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第6話

「やはりな……所詮は夢物語。正と負が手を取り合うなど不可能だ」

「蓮華さん、そんな言い方は……」

「これが現実だ、つぐみ。一条殿も、正の勇者と呼ばれたお方ならば、早く目を覚まして貰いたい物」

「――蓮華、貴女には醜聞にしか見えない? この記事は」


“敬愛”の契約者、黛蓮華と“優しさ”の契約者、雨宮つぐみ。

そして、“愛情”の契約者、クリスティーナ・ウェストロード。


「ティナか……何が言いたい?」

「おかしいと思わない? 確かに、正と負の諍いが原因で、混成チームは失敗続き……なのに、死人どころかけが人も出てないって」


慈愛の勢力は、勇気と憤怒の同盟により揺らいでいた。

慈愛の契約者、水鏡怜奈は正と負の争いを快く思っておらず、その打開策と成り得るこの同盟に参加したいと、発表当時から願っていた。


――しかし、蓮華を始めとする保守派がそれを反対。

それに対してティナを始めとする急進派は、怜奈の意思を尊重すべきと主張。


組織の内部抗争が起こっていた。


「――契約者同士の事なのに、おかしいとは思わない? ……私には誰かが、争わせてはいるけど、無駄な被害を出さない様にって、糸を引いているように思えるんだけど」

「考え過ぎだ。裏切り者や汚らわしい負の契約者に、そんな知恵があるとも思えない」

「あると思えるわよ? 憤怒には智将が居るんだから」

「――現状では、賛同はしかねる」

「――怜奈に対する貴方の敬愛は理解はしてる。でも、怜奈を本当に思いやるのなら、一緒に苦難の道を歩むのも1つの手よ?」

「過ちを止めるのも1つの手だ。私には正と負の同盟に賛同は出来ない」


そう言って、蓮華は去って行った。

ティナは苦笑し、おろおろと事の成り行きを見守っていたつぐみに歩み寄る。


「……ティナさん」

「心配しないで。私も蓮華も、怜奈を思いやってのことだから――別に、仲たがいしてる訳じゃないの。さ、早く怜奈の所へ行ってあげて」

「……はい」


――現状、怜奈と接触して身の回りの世話をやっているのは、つぐみだけ。

蓮華とティナの協定で、怜奈の身の回りには中立のつぐみを置く事を決定しているために。


「――蓮華には悪いけど、これからを考えるなら一足先にコンタクト取るべきよね」



――所変わって。


「何やってんだよ! これじゃ宇宙兄を笑い者にしてるだけじゃんか!」


勇気の駐屯地。

夏目綾香は、日々酷くなる一方の宇宙の評判に耐えきれず、部下たちを叱りつけていた。


「ここに来る前言ったよな!? 不満があるなら来なくていいって! ――なのになんだよ、この有様!!」

「綾香、落ちついて!!」

「落ちついてられないよ! 宇宙兄が堕ちた勇者だの、夢遊病の重症者だの言われてんだぞ! 悔しくないのかよタカ!!」

「悔しいよ!! でも、ここで僕達が喚いたって、どうにもできないじゃないか!」


「――取り込み中だったか?」


ケンカへと発展する様な流れは、割り込んできた声にせき止められた。


「――光一か」

「ごめん、見苦しい所見せちゃって」

「ま、失敗続きじゃ気もたつわな」


割り込んだ声の主――光一は、苦笑しつつ鷹久に書類を手渡した。

――確保が困難になりつつある、仕事のリストを。


「――ホントごめん、頭下げてまで仕事貰って来てくれてるのに」

「いや、こっちに原因があったケースもあるんだから気にするな」

「でも、元はこっちから持ちかけて……」

「なら、せめて上級系譜だけでも親善をアピールするために、一緒にお茶でも飲みに行こうよ。良い店知ってるから」

「おっ、残虐の契約者直々にデートのお誘いか?」

「鷹久もひばりも一緒だ。大体俺は人の物をかっさらう趣味ねえっての」

「? 妙な事言うな。あたし誰とも付き合ってないぞ?」


光一の目が点になった。


「なんだよその反応?」

「え? だって……俺たちの年代にしては進み過ぎだけど、お前ら一緒の部屋で寝てるって話だよな?」

「進んでるって、そんなん従姉弟で家族なんだから、当たり前だろ」


光一がゆっくりと、下級契約者達の方に顔を向ける。

それと同時に、下級契約者達は全員が寸分狂わず、うんうんと頷いた。


「――なんで皆して一斉に頷くんだ?」

「さあ……?」

「とりあえず、自分たちが何してるかの自覚くらい、持った方がいいぞと注意はしとくとして……で、来る?」

「勿論。タカも行くよな?」

「うん」



――所変わり、喫茶店AMAGI


「へえっ、美味しそうだな」

「うん、ホントに。今から楽しみになってきた」

「光一君、よくこんな良いお店知ってたね?」

「色々とあちこちに出向いてると、時折こういう名店を見つける事はあるからね」


それぞれ思い思いのメニューを注文し、ささやかにお茶会準備中。

時間も、一般人はまだ学校か仕事かの時間帯故に、空いていた。


4人は注文したメニューを食べ、呑み、談笑しては笑ったり。

思い思いの時間を過ごし、親睦を深めあう時間。


「――さて」


が始まると思いきや、光一は周囲を見回し、気配を探り始めた。


「どうした?」

「これからの事だけどさ……」

「うん。出資してくれてる人達もどんどん離れてるよね?」

「僕達の方も同じ。特に宇宙さんに対しての罵倒が酷くて」

「うんうん、良い傾向だな」


ガバッ!


「良い傾向ってなんだよ! 宇宙兄が罵倒されるのがそんなに……」

「違う違う。離れて行ってるのがだ、落ちつけって」


激高した綾香に胸ぐらを掴まれた光一が、慌てて弁明。

その弁明に、3人は首を傾げる。


「どういう事?」

「この段階での成功は、余計な物を引き寄せるからだよ」


利潤目当てのダニ、正負同盟反対派(主に正義)の攻撃。

と、光一は次々と敵対候補の名を上げて行く


「それに、内部にはかき回す為に潜入して来たタヌキどももいるし」

「えっ!?」

「そんな……! こうしちゃいられない。すぐに!」

「待って綾香――もしかして久遠さん」

「同い年だろ? なら光一でいい」

「じゃあ光一。もしかして、ワザと泳がせてたの?」

「そう。折角だから、かき回すとしたらどういう手段を使うか、見せて貰おうと思ってね」


綾香、ひばりが呆気にとられる。

――が、綾香がそこではっとなる。


「そう言うの黙ってるなんて意地が悪いぞ! もっと早く行ってくれれば……」

「いや、言わなくても気付くと思ったんだが……」

「え?」

「おかしいと思わなかったか? 今まで死傷者が出なかった事について」

「――もしかして」

「死人が出たら致命的になるから、気付かれない様に工作したんだ。だからカンのいい奴は、この失敗は仕組まれた物だって気付いてる筈」


綾香、鷹久、ひばりはそろって顔を背けた。


「まあ、3人は当事者だし、罵倒の嵐でそんな余裕ある訳なかったから、気にする事はないだろ」

「――不甲斐なくてごめん」

「以下同文だよ」

「あたしも……で、これからどうすんだよ?」

「今頃タヌキの背じゃあ、俺の可愛いうさぎさんがカチカチって鳴らしてる頃だし……」


ばさっ!


「この通り、トラブル回避用のマニュアルも出来たから、焦らずじっくり行こう――大罪、美徳が2人だけのマイナー勢力だから、力を蓄えつつな」

「でも、仕事は……」

「心配するな。今残ってる後援者の殆どはこのカラクリに気付いてるか、正と負の友好に積極的な人ばかりだから、仕事に困る事は今のところない」

「「「……今まで悩んでたの、一体何だったんだろ?」」」

「これからで返してくれ」


カランカランッ!


「ただいま……あれ? 久遠に――もしかして、勇気の上級系譜の人達?」

「マジ!? あっ、勇気の系譜の綾香さんじゃねえか?」

「錬、がっつき過ぎだよ」

「まさか、契約者の有名人が4人も来るなんて、このお店もすごくなったわね」


学校が終わった時分か、数人の学生が入ってきた。

その内の1人に――


「よう、おじゃましてまーす」

「誰?」

「ここの店主の息子さんの天城修哉。そっちは友達?」

「うん。佐伯和人とその姉の紫苑さん、それと……」



「俺と2人でケーキでも食べないかい?」

「悪い。そう言うのめんどいからパス」



「あそこであっさり振られたのが、鬼灯錬」

「そっか。じゃあ次は……」


「ごめーん、遅くなっちゃった」


自己紹介に入ろうとした所で、1人の少女に遮られた。


「どうしたの? 何か面白そうな……あっ!」


その少女は光一を見た途端、眼を見開いた。


「? 江藤と知り合い?」

「? いや、覚えはないけど……俺がどうかした?」

「覚えてません? 2ヶ月位前に、契約者のケンカに巻き込まれそうなところを……」

「2ヶ月前? ……ああっ、あんときの! そういや、そんなことあったな」

「あの後お礼言いたかったのに、さっさと行っちゃうから。はじめまして、ボクは江藤愛奈です。残虐の契約者、久遠光一さん」


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