。
先ほどの光景が脳裏に浮かび、咄嗟に身構える綾香とひばり
「――ターゲット選定、サイボーグ。契約者を選定から一時除外」
『了解――ターゲット、サイボーグ。悲愴ノ契約者、支倉ヒバリ――ターゲット除外』
「-―! 東城さん、わかって……」
ズドンっ!!
太助に理解してもらえた。
ひばりがそんな期待を抱き、声を掛けようとし――爆発音が響く。
――そこには、デストラクターが右腕でサイボーグの頭を潰す光景が。
「――譲歩出来るのはここまでだ。クラウスも、わかってるね?」
「ええ……メタトロン」
5mを超す天使が、ブンっと音が鳴る勢いで手を突き出し、サイボーグを掴む。
重量級を思わせる体躯の腕に掴まれ、振り上げられたサイボーグはその勢いのまま地面にたたきつけられ、絶命。
それに躊躇せず、武装を展開し飛びかかるサイボーグの集団は――。
まるでおもちゃの様に簡単に壊され、紙の様に潰され、怪獣映画を思わせる様な一方的な蹂躙劇の標的となるだけだった。
正義としては珍しい穏健派的な思想と言えど、クラウスは正義の上級系譜。
戦闘となれば、九十九とほぼ互角に渡り合える程の実力者
「――正義として、敵をせん滅するやり方は譲る気なしかよ」
「正義の人から譲歩を引き出せただけ、今はまだ良いって考えようよ」
「――そうだな」
九十九との相対が頭に浮かび、全く話を聞こうとしなかった分まだ良いか。
そう割り切り――
「んじゃ、いっくぜー! “幻想舞踏”!」
「行きます! “属性武装・風杖”!」
綾香の像がゆらりとぼやけ、その次の瞬間実像と虚像の入り乱れた戦士の軍団が――
新しい武器、棍を杖のように構え、先端に風を小さな竜巻の様に纏わせ――踊る様に振り、風をその動きに合わせるかのように、ひばりは舞い踊らせ――
サイボーグ軍団に向け、飛びかかった。
「…………」
「気になりますか?」
「……ちょっと面喰っただけだよ」
「まだまだ捨てた物じゃない――そうは思わないんですか?」
「そんな段階ですらないよ――命の価値を取り戻した程度じゃ、始まりに至る為の始まりにすぎない。本当に未来を案じるのなら――」
『貴様等契約者ハ皆殺シニナルベキダ!!』
全身サイボーグ――軍団のリーダーと思わしきサイボーグが、ドリルを装着した右腕を振り上げ突進。
敵意むき出しの叫び声同然の声でそう叫び、太助の脳天をめがけ振り下ろす。
「クエイク」
『Mission Start!』
アキがクエイクに指示を出すも、このタイミングでは間に合わない。
「――やれやれ」
危機が迫っていると言うのに、太助は表情を崩さない――どころか、面倒だと言わんが仮にため息をつきながら、絶縁グローブを手にはめる。
――その次の瞬間。
「……えーっと」
太助はゆっくりと相手がドリルを振り下ろす動作に同調する様に、ゆっくりと身体をそらして回避し――。
「ここだ」
バギッ!!
いつの間にか手に持っていた医療用ナイフを、サイボーグの首の付け根の後ろに突き立てた。
バヂっと火花が散り、太助はナイフから手を離して下がる。
「ナッナ……ンDA……Aレ? おGAJI-ナー……??」
「――愛用の医療用ナイフ。こんな事に使いたくはないんだけどね」
――火花が治まると、サイボーグ自体が機能不全を起こし更にその場に倒れ伏した。
太助はそれに堂々と歩み寄り、自身愛用の医療用ナイフを抜くと、その刀身をゆっくりと消毒しながら太助はサイボーグを見下ろす。
「心配しなくても、修理すれば動けるよ」
「……何をやったんですか?」
「脳と駆動システムを直結するコードの類を切断しただけだよ。サイボーグは元々は僕の開発した技術。改造を施した所で、構造を知り尽くしてる僕にとって造作もない事だし、人の構造は最低限の知識。動きから軌道を予測する計算の確立は、かなりの時間と苦労を費やしたんだ」
そう吐き捨てる様に言い放ち、太助はそのサイボーグから完全に意識を外した。
「それより、けがはない?」
「平気ですよ――それで、殺さないのですか?」
「1度殺すと、自分を保てなくなりそうだからやらない。それに僕は技術班長兼医療班長で、戦闘員じゃないんだ。そんな権限、正輝様から与えられてないよ」
「意外ですね。貴方はぼけーっとしてる割に激情家ですから」
「秩序のない、あるいは失った人間の身勝手さ、意地汚さ、醜さなら文字通りに身体に刻み込まれる位に理解してるからね――ああはなりたくないし、何よりそうなった姿をき……正輝様に見せたくない」
そう言って、太助は端末を取り出し操作を始める。
どうやら、サイボーグとの戦いでデータ収集するつもりと判断したアキは、呆れたように溜息をつく。
「良い根性してますね。あのサイボーグ達の標的は貴方だと言うのに」
「命を軽く見る人間が自分の死を恐れてどうするのさ?」
「正論ですが、普通は実行できませんよ」
「でなきゃ正義に意味なんか生まれない」
――と、言いたいところだけど
と言って、太助は不自然に言葉を切った。
「――全部終わったら医者に専念するつもりだよ。サイボーグ義肢はまだまだ研究途中だし、平和になってもケガや病気はなくならないしね」
「そうですか」
「何も言わないの? あれだけの事をしでかしておいて――とかさ」
「ありませんよ。まあ命を軽視する貴方が医学だなんて、不自然な話ではありますが」
「そうだね、僕にとっての命や人なんてそんな物だよ――けど正輝様が示す未来が実現し、人が変わる事が出来るなら、僕も人を許……見直さなきゃいけない」
「――そうですか」




