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第70話

所は正義城――の、客室。


「はい、ではちくっとしますよー」

「ええ」


体調を崩し、横になっている政府首相、井上弥生。

その診察を頼まれた東城太助は、点滴を施していた。


「――はい、これでよし」

「……ごめんなさいね」

「いえいえ、睡眠不足と過労なら朝飯前です――が、一体どうされたんですか?」

「色々と考える事と知るべき事が増えたからね」

「――九十九の事ですか?」


太助の言葉に、首相は頷いた。


「――それはそうでしょう。悪に慈悲をかけるなんて、僕達正義にとって許されて良い事じゃありませんから」

「……その様子じゃ、貴方も私の意見には反対だったようね?」

「反対ではありましたけど、否定まではしませんよ。僕達の信じた未来を受け入れた上で、別の可能性を示唆しようとしたんですから」

「……気休めはよしてちょうだい。一般人にしても契約者にしても、テロや犯罪を抑えられないどころか、貴方達に押しつけてしまった挙句の果てだもの」


14人の子供達により終結した、第三次世界大戦

しかしその強力すぎる力を危険視した者――大地の賛美者の前身に当たる者達は、その14人の血縁者、あるいはその友好関係に至るまで迫害を行った。


契約者社会樹立後も、それは変わらない。

迫害を行う者達は宗教的な考えを持ち始め“大地の賛美者”と名乗り、契約者だけではなく政府にまで攻撃を加える様になり……

新しく開発された、量産型ブレイカーが使用されるようになってからは、それを使い犯罪を犯す犯罪契約者と呼ばれる者達も増え続けていた。


――それに対し、政府との協力関係の下で大罪は独自に、美徳は結束して犯罪契約者達に攻撃を加え、秩序を担っていくことになる。

やがて勇者と呼ばれる“勇気”の契約者、一条宇宙。

美徳最強と名高き“正義”の契約者、北郷正輝の2人が美徳の中心となり、秩序の二枚看板として名をはせていた。


――しかし、それで上手くいくほど甘い問題ではなかった。

大地の賛美者も犯罪契約者も、鎮静するどころか行動を苛烈させ続け、幾多もの犠牲と悲劇を――一条宇宙と北郷正輝の対立をも生み出した。


「今でも思う物。何が間違ってたのかって……」

「首相は何も間違ってませんよ」


そう言って、太助は医療道具をしまい――工具箱を取り出す。


「さ、今日は点検の日でもあるでしょう?」

「――そう言えば、そうだったわね」


首相はゆっくりと起き上がり、点滴チューブをつけたまま太助に右足を差し出す。

太助はそっと足に触れ――


カポッ!


自身の開発した培養皮膚で包んだ外装を外し、腿の半分位の位置から先のサイボーグ義肢を露わにした。


契約者社会における義肢と言えば、神経をつなぎ生身とほぼ変わらない誤差での精密かつ動作を可能にした、サイボーグ義肢があげられる。

契約者社会においては全身をサイボーグ義肢にした、俗に言うサイボーグも既に実用化に至っている。


――開発者は、東城太助。


「何か違和感はありましたか? 動きがぎこちないとか、」

「いいえ」

「じゃあ点検しますね」


工具箱を開き、精密ドライバーやレンチ、細かな部品を保管する小箱、作業進捗や確認の為の小型端末を取り出す。

首相は太助の手を借りて横になり、点滴パックをじっと見つめる。


「えーっと……」


端末を起動し、前回の点検の時のデータを始めとする、作業チェックリストを開く。

それから、義肢の機械部分のカバーを取り外し、部品、関節部、接続部等を調査。


「駆動部問題なし……関節部は、えーっと……部品の交換終了。B-9番ビスが欠損、交換……それから」

「…………」

「? 痛みましたか?」

「いいえ……ただ手際を見ていたかっただけよ」

「――そうですか。っと、そろそろ点滴が終わりますね」



――数十分後


「どうです?」

「――特に問題はないわ。ありがとう」

「ありがとうございます」


そう言いつつ端末にデータを保存し、工具などと一緒にしまう太助の顔には、嬉しさなど微塵もにじみ出てはいなかった。

サイボーグ技術を開発し、その技術で随一を誇る彼にとっては、当たり前のこと故に。


「では、外装つけますよ」

「ええ」


人工培養皮膚。

人工的に培養した皮膚でサイボーグ義肢を覆い、外見的に人間と変わらない外観を得る為の技術。


――こちらも、開発者は東城太助。


「――出来れば、こういう技術を発展させてほしかったのだけどね」

「――恨んじゃいませんけど、“大地バカ賛美者ども”に悪用されなければ、発展させたかったんですけどね」


余談だが、大地の賛美者がサイボーグ技術を悪用し、戦闘サイボーグテロを引き起こした際、開発者である太助には非難と罵倒が洪水の様に殺到していた。


「――敵なんて最初からどこにもいやしない。なのに人が敵を、それも“倒す為”ではなく“踏み躙る為”の敵を求めようとするんじゃ、平和なんて永遠に不可能でしょう」

「――それを何とかするのは、私たちの仕事なのだけどね。結局出来ないどころか、子供達あなたたちに“人など放っておいても勝手に生まれる”なんて狂気も同然の価値観を、植え付ける結果になってしまったけど」

「その狂気も同然でしか秩序を保てない人の身勝手さの方が、よっぽど狂気じみてると思いますけどね――秩序を保つ事が勝手だっていうなら、この世に勝手じゃない物なんて存在しないと思いますし」


ヴィーっ! ヴィーっ!


「はい、東城太助です――了解しました。直ちに向かいます」


太助は普段はぬぼーっとした雰囲気だが、仕事あるいは電話越しの場合は、別人のように態度をキリッとした物へと一瞬で変わる。

その急過ぎる変化は、未だに首相も慣れていない。


「すみません、訓練でケガ人が出たらしいので」

「ええ。治療と点検、話し相手ありがとう」

「ではこれで」


こっちの時代でも、アキと太助の会話場面書こうかな?

と、思ってみたり?

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