第56話
ブレイカーは主に、政府および大罪、美徳により厳重に管理されている。
開発もそれらにより行われる為、手に入れるにはそれなりの手続きが必要。
厳重な査定をクリアし、その上で政府あるいは頂点達の管理下での活動許可を得る事。
それが、一般的な契約者になるための手順。
しかし、それらも所詮は人の手で行われるため、どうしても間違いは起こる。
――それらの一部による横流し品を手に、犯罪を犯す者達。
または、上記をクリアしていながら何らかの理由で迫害され、行く宛てを失った者達。
それらが犯罪契約者、あるいはフォールダウンとなり、世の秩序を脅かしている。
「となると、やっぱりユウさん頼るしかないか」
「そうなるね。この前の事があったから、顔合わせづらいけど」
「つべこべ言わず、行くわよ。別に疾しい事しようとしてる訳じゃないんだから」
修哉、和人、紫苑の3人はある事――“契約者になる事”を決意していた。
そして、復興がある程度済んで、再開された学校が終わり――真っ先に、憤怒の詰所へと赴き――。
「却下だ」
話を聞いたユウから、一番にそう告げられた。
「なっ、なんで!?」
「顔見知りだからって贔屓はしない。査定は厳しくやるさ」
「……厳しいのはわかります。でも俺達は」
「そんな殺気立った状態で守るっつっても、説得力はない」
「けど守るって意思は本物よ。これだけは断言出来る」
「“攻撃は最大の防御”って意味合いでだろ? なら許可する訳にはいかない」
一大決心をあっさり斬り捨てられたことで、3人は不満を隠そうとはしなかった。
――ユウはハァッとため息をつき、口を開き……。
「――政府で議会が行われてるんだ」
そう3人に告げた。
「政府で?」
「そう。この前の混乱で、北郷正輝は世になくてはならない存在である事が確立され、宇宙はある程度の汚名をそそぐ事が出来た――その事で意見が分かれてるんだよ」
「――分かれるって……」
「北郷を推すべきか、宇宙を推すべきかってね」
当然、良い顔をしなかったがユウはそれを制し、話を続ける。
「北郷の方針は基本的に“ルールを守れ”だ。いくら横暴な手段を使っているとはいえ、負の契約者の横暴がはびこる世にほぼ確実な秩序を齎している以上、政府としては否定は出来ないんだよ」
「……そりゃ確かに、負の契約者は基本的に無法者が多いから、わかりはしますけど」
「――更に、北郷を失う事がどういう事か。この前の事で完全に証明された以上、政府には選択の余地は存在しない……そう言う土台が確立されてるんだよ」
一般人側の最高行政機関である政府が躊躇すれば、たちまち世は不安に陥る。
選択の余地が存在しない上に、他の選択が全くと言っていいほど存在しない状況。
――頭では理解は出来ていても……
「けど、納得できません! じゃあ俺達には――」
「意見は分かれてるって言ったろ? ある程度名誉挽回が出来た宇宙の意思に賛同する声が、それを踏みとどめてるんだよ――ただし、首の皮一枚っていう危うい均衡でな」
「――それと俺達に、何の関係が?」
「あんまりこういう事は云いたくないんだが……契約者の力を手に入れた途端、調子に乗って問題を起こした事例はごまんとあるからだ」
「私たちが不安要素になるかもしれない――そう言いたいの?」
「さっきも言ったけど、“攻撃は最大の防御”の意味合いでの守るじゃあね。負の契約者の横暴が問題視されてる今、間違いなく正義派閥に力を与える結果になりかねない」
紫苑の口から、ギリっと歯軋りの音が響いた。
「じゃあこのまま我慢しろとでもいうの!? 冗談じゃないわ、あんな奴の勝手な言い分で死ぬなんてまっぴらよ!!」
「誰だってそうだ。でも北郷を失う事がどういう事かが露呈した以上、不満だから否定するですまない事なんだよ、これは」
「――!」
「――だから悪いけど、査定は不合格。もう一度よく考えた上で、またおいで」
納得のできない紫苑が、詰め寄ろうと立ち上がろうとし――
修哉と和人に抑えられ、一先ず帰る事になった。
「あの……」
「ん?」
「ユウさんは……納得はしてるんですか?」
「してる訳ないだろ。ただ、俺1人がいきがった所で逆効果になる以上、今はどうにかなる様にする以外に手はないから、耐えてるだけだ。政府まで北郷を推したら、それこそおしまいだからね」
「――わかりました」
――所変わり。
「こんにちはー」
「あっ、いらっしゃい」
「よっ」
勇気のナワバリにて。
光一とひばりが勇気の詰め所に訪れていた。
「あれ? 宇宙さんは?」
「妹さんと出かけてるよ」
「妹? ――ああっ、そういや宇宙さんにも妹居たっけ? 確か、宇佐美だっけ?」
「そう。現役アイドルやってて、今日休暇が取れたからって今一緒にご飯食べてる」
「そっか――じゃあ、話は戻ってからでいいかな?」
「じゃあその間、あたしが宇佐美の相手しとくよ。まじめな話苦手だしな」
「ああそう」
かちゃっ……!
「お待たせ……あれ? 光一にひばり、来てたのか」
そこへ這ってきた宇宙と……
「――ああ、その子? 宇宙さんの妹さん。初めまして、久遠光一です」
「支倉ひばりです。よろしくね」
「あっ、はい。一条宇佐美です――初めまして」
「じゃあ宇佐美、飯食った? なら一緒に遊ぼうぜ
「え? 仕事は……」
「あたし今日はもう終わり。さ、いっくぞー」
宇宙の妹、宇佐美を連れ、綾香は颯爽と“瞬間移動”
残された4人は苦笑し――
「さて……こっからどうするか。その方針についての意見を交わしたいと思ってます」
「そうだな……政府がどう動くかは、俺達美徳や大罪にとっての重要事項。場合によっては、俺達の同盟もおしまいになる可能性もあり得る」
契約者の頂点に位置する7人の大罪と7人の美徳。
そして、一般人側の行政機関“政府”の3派閥が、均衡を保つ事で成り立つ社会――それが“契約者社会”
構図としては、大罪と美徳が対立し、それを仲裁する政府。
政府は大罪と美徳双方に意見をする事が出来、大罪美徳両陣営ともに政府の意見を無視する事だけは出来ない。
「――その政府も、正義の方針を否定する事だけは出来ませんからね」
「政府を責められないさ……政府の立ち位置で言えば、俺達を肯定する事自体が難しい」
「ですよね……北郷さんの方針が、世になくてはならない物だっていう地盤は、テロリストが築いてくれた訳ですから」
「――その地盤どうにかしない限り、北郷の方針は盤石。と言っても……どうすればいいのやら?」
地盤とは、つまり世にはびこる犯罪契約者や、大地の賛美者を始めとする反契約者団体。
これらを如何に正義の方針以外で抑えるか――
「……うーん」
4人は頭を悩ませるばかり。
しかし時は、刻一刻と過ぎていた。




