第53話
北郷正輝の健在
それが示されると同時にテロ騒動が治まり、世は安寧へと戻っていった。
しかし、核兵器や毒ガスなんてシロモノが出て来て、これまで通り。
――と言う訳はなく。
「欲望は未来を食いつぶす有害因子である!!」
――北郷正輝が重傷を負った事による、影響力の低下。
それに伴っての、核兵器や毒ガスと言った兵器を使用するテロの連続勃発。
「此度の事で理解出来ただろう!? 人は高度な力を持ちながら、自身を律することを忘れ、欲望のままに暴虐の限りを尽くし、未来を食いつぶす存在になり果てている!! ――最早我ら人類の未来は、欲望が存在する限り存在はしない!!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」
「正義の契約者、北郷正輝の名において諸君に命じる!! この世に悪と欲望の存在を絶対に許すな!! 悪に絶望を与え、殲滅せよ!! 正義の名の下、未来を――正しき世界を築き上げるのだ!!」
「「「はっ!!」」」
――それらが起因し、正義はその思想と活動、強硬姿勢を激化させる事となる。
また、世の秩序の不安定さが露呈した事で、“ご機嫌取りや理不尽より、規則に気をつけた方がまだ納得出来るし、生存確率はある”
――という考えが世に浸透し始めつつあり、反対意見も今回の事で発言力をほぼ失い、正義は完全に世の流れを担う存在となっていた。
「――大神、貴様が一体何を目論見、我に一条と接触したかは知らん……だが、我が貴様の思い通りになると思うな」
――しかし、変化が起こったのは正義ばかり
と言う訳ではなく……
「――まあ、当然っちゃ当然の流れだよな」
場所は憤怒のナワバリ。
新聞を読み、コーヒーをくいっと飲み干しーー
残虐の契約者、久遠光一はポツリと呟いた
「他人事のように言ってるけど……」
「わかってるよひばり。宇宙さんが傲慢に勝ってなかったら、完全に終わりだった」
世の流れは、正義が完全に掌握している訳ではなく――
今回の傲慢との一騎打ちの勝利の情報が流れ、一部は宇宙の方針――正と負の友好的な関係構築に賛同の意を示す者は出始めていた。
――主に、正義の方針について行けない正の契約者たちや、善意的な負の契約者たちから。
「――つくづく情けない」
同じく新聞を読んでいた宇宙は、ポツリと呟いた。
結局、施しを受けるしか自分の立ち位置は維持できなかった。
――恥を晒してでも、よりよき未来を模索し、見つけ出す覚悟はあった
しかし、自身は組織の長を務める身。
恥を恥と認識すればするほど、自身を信じた者達に対する申し訳なさが湧きでてくる。
「宇宙さん?」
「――いや、なんでもない。それよりだ、2人とも。この先俺達は、正義との対立がメインになる」
「うん。美徳の中じゃ、正義と相対出来るのは宇宙さんだけだからね」
「――とはいえ、どうするかの具体的な案はまだですよ。それに」
「傲慢の動きも、気になるよね」
勇気・憤怒同盟、正義が共通して懸念している事。
――傲慢がこの対立に介入した理由について。
今回の事で、傲慢は正義と同格かそれ以上の力を保有している事が証明された。
更に言えば、傘下にも正義と渡り合えるだけの戦力を保有している。
――そんな力を持ちながら、あれから傲慢は動こうとはしない。
「――この対立を煽って、一体何しようとしてんだか?」
「…………」
「――光一君」
「! ……そろそろ行こう、ひばり。正義と互角以上の傲慢とぶつかるとしたら、今の俺達じゃ勝ち目がないんだ」
「――そうだね」
「――やるしかないか。大神が何を目論見俺達に接触したかなんて、暴いた所で俺にはどうしようもない以上……利用されてでも、進むしかないんだ」
――所変わって、鍛錬場。
ガギィっ!!
「っくぅっ!!」
「――まだ甘い」
そこで綾香に鷹久が、朝霧裕樹相手に模擬戦を行っていた。
綾香とユウが握る刃の潰れた剣がぶつかり、綾香の剣戟が弾き飛ばされる。
「いってえ!!」
「バカ正直に攻めるな――」
ガシィッ!!
「――誰相手にしてると思ってんだ?」
「――!?」
斬撃が弾き飛ばされた瞬間、ユウの後方から鷹久が攻撃
“武装解放・重量強化”の攻撃が――
「えっ!? ちょっ――!!」
「え? わっわああっ!!」
その腕をユウに掴まれ、一本背負いの要領で綾香めがけて投げ飛ばした。
「ま、良い攻めではあったけどね。コンビネーションなら、お前らに勝てる奴はそうそういな――って、何いちゃついてんだよ?」
綾香を下敷きに、胸に顔を埋める様な体勢の鷹久
――と言う形で倒れてる2人に、問いかける。
「いや、ユウさんの所為だろ。それにタカとはそんな関係じゃ――」
「良いから早く離れろ。押し倒された体勢で言われても説得力全然ないし、少しは恥ずかしが……るキャラでもないか」
「――側近がモテて自分がモテないからって」
「悪かったな!!」
鷹久が綾香の胸から顔を離し、ゆっくりと立ち上がる。
それに続く様に、綾香が背と腰を払いながら立ちあがって――
「それじゃ、続きだ!」
「――? どうしたんだよ、えっらい気合入ってるな」
「綾香、宇宙さんと大神さんの戦闘から、こうなんです」
「ふーん」
肩に担いでいた模擬刀を下ろし、くるんと手遊びの様に回し、構える。
「――宇宙の戦いを見て、思う所があったってコトか」
「? 何か言ったか、ユウさん?」
「なにも――良いからさっさとかかってこい」
「「はい!」」
「――勇気はまだ潰えず、か。ならまだ何とかなるか」
「――正義にしても勇気にしても、最良の形で事が進んだ。後は待ち、探すのみ」
「大神君」
「なんだ?」
「――強欲が何やら嗅ぎまわっている様ですが」
「放っておけ。嗅ぎつけたら嗅ぎつけたで、別に構わん」
「はい」
「では、私は眠る。ナワバリは任せるぞ」
「畏まりました」




