第62話
「まさか、こんなに早くお前と対峙するとは思わなかった――それも、お前の正義の狂信者が齎しただなんて、笑えやしねえ」
「笑える事もそうだが、迷惑だなんだと騒ぐ“だけ”なら、本物のバカだ」
「違いない……狂信者がいるって事は、それだけお前の正義が歓迎されてる証拠」
憤怒の契約者、朝霧裕樹
正義の契約者、北郷正輝
土砂崩れで見る影もなくなった、休憩所だった場所は地面が裂け、溶けだし、焼けただれた、見る影どころか全くの別光景へと変貌していた。
マグマの力と地震の力がぶつかり合ったが故に
「――ちと聞きたいんだが」
「なんだ?」
「――宇宙との対立の原因になった、負の契約者とその家族の殺害。やったのそいつじゃないだろうな?」
ユウが鋭い目で、正輝の後ろ……横たわる九十九を見据える。
正輝は首を横に振り、あらゆる物に干渉し衝撃を与える“絶対干渉”の施された、契約者最強の攻撃力を持つ拳を、軽く突き出す。
「正確には、九十九の部下だ――言っておくが、とうにこの拳で粛清してある」
「……なんで宇宙に黙っていた?」
「あれがなくても、いずれ対立など始まっていた。更に言えば、我が正義が招いた事である以上、責任は我にある――それに我が正義を考えれば、必要であった事もまた事実だ」
「理解出来る分、呆れもするな――そうしなきゃ秩序を保てない人と世界にだが」
ユウの脳裏に流れるのは、ついこの前まで右往左往していた情緒不安定な時期
毒ガス、核兵器が普通に持ち出され、平穏どころか人間としての理性すら存在しない、そんな情勢下
「だからっつっても、お前がやってる事は許されて良い事じゃねえがな」
「確かに許されてはならない事だが、仕方のない事でもある――言っておくが、罰とは仕方がないと言う前提の上で行う物であり、感情を交えた時点で攻撃という」
両拳を撃ちつけ合い、正輝は構えを取る
「もう良いだろう? ――行くぞ」
「――そうだな」
斬城剣を地面に突き立て、ユウは打刀“焔群”を鞘から抜き、構える。
――鞘を握る腕を、マグマに包んだ上で。
「――“衝撃”!」
「“灼熱の剛腕!!」
まず正輝が、両腕をかき抱く様に動かし、両手で押さえこんだ膨大な量の大気を解放し、空圧の爆撃を引き起こす。
それに対し、ユウはマグマで包んだ腕の上からさらに炎で包んだ巨大な腕を構築し、その衝撃を薙ぎ払った。
「――ちっ。灼熱で空気を歪めたか」
「まだまだ!」
衝撃を薙ぎ払った腕を、そのまま正輝めがけて振り下ろす。
「――甘いわ!!」
ぐっと右拳を握りしめ、振り下ろされる灼熱の腕を迎撃。
拳が激突し――灼熱の腕が、木端微塵に吹き飛ばされた。
「――!」
灼熱の腕を壊したと同時に、正輝は足に絶対干渉を展開し、爆発的な推進力を付けた上で突進
迎え討つユウは“焔群”を鞘に納め、抜刀術の構えを取る。
――そして、交差し……
「――!」
「……!」
――その次の瞬間。
正輝の肩からわき腹にかけ、一筋の刀傷が刻まれ血を噴き出す。
ユウは“焔群”の刀身が半分先がなくなり、失った半分がくるくると軌道を描きながら地面につきたった……次の瞬間
「ぐっ……今の瞬間に二撃かよ」
ユウは腹に違和感を覚え、いきなり吐血。
「――どうした、もう終わりか?」
「まさか」
痛む個所に意識を集中し――
炎熱能力の副作用、自己治癒促進を施した。
「――早いな」
「最強の炎熱能力だ。自己治癒もそこらのと違って当たり前」
ユウは正輝から距離を取り、斬城剣に手をかける。
「――我を倒した所で余計な物が生まれるだけだと言うのに、無駄な足掻きをしてくれる」
「無駄かどうか勝手に決めんな」
「一条とも話した事だが、それを決めたのは我ではない!」
その次の瞬間、轟音が響いた。
――斬城剣と拳がぶつかり合った衝撃で生まれた轟音が。
「我の正義は既に人が選んだ未来であり、現在であり、結果だ――批評罵詈雑言に意味などない!」
拳と巨大刀がぶつかり合い、ギリギリと推し押されの一進一退。
「“自分には関係ない”――そんな言葉に依存して他を踏み躙り、苦難から眼をそらし逃げる今の人では、尚更だ! 既に未来は変えられもしなければ、逃げられもせん!!」
「お前が決めるな。それ以外の未来は――」
「だから言っただろう。人の選んだ未来は我の正義だとな! 否定する権利など、誰一人として持ち得んわ!!」
怒号と共に正輝はダンと地面を踏みつけ――地震を引き起こす
突如の地震にユウは重心を崩され、それをすかさず正輝が受け止めている斬城剣を横なぎにし――
“絶対干渉”で空気を蹴りユウと距離を詰め――
「――! “迦具土”!」
ユウは“六連”全てを指にはさむ形で抜き放ち、両腕をマグマで包み――6本の刀を牙としたマグマの竜を創り――
「トランス!」
「――! しまっ……!」
「“撤拳星砕”!」
撃ち出した瞬間、正輝がトランスを発動し――。
契約者最強の拳がマグマの竜の叩き込まれ、マグマの竜は木端微塵に砕け散る。
それでも拳は勢いが止まる事無く、ユウの顔面にブチ込み――正輝は巻き込むように、ユウごと拳を地面にたたきつけた。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
ユウの頭がたたきつけられると同時に地面は陥没し、周囲の地面が爆発する様に地割れが生じ、隆起。
登山道として整備された道は引き裂かれ、車道として舗装された道は吹き飛び、所々に設けられた休憩所は、跡形もなく崩れ落ちる。
事前に周囲への避難勧告は出ていたものの、突如引き起こされた地震から動揺が生じ――パニックになりかけていた。
「っ――っ……」
「! まだ意識があるのか」
正輝めがけてマグマの腕が振るわれ、正輝が後ろに飛んでかわす。
「っ……っ――」
――が、それが限界だった。
ユウは既に虫の息の状態でまともに動く事は出来ず、懸命に身体をうつぶせにし力の入らない腕に力を入れ、立とうとするも出来ない。
「……っ――っ!」
「――無駄だ。すでに足掻いてどうにかなる段階など、とうに過ぎている。すべては自業自得でしかない」
「……っ……っ」
「我の勝利だ」
「――ぎぃっ!!」
ユウが言葉にならない、怒りに満ちた声を出す。
――と同時に。
ボゴォッ!!
「――! うっ、ぐぁあああああああああああああああああっ!!」
突如地面からマグマが噴き出し、巨大な手を模り正輝を捕まえた。
「――! ――っ――!」
「まだこんなぐうぁああっ! ……だがぬるい! ぬる過ぎ――!!」
マグマに焼かれながら正輝が見たのは、ユウが身に着けている憤怒のブレイカーが、トランス状態にある事。
それを認識したと同時に――!
「うあがっ! うああああああああああああっ!!」
マグマが肥大化し、更に燃え上がり――正輝をマグマの中へと引き込んでいく
「――はぁっ……はっっ……マグ……マ……ろに……しょ……いだ」




