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第71話

「我はすべての悪をこの拳で叩き潰し、延々と続く闘争の連鎖そのものの歴史に終止符を打つ……本当なら人の戦いは、第三次世界大戦で終わりにすべきだったのだ」

「本当なら、っていうのは同感だ……だが、犠牲も終わりにするべきだ。俺達はそんな事の為に、戦ってきた訳じゃあないだろう」

「その果てがこの様だというのに――必要なのは今だ。いつかではない」

「――お前の全部を否定はしないし、必要となってしまっている事も事実。なら俺がやるべきは否定じゃなく、それが必要ない世にする事だ」

「――やるべき事は見据えているか。それでこそ“勇者”だ」


ドンっ!!


「はああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」





「……ここかあ」


綾香は見下ろしていた。

その先に広がる、自然に起きたとも人の業とも思えぬ、深い爪跡を。


場所は、遠く離れた海洋のど真ん中。

そこは本来、何もなかった場所だが……とある時期、急遽に人工島が造られた。


“正義”の契約者、北郷正輝

“勇気”の契約者、一条宇宙

この2人が美徳の盟主の座を賭け、死闘を繰り広げた決闘の場として。


「――話には聞いてたけど……」


同伴してるひばりは、綾香に抱えられながらそっと下を見る。

――都市1つは建造できそうな広さの、人口島のなれのはてを。


「――島を真っ二つにした渓谷の様な跡は、一条さんの物でしょうか?」


更に言えば、アキも同伴している。


――3人が乗ってるクエイクの、ユウと正輝の交戦で得た斬城剣のブースターの稼働データをもとに、新調したブースターのデータを取る為。

……と言う名目での同伴を、技術班の面々に強いられたが故に。


「――タカも来れたら良かったんだけどなあ」

「仕方ないよ。上級系譜がそうちょくちょく留守にする訳にもいかないし、宇宙さんには内緒なんでしょ?」

「――では一旦おりましょう、ここまでの長距離は初なのですから。クエイク」

『Yes.Mother!』


ゆっくりと下降するクエイクの背に乗る3人は、地面に降り立つと同時に周囲を見回した。


幾つもの、雨水がたまったクレーター、海水が入り込み川の様になった裂け目、抉られた様な跡。

2人の能力を考えた上で、どちらかの物かがわかる物やわからない物まで。


「――近くで見ると、尚更にすごいね」

「――ここで、宇宙兄は北郷さんと戦ったのか……美徳の盟主の座を賭けて」


渓谷の様な裂け目に歩み寄り、綾香はしゃがんでその端から端を見渡す。

裂け目は確実に、宇宙の攻撃によるものである為に。


「……宇宙兄」


綾香は立ち上がり、周囲を見回し――最も大きなクレーターを見つけ、駆けだした。


「……ここで、か」


そのクレーターの中心に、人型のめり込んだ跡。


「――一番酷い跡だよ、これ」

「……どうやら、ここで終わったようですね」


ついてきたひばりとアキも、その跡をみて確信した。

この地点で、北郷正輝が一条宇宙に勝利し、美徳の盟主を勝ち取ったと。


「両者共に壮絶な深手を負ったと言う話でしたが、よくその程度で済んだものですね」

「……うん」

「…………」


綾香はただ、その地点をじっと見つめていた。


――深手を負い、意識のない状態で戻ってきた事。

――目覚めたとき、見た事もないほどに悔やむ姿。


一体どれだけの思いで、どれほどの覚悟を決めて2人はここに立ち、対峙したのだろうか?


「……遠すぎて全然わかんねえや」


綾香には、答えは出せなかった。



――数十分後


「……こんなすっげえ傷跡を残す戦いの果てが、今なんだよな」


比較的無傷な地点を選び、シートを広げて弁当箱を並べ――ランチタイムに勤しむ3人。

みた感じピクニックだが、気分も光景も場所も全くそぐわない、ある意味奇妙なシーンになっている。


「――この戦いで一条さんは負けて、北郷さんが美徳の盟主を勝ち取って、それから今に至るんだよね」

「結果として、北郷さんは世になくてはならない存在だと証明され、一条さんは日に日に立場が悪くなる一方。かつては秩序の2枚看板と評されたとは思えない程、決闘の結果がそのまま反映されてますね」

「――でも宇宙兄は……あたし達の勇者は、まだ諦めてはいない。ならあたしが弱音吐く訳にもいかないだろ」

「綾香ちゃん……あたしも同盟相手として、頑張るよ」

「ひばり……ああ、ありがと……ん?」


この島にはクレーター、あるいは巻き上げられた土砂で造られた山だけで、そんなに起伏が大きい訳ではなく、見晴らしは地平線まで見えるほどにいい。

そんな地平線の先に、綾香は上陸者を見つけた。


「誰だ……? こんな辺鄙なところに」

「わからないよ……ただ、警戒はしておいた方がいいかも。来島さん、あたしの後ろへ。クエイク、貴方のお母さんのガードお願い」

『Yes!』


上陸者もこちらに気付いたらしく、こちらへと向かって来る。

そして……


「――誰かと思ったら」

「お久しぶりです」


白衣を羽織った、ぬぼーっとした雰囲気の男、通称“正義の鉄槌鍛冶”東城太助

その身辺警護としてやってきた牧師服を纏った男、正義の上級系譜“敬虔”の契約者、クラウス・マクガイア


――その後ろに、マントで全身を隠している何かを従え、対面した


「東城博士に、クラウス!? なんで、正義の重鎮がこんな所に!?」

「そのこんな所で君達こそ、上級系譜が2人も一体何を……」


ふと太助は、クエイクを見つけ――その隣に立つアキの姿を見て、目を見開いた。


「……久しぶりだね、来島アキ」

「ええ。お元気そうで」

「君は相変わらず、目を充血させたまんまで、睡眠もろくにとってないようだね。診察しようか?」

「要りませんよ」



「――この2人、知り合いか?」

「――さあ? 前から面識があったみたいだけど……」


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