第65話
「――ふぅっ」
所は正義城の敷地にある、医療連。
その中の手術室の中の1つから、手術着を着た東城太助が帽子を取り、マスクをずらして口元を露出させながら、ゆっくりと出てきた。
「お疲れ様です、東城先生」
「それじゃ僕は昼食とった後、サイボーグ義肢のメンテ予約があるから」
「はい!」
太助は正義の技術班長であり、医療班長でもある。
彼が手がけているのは、現状で機械工学に医学、サイボーグ義肢であり、そのいずれも知識技術共に正義の技術系契約者でもトップに位置する。
「――最近は合成獣開発の為に、合成獣学の勉強はしてるけど、なかなかねえ」
そうぼやきながら太助は着替え、正義城の庭へ。
そこで日向ぼっこをしつつ、医学書でも読みながら好物のバゲットのサンドイッチを食べようと……
「あっ、正輝様に首相?」
「ああ、太助か」
「今日は確か手術だったでしょ? お疲れ様」
歩を進めたその先で出くわした正輝と首相。
手にはおにぎりとお茶があり、自分と同じく庭で食べようとしていたらしい。
「バゲットのサンドイッチと牛乳だけど、一緒して良いですか?」
「好きにしろ」
「じゃあ遠慮なく。凪さんと王牙さんは?」
「後で来るそうだ」
その輪に入り、太助は1メートル以上あるバゲットを割る様にきって、そこにトマトやレタス、チーズなどを入れて作ったサンドイッチを手に取る。
飲み物牛乳は、1リットルパックでストローを別個で用意したもの。
「ほむほむほむほむほむ」
それを片手に、太助は医学書を取り出し読み始める。
「行儀が悪いわよ」
「ほむほむほむほむっ…………ごくんっ――すみません。でも日課なんで」
「責めて食べ終わってからにしなさい」
「はい。ほむほむほむ」
バゲットを頬張り、かみちぎって咀嚼。
ある程度で呑みこんだ日に、もう一度ほおばりかみちぎって咀嚼し、テンポを入れて牛乳を飲む。
「ごくんっ……ふぅっ――所で、九十九の処遇は?」
「ヘルオンアースへの投獄だ。既に首相が傲慢に話を通してある」
「ヘルオンアース……まあ、九十九ならそれ位じゃないと納得はしないよね」
「予想は、してたの?」
「僕もどっちかと言うと、九十九と同意見だったんで――まあ首相には恩がありますし、僕達の正義の必要性を理解はした上での妥協案としては、ある程度納得出来ましたから」
けらけらと笑いながらそう告げ、太助はバゲットのサンドイッチを1口。
牛乳パックをとり、飲んでから一息つき……。
「ただ、時期が悪かっただけですよ。正輝様の影響力を失っての混乱が終わってすぐじゃ、正輝様の正義に盲信どころか狂信的な九十九には、受け入れられる訳がない」
「――そうね。確かに、軽率だったかもしれないわ」
「……貴方のそう言う所、僕は尊敬できますよ」
脳裏にある過去の大人を思い浮かべ――すぐさま消しつつ、そう呟いた。
そこでふと、太助は正輝の腕に目を向ける。
「正輝様、右腕はどうです?」
「ああっ、問題はない」
「カルテ見ましたが、本当なら問題ないですまないんですけどね」
「わかっている。お前が手術中だった故に我の治療を手掛けた者が、目を白黒させていた位だ。いつもすまんな」
「それが僕の出来る事ですから」
それだけのやりとりをやった後、バゲットを頬張りかみちぎる。
「太助君。貴方にとっての正義って何?」
「僕にとって、ですか?」
「ええ。貴方達に対しての理解が少なかったみたいだからね」
「僕にとっての正義は――未来、ですかね?」
太助が正輝に心酔する理由。
契約者社会設立以前、正輝の幼馴染と言うだけで迫害され、家族を失ったと言う経緯――からではなく。
正輝が自身に手を差し伸べ、力と居場所と……未来をくれた。
これまで、周囲から罵倒され迫害され――身体にいくつもの傷を刻まれ続け、明日すらもない自分に、未来をくれた事。
「僕にとって“命は大事”って言われたって、“命があれば何やってもかまわない”と人を踏み躙るために捻じ曲げられた概念でしかありませんから――医術を学んだのは人を救うためではなく、正輝様の様に未来を提示できる何かが欲しかったからですし」
「――捻じ曲げられた……否定は、出来ないわね」
「誰もが人を踏み躙るために、何もかもをあいまいしたこの世において、正輝様の正義はちゃんと秩序という確かな物をもたらしてますから。正義は未来を示してこその正義――僕はそう考えてます」
「――うん、わかった」
それを聞くと、首相はうんと頷いた。
「参考になったわ、ありがとう」
「――それはどうも。けど」
「太助君が正輝君の正しき世界を信じてるように、私も私の信じる物があるの。その為の戦いをやめるようじゃ、一社会を築くなんて出来る訳ないでしょう?」
「……もっと早く貴方と会いたかったですよ、首相」
ピーっ! ピーっ!
「ん? ――っと、いけない」
「仕事?」
「ええ、サイボーグ義肢のメンテの予約です」
「そう。なら今は未来の為に頑張りなさい」
「言われなくてもやりますよ」
そう言って、バゲットを急いで頬張り、牛乳で無理やり流し込んだ太助が駆け去っていくのを見送り――
「さてと、草案の練り直しね」
「気合入ってますね」
「ええ。まだまだ子供達に負けられないわ」




