第72話
『悲愴ノ契約者 支倉ヒバリ確認――抹消スル!』
「――! ひばり、危ない!!」
「え?」
綾香が不穏な物を感じ、ひばりを抱きかかえ“瞬間移動”
その次の瞬間、太助とクラウスの背後のマントで全身を覆い隠した何かが、マントを突き破って機械の左腕を突きだし――
「――! 今の、まさか“知識”のレーザー……?」
ひばりが先ほどまで立っていた場所に、光の線が描かれ地面に到達した途端に爆発。
――その次の瞬間、ひばり達が少し離れた所に姿を現し、それを確認した途端
『ターゲット発見――追撃開……』
「DT-0、コード00175実行!」
『マスター声紋照合パス――コード00175実行』
マントを全て破り、背のブースターを展開しつつその姿を現した。
2mはあろうかと言う身長に、全身は人間の成人男性平均の一回り太めの体躯
例外としては、肩から伸びるポンプと腕とで繋がった、リボルバー拳銃のシリンダーを腕の3倍は太くした上に、衝撃吸収用と思われるシリンダーを周囲に取り付け、二の腕そのものにした様な右腕。
更に、掌の表面にレーザー射出用と思われる穴が開き、こちらも二の腕に冷却装置や排熱口と思われる装置が取り付けられ、異様な様相となっている左腕。
その両腕だけが際立っている、1体のロボットが――。
太助の声と何らかの指令コードを受領し、機能を停止した。
「――“デストラクター”に停止コード出して上陸するべきだったな。“デストロイヤー”を使わなかったのは行幸だけど、“パニッシャー”のレーザーを見られるなんて」
ガシガシと頭をかき、ぼやきながら太助は先ほどの騒動を意にも介していない雰囲気で、小型端末を取り出し、操作。
「――お2人とも、大丈夫ですか?」
そんな彼に代わり、クラウスがひばりと綾香に駆け寄り、安否を確認。
「あたしは大丈夫。ひばりは?」
「うん、あたしも――でも驚いたよ。いきなり、それもあんなに早いレーザーを撃ってくるなんて」
「……レーザーなんて、一体そんな物搭載した兵器作って、何する気だよ?」
綾香はクラウスに、問いかけるような視線を向ける。
――が、クラウスは柔らかな笑みを浮かべるいつも通りの表情で、何も語らない。
「良いよクラウス。知られた物はしょうがない」
「太助さん」
「これは防犯用アンドロイドとして開発した物だよ」
その言葉に綾香にひばりもそうだが、アキは納得はしなかった。
目の前のこれはどう見ても、そう表現するのはあまりにも無理過ぎる。
「装備が物騒過ぎるでしょう。左腕もそうですが右腕は衝撃吸収シリンダーやサスペンションで固めてる事、拳の造りが頑丈である事から、恐らく指向性の爆発か衝撃波で直接攻撃する近接兵器ではないですか?」
「――流石は来島アキだよ。まさか構造で見抜くなんて」
太助は感心した様な声を上げるが、アキはさらに続ける。
「“防犯”と銘打つからには量産し配備するつもりでしょうが、こんな物に監視される世が平和だなんて思えませんね」
「平穏と秩序は別物だし、世の為と人の為――全と個は絶対に両立しないだろ」
「――平穏を齎し、人を守るつもりはないと?」
「僕が守りたいのは秩序と未来であって、人じゃないよ。更に言えば“命は大事”――そんな誰1人として尊重しようともしない物の為に、無駄な時間を費やす気もない」
「とてもサイボーグ義肢と人工培養皮膚外装の開発で、何千何万という人生に光明を与え、救った程の人の言葉とは思えませんね」
「人を救う事に意味なんてないよ」
ひばりも綾香も、太助のいい分には嫌悪感を感じずにはいられなかった。
――当然、アキも。
「――夏目綾香も、えっと……そっちのおちびちゃんは、支倉ひばりだったかな?」
「――そんな呼び方やめてください」
「ああ、ごめん――で、君達は僕のいい分が気に入らないようだね?」
「当たり前じゃないですか。何千何万と、それだけの人を救うほどの素晴らしい功績をあげておきながら――」
「どんなに素晴らしい事だろうと、所詮は人のやる事だよ。否定しようと思えばいくらでもできるし、踏み躙ることも貶める事だって簡単にできる――勇気の決断を契約者の危険性をアピールする為の利用しようとした、大地の賛美者の様にね」
そう言われて、ひばりたちの頭によぎった事。
下着ドロをカムフラージュにしての暗殺計画、勇気と慈愛の全面戦争扇動。
「――東城さんは以前、大地の賛美者が引き起こしたサイボーグテロの一件の事で、随分と叩かれてましたね」
「そこは勘違いしないで欲しいな。僕は系譜の契約者何だから、私情で動く人間なら医者なんてならず戦闘員になってるさ。その事について、もう昔の話だって割り切ってるよ」
「それもそうですね。そう言う意味では、感謝しておきます」
「ははっ、面白い事言うね」
「――!?」
「ん? どうした、クラウス? 鳩が鉄砲くらった様な顔して」
「夏目さん、豆鉄砲です。豆が抜けてます――東城さんが笑う所なんて、正輝様と個人的に話をする時以外で、見た事がなかったので」
「そうなんですか? ――そう言えば来島さん、東城博士と随分と親しげだよね?」
「ええ。私は東城さんとは幼馴染だったそうなので」
「へえっ、そうなんだ。東城博士と……って」
「「「えええええええええええええええええええええええええっ!!?」」」
『――目標発見。東城太助と、例の新兵器を確認しました!』
「では手はず通りに、東城太助の暗殺――可能ならば、あの新兵器を奪取しろ」
『了解――ん?』
「どうした?
『なにやら、憤怒と勇気の上級系譜および、技術班長と例の新型ロボットの存在も確認しました。恐らく偶然出くわしたと思われますが――』
「うーむ……いや、ここは東城太助の暗殺を優先する」
『了解! ではこれより、儀式を始めます」
「広大なる大地に、贄の血を捧げるのだ」




