閑話 慈愛のとある一日
慈愛のナワバリでは、水が豊かである事と統治する美徳の契約者が、水の能力を持っている事から、水に関する研究が主におこなわれている。
天然水の何倍も飲みやすく、健康にいい飲料水。
船舶や潜水艇及び、水棲合成獣の開発。
また、水を使っての美容等も行われている為、正の契約者側の女性の聖地としても知られており、医療都市であり植物性美容でも有名な色欲とは、女性の話題の中心となっている。
そんな慈愛のナワバリの――とある屋敷にて
「――つぐみ、今日の予定は?」
腰まである、さらさらと流れる川の様な蒼い髪に、水色の瞳はたれ目となっている整えられた顔立ち。
全身雪を思わせる程白い肌で、和装を好む為今は着物を着ている物の、日に日に着難くなっていることが悩みの種になる程発育がいい、落ちついた雰囲気を纏った美人。
能力、美貌共に契約者1の美しさと謳われる慈愛の契約者、水鏡怜奈。
「午前は書類がいくつかありますので、あたしと一緒に事務仕事です。午後からは、蓮華ちゃんと一緒に愛玩用の水棲合成獣開発ビオトープの視察と、児童養護施設の訪問。それから……」
その彼女の髪に櫛をかけ、整えている少女。
ふわふわのお尻まである茶色い癖っ毛の髪に、眠そうな感じの緑色の瞳をしている童顔で、それに見合うほど身長は低いが、身体は出る所は出ている抜群のスタイル。
慈愛の上級系譜、“優しさ”の契約者である、怜奈の身の回りの世話を担当する少女、雨宮つぐみ。
「以上です。では朝食を食べに行きましょう」
「ええ」
穏やかな笑みを浮かべ、つぐみと共に今へと向かう。
怜奈は上級系譜達と共同生活を送っており、家事は上級系譜の当番制
怜奈も家事は人以上に出来るのだが、契約者社会の頂点の1人にそんな事をさせる事自体が色々とまずい為、基本的に休日以外は当番から外れている。
――余談だが、約一名家事が全くダメな為、蓮華が補佐する形で2:1のローテーションを組んでいる。
「おはようございます、怜奈様、つぐみ」
「おはよう、蓮華ちゃん」
「おはようございます、蓮華さん」
台所で調理していた本日の当番、慈愛の上級系譜“敬愛”の契約者、黛蓮華が2人の姿を見つけ恭しくアイサツ。
つぐみより濃い目の背まで伸びた茶色い髪をおさげにし、釣り目のきつい印象を持った中性的な顔立ち。
今は料理中の為エプロンを着けているが、普段から執事服を纏っており、他の同居人と比べると身長が高いが貧相なスタイルの為、男性に間違われる事があるがれっきとした少女である。
「やかましい!!!」
「「…………!!?」」
「……あっ、すっすみません。何か、誰かにバカにされた様な、そんな気がして……つぐみ、出来たから並べるの手伝ってくれ」
「わっ、わかりました」
メニューはご飯にあさりの味噌汁、焼き鮭。
それをゆっくり食べ終え、全員蓮華が淹れたお茶を飲み一息つき……
「では、仕事です」
「ええ」
怜奈は蓮華を伴い、執務室へ。
その間つぐみは、食器の片付けに食卓の布巾がけなど、家事に勤しみ始める。
そんなこんなで、昼の自分に差し掛かった頃――
「~♪」
台所では、つぐみが鼻歌を歌いながら料理に興じていた。
踏み台に乗りつつ、手際良く調理するその姿は――お母さんの手伝いを日課とする幼女。
「ほっといて!」
「? どうした、つぐみ?」
「え? ……いえ、なんでもないです」
昼食も、基本的には和風の為、ご飯とみそ汁を基本とした食事である。
それを食べ終え――
「では、視察ですね」
上級系譜は役割が分かれている。
つぐみが身の回りの世話、蓮華が事務仕事、そして――
「つぐみ、戸締りは出来たか?」
「はい」
「では、参りましょう。怜奈様」
本来、外回りの護衛はもう1人の上級系譜が担当していたのだが……
「――ティナの容体は?」
「――薬はだいぶ抜けたとの事ですが、まだあまり芳しくはないようです。それと……」
「あっ。見えましたよ?」
――その後、ビオトープ視察、児童養護施設訪問。
それらを終えた頃には、既に日は沈んでいた。
「ふぅっ……」
「……今日もつかれましたね」
「ええ――こういう時は、ナワバリ自慢の浴場で、ゆっくりと疲れを取るに限ります」
「はい……美容にもよくて疲れも取れて、最高の気分ですね。怜奈さん」
一日の疲れを取るべく、3人は疲れもとれ美容によしの女性憧れの地、慈愛自慢の浴場でのんびりと湯につかる至福の時を過ごす。
「どうしたんですか、蓮華さん?」
「蓮華ちゃん、こっちに来てお話ししましょう?」
「……なぜ私だけ」
……たった1人、自身のと他の2人を見比べてしまい、あまり至福にはなってなかったが。
「――蓮華ちゃん、政府の議会はどう?」
「いつも通りですよ。正義派閥が優勢で、勇気派閥が何とか首の皮1枚繋げている一進一退。ただ……」
「わかっているわ。ワタクシも美徳の一角である以上、全面戦争となったなら迷う訳にはいきません――ただ、そうならない事が一番なのですが」
「でも蓮華さん、あたし達の傘下でも正義の思想に同調する人、結構いるよ?」
「――そちらは私が何とかする」
「あまり思い詰めてはダメよ? ティナだけでなく、蓮華ちゃんまでなんて嫌なのですからね?」
「そうですよ、蓮華さん。あたしだっているんだから、少しでも頼る位はしてください」
「――ありがとうつぐみ、ありがとうございます怜奈様」




