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第59話

「よう、態々集まって貰って済まねえな」


ワニ革の高級感あふれるコートを羽織り、オールバックにした男。

強欲の契約者、武田シバがにこやかに声をかける


「…………」


レースをあしらったヘッドドレスに、ゴシックロリータドレス。

さらさら感あふれる、背まで伸びた漆黒の髪に顔にはプロ顔負けレベルの化粧を施した、まるで人形の様な物言わぬ少女


嫉妬の契約者、陽炎詠がふんっと不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「なんなのですか、一体?」


スキンヘッドに、耳元まで裂けた頬にファスナーを付けた顔

更に、生体改造で取り付けた二本の手首から先が口となっている腕を含め、4本の腕を持つ男。

暴食の契約者、明治我夢が紅茶を啜りながら尋ねる。


「なんなのですか、じゃねえだろ。わかってんだろ?」

「議会の事でしたらね――小生としては政府の意向に逆らいたくはありませんが、流石に考えなしに正義を推すなら、相応の覚悟はして貰わねば」


人間離れした外見に似つかわしくない、紳士的な態度で返す我夢に、シバは頷く。


「――で、詠はどうなんだ?」

「…………『首相ならともかく、妾は他なんて信用する気ない』」


次に問いかけた詠は、言葉の代わりに“精神感応テレパシー”で返答を返す。


「じゃあ一先ずでいいから、まずはオレ達で同盟組もうぜ。議会の行方次第では、オレ達も美徳との全面戦争を覚悟しなきゃならねえんだからよ」

「…………(コクっ)」

「それに関しては、否定する理由はありませんが――他の方は?」


大罪は7人。

しかしその場には“強欲”、“暴食”、“嫉妬”の3人しかい合わせていない。


「“傲慢”の大神は連絡がつかない。“怠惰”の荒川は寝てやがって、“色欲”の花柳は手術中だからって、呼び出し断られた。んで――」

「…………『憤怒は勇気との同盟があるから、議会の中心の1人。来る訳ないわね』」

「その通り――まあ、アイツには議会の結果が出次第声をかけるつもりだ」

「――ですが、彼は契約条件には似合わぬ、大罪の中でも穏健派的な考え。小生達の声に乗るかどうか」

「…………『それには同感。“憤怒”は怒らせれば最も危険な存在ではあるけど、考えは我夢の言う様に穏健派。このまま勇気と一緒に第三勢力として割り込む可能性も、なくはない』

「だよなあ……その第三勢力としても、美徳側も友情と慈愛は正義の方針に乗り気じゃねえし、色欲も恐らく乗る筈。頂点の半分近くを引き入れる事は十分可能だし……」


そこまで言うと、ふとシバは言葉に詰まった。


「……って、これオレ達にとって特に悪い意味ねえよな?」

「…………『言われてみれば』」

「でしょうね。全面戦争に勝利した所で、喜ぶのは下級契約者達やテロリストが主と言った所。ならばいっそ、小生達もその第三勢力となった方が利口かと思いますが」


我夢の提案に、シバも詠も否定の意を示さなかった。

寧ろ、驚くほどに納得する様にうんうんと頷く。


「――こうなってんのはバカどもが勝手しまくった所為である以上、そいつら守る事に繋がるんならバカバカしい事この上ねえ」

「…………『自分には関係ない何て考えの人間程、意地汚い上に自分本位の考えしか出来ない――これじゃ正義のやり方、否定しろっていう方が無理』」

「でしょう? ……これでは仕方がないと納得せざるをえませんが、だからと言って死ぬ事を享受する理由もありません。確実性がない話ではありますが、小生達としても悪い話ではありませんし、どうでしょう?」


そう言って“特注の巨大”カップを手に、紅茶を飲みながらふうっと我夢は一息。


「そうだな……正義の傘下には“一徹”を始めとして狂信的な奴が多い以上、そう簡単にはいかないが――詠はどうだ?」

「…………『あの巨乳チビが居るのは気にくわないけど、この際だから仕方ない』」

「相変わらず、筋金入りの巨乳嫌いなのな――じゃあ近々、憤怒との接触考えとくか」


それだけ言うと、シバは紅茶を飲みーー


「……にしても、大罪と美徳の全面戦争を匂わせる事態を引き起こすなんて、何考えてやがんだよ、あいつは? ……それにあのモノグサ野郎も、一体どうしたってんだ?」





「……疲れた」

「あたしも」


憤怒の詰め所

光一がソファーに寝転び、ひばりがどっかと身を預ける。


「お疲れさん」

「お疲れ」

「あ~う~」


その様子にユウは苦笑し労い、赤ん坊の乳母車を押す裕香がそれをユウに預け、とてとてと2人に缶ジュースを差し出す。


「――で、どうかな? 何か糸口見えた?」

「俺は、元素操作の訓練かな? ――身体の元素をいじると激痛走る欠点克服して、凶雷獣とまでは行かなくても、レーザー位は普通に扱えるようになりたい、かな?」

「あたしは……まだ、かな? 皆と違って決定打がない能力だから、色々と試さないと無理かも」

「なら頑張りな……光一、アキからは連絡は?」

「ひばりの武器が1つと、例の斬城剣のプロトが出来たってよ――さて」


光一がひばりに目配せをし――ひばりが頷き、裕香を連れて外へ。

部屋を出て、ドアが閉まると同時に――光一が周囲を見回す。


「で、どうすんだユウ? ――お前も理解はしてるだろ?」

「ああ――政府の決定次第じゃ、俺達の同盟も終わりであり……大罪と美徳の全面戦争の勃発もあり得る」

「――それで、各地の様子を深紅に調べて貰ったんだけど……強欲が嫉妬、暴食を呼びだして、何かの会議をしてるって話がある」

「シバが詠にガム野郎とか……まあ、妥当だな。現状、議会の決定が出なきゃ動きようがねえよ。流石に正義の方針を何の処置もなく可決するんなら、宇宙には悪いが大罪として黙る訳にはいかない」


それには光一も頷いた。


「――流石に、ユウとしても決断して貰わなきゃいけないぜ? どういう方針に身を置くかで、この先が決まる重要事項だ」

「わかってる――だが、今俺達にその答えは出せないが、覚悟はしとく」

「……それならいい」


そう言って、光一が部屋を出ようとして――


「――ちょっと良いか?」

「ん?」


ユウが少しためらうような態度で、光一を呼び止めた。

――光一自身にもその理由は理解出来、光一としては珍しく顔をしかめる。


「光一は――わからないか? 大神が一体どういうつもりで」

「……さあ? 一体何の為にあの2人に接触したかすらわからん」

「……わかった。すまんな、お前が家族も名字も捨てた理由が、大神に……兄にあるのは理解してるのに」

「良いよ。どうせ捨てた事だ――あいつとの関係も、過去も、名前も全部」


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