第7話
天城修哉、鬼灯錬、佐伯姉弟。
そして、光一と面識のあった少女、江藤愛奈との会合。
「へえっ。光一君とは、契約者のごたごたに巻き込まれた所を?」
「うん。あの後お礼も言わないままに居なくなっちゃったから、ボク探したんだよ? 有名な契約者だったから、すぐわかったけど」
「違いねえな。光一は上級系譜で、“血染めの黒装束”、“血黒の凶王”って有名だもんな」
「血染めの黒装束って……」
光一が来てる黒いジャケットを見て、“一般人の”周囲が一歩退いた
「いや、コレ普段着だから」
「そこは二つ名の方を否定しようよ」
「てか江藤だっけ? そんな物騒な二つ名聞いて、よくもう1回会いたいなんて思ったな?」
「恩人だし、悪人には見えなかったからね。それに負の契約者のナワバリの住民が、負の契約者迫害してどうするの?」
「――珍しい考えなんだよね、それ」
実際、負の契約者のナワバリといえど、負の契約者に対していい感情を持たない物も存在する。
現に光一も、何度か住民に嫌悪の視線をむけられたり、逃げられたりした場面に、何度も遭遇していた。
「さて……もう食った? じゃあ却って、
「あれ? もう帰っちゃうの?」
「ここには休憩と、勇気側の上級系譜との親睦を兼ねて来たからね。あんま時間割けないんだよ」
「そっか。じゃあ」
愛奈は携帯を取り出し、光一に向けて突き出す。
「?」
「ボクの連絡先教えるから、よかったらオフの日誘ってよ」
「良いけど」
「やめろ錬、契約者にケンカ売る気か?」
「更に上級系譜でも名をはせてる人だよ? この店ごと吹っ飛ばされるよ」
「ええい、離せ!!」
「しっかし、美味いなこの店の料理」
「うん。また来ようよ。今度は成功祝いで」
「それいいね。その時にはあたしも腕をふるわせてもらおうかな?」
そんなこんなで、AMAGIでの一時は有意義に過ごした4人だった」
「……ふむっ」
「? どうしました、凪さん?」
「――龍清か。組織には慣れたか?」
「はい……ですが、僕で」
「おどおどするな。ここは“誠実”、真面目である事が力になる――自信を持て。お前は契約者でも限られた物しか手に出来ない、系譜を手にしたんだ」
「――はい、がんばります。それで、どうしたんです?」
「――憤怒で面白い事件が起こる、と出た」
「面白い?」
「そう――面白い事件だ」
――その有意義な時間から、3週間後。
任務の成功と失敗を繰り返しつつ、勇気と憤怒は徐々に勢力を蓄え続けていた。
「よう、俺の可愛いうさぎさん。今日もタヌキは懲らしめたかい?」
『ぎょうさんカチカチってやって、泥船で沈めてきたで』
「よーしいい子だ。それじゃ人参は弾んでやるからな~」
『おおきにな』
水面下で、光一直属の忍者部隊の暗躍を交えつつ。
「光一君。仕事中にそんな電話しないで。江藤さんの事と言い、だらしなくなってるよ?」
「すまんすまん。仕事は仕事できちんとやるよ」
「もうっ――ようやく落ち着いてきたね。でも出来れば、ずっと成功させたいけど」
「文句言うなよ。今不自然な成功は逆に命取りなんだから」
「それは、わかってるけど……ふぁあっ」
光一もひばりも、綾香も鷹久も忙しい日々を過ごしていた。
「もう寝ろひばり。後は俺がやっとくから」
「ダメだよ。光一君も最近寝てないでしょ? 寝るなら光一君の方」
「――そうだな、一先ず今やってる分終わったら寝るか」
「うん」
――夜は明けて
「――んっ」
ふと、光一は憤怒の契約者の事務所の、男子用の仮眠室で目を覚ます。
顔を洗い、身支度を整えて外へ。
「あっ、おはよー光一君」
「おはようひばり。よく眠れたか?」
「うん。それじゃ朝ご飯食べて、仕事しようか? あたし卵焼き食べたいな」
「そうだな。俺も和食の気分だから、パパっと作って――」
タッタッタッタッタっ!
「ん?」
タッタッタッタッタっ!
「なんだろ?」
廊下で合流したひばりと、朝食の相談
――していると、何やら騒がしい事を不思議に思い、外を見てみる。
そこでは、忙しく駆けまわる、勇気と憤怒の下級契約者達。
中でも女性が敵意むき出しに、今にも戦争と言う雰囲気を1人残らず纏っていた。
「どうした? 騒がしい」
「あっ、おはようございます。久遠さんに支倉さん」
「それが、盗賊団の襲撃があったと」
「盗賊団?」
この時代、契約者の力は社会の原動力になっていると同時に、犯罪にも悪用される。
「被害は?」
「一般家庭及び、勇気側に多数。我ら憤怒も少人数ですが被害を」
「? 契約者相手に!? ――って待てよ?」
盗賊団と言うからには、美術館などを襲撃する物。
そう考えていた光一は、疑問に思い――
「何盗まれたんだ?」
聞いてみた。
「下着です」
「――は?」
「ですから、下着です――女性の」
「――下着? 盗賊団が?」
「知りません? 最近巷で噂の変態義賊団“パンツァー・ドラグーン”。美人の下着ばかりを狙い、集めた下着を持てない男性にばら撒いて回ると」
「何下着泥棒で大仰な、しかも親父ギャグ臭え名前つけてんだよ! てか義賊団っつった!? 下着泥棒の義賊団だあっ!!?」
スパァンッ!!
「落ちついて」
「――すまん」
“小鳥丸”で我に還った光一は、深呼吸。
「――通りで女性陣が殺気立ってる訳だ」
「ええ……男性陣も、その施し受けた人が何人かいた為、拒否権がなくて」
「もらった奴居んのかよ!?」
「更には――」
ズンッ! ズンッ!
「綾香、落ちついて!」
「落ちついていられるか!!」
「あの有様ですので、俺達男性陣に拒否権がない上に断れなくて」
「「…………」」
「では、自分これで」
そう言って、呼びとめた契約者は、駆けて行った。
「……まさか、上級系譜のとは。命知らずと言うか、妙な方向の自信家と言うか」
「感心してる場合じゃないよ」
「てかどうしろと? 確かに、下着泥棒退治が正負友好の足がかりなんて冗談じゃないけど、綾香が陣頭指揮取ってるんじゃ止められないよ」
上級系譜がぶつかれば、今いる街はタダでは済まない上に、最悪正負同盟が台無しになってしまう。
迂闊な行動は致命傷になる為、光一もひばりも二の足を踏めずにいた。
「けど、このままじゃなんかやばい雰囲気だし……盗まれた物はばら撒かれてるらしいし、回収は無理となれば」
「下着泥棒自体を捕まえる?」
「それしかないな――その後抑えきれるかどうかはわからんけど」