第5話
「……いきなりかよ」
所は、光一が住んでるマンション付近の、住宅街の一軒家。
その付近を通りがかった際、不穏な気配を感じた光一は懐に手を入れつつ、その住宅のドアに歩み寄る。
“少々開いている”ドアに……。
「……非常事態だ。仕方ないか」
不穏な気配を感じたまま、光一はゆっくりと中に入る。
――いざという時には、慰謝料を払う覚悟の上で。
「……階段は」
不穏な気配は、上の階から感じる。
そっと光一はリボルバーに手をかけつつ、ゆっくりと上に上がる。
上に上がると、その付近の戸に手をかけ……
「……!」
開いたその先には、住人と思わしき夫婦が布団で眠っていた。
――“白骨化した”姿で。
「……やられたか」
光一は周囲を警戒しつつ、布団を開く。
出来れば作りものであることを期待したが……正真正銘の人骨だった。
「――警告のつもりなのかよ?」
ふと横を見たその先のベビーベッド
そこにも同じく、ベビー服を着た白骨が横たわっていた。
――さらに言えば、壁に警告文と思わしきものも書かれている。
「……光一君」
「――来たか。すまないが」
「追跡やな?」
「いや……この場の隠滅だ。行方不明と言う事にする」
「……了解や」
「それと……極秘任務を言い渡す」
――勇気の来訪から一週間後。
“勇気の契約者、一条宇宙は正義の契約者、北郷正輝の“負の契約者殲滅”と言う方針には従えない。
しかし、美徳勢力の方針を決める為の決闘に敗れた事も事実である以上、その方針の否定はしない。
故に我ら勇気は美徳勢力から独立し、我らは我らの方針で世の問題を解決すべく、独自の行動を展開する。
最早同胞とは呼べぬ身ではあるが、我儘としか言いようがない形の決別となってしまい、申し訳ない”
「勇気は美徳から独立、か。これからきついぞ?」
「……半端な立ち位置は全体を狂わせる。そもそもが、それが原因で現状に至ってる事がわからんほど、俺はバカじゃない」
「じゃあ改めて、同盟成立だ」
「ああっ……改めて、頼むぞ。新たな同胞」
ユウと宇宙、2人は握手を交わす。
「歴史的瞬間、にしたいな」
「そうだね。僕達も頑張らないと」
「うん!」
綾香、鷹久、ひばり。
それぞれ意見を言い合い、喜びを露わに。
「喜ぶ暇はないぞ。早速だけど、共同で当たって貰う仕事はもう貰って来てんだ」
「おっ、早いなあ」
「それから確認事項だ。仕事には絶対に系譜クラスを互いに1人は出す事と、任務失敗はいかなる理由があろうと連帯責任とする。最低限、これ位は呑んで貰うぞ」
「異論はないぞ」
「うん」
「んじゃ、こっちから出すメンバーはこれ。それと、上級系譜は待機だ」
そこで、綾香は目を見開いた。
「なんで!?」
「勢力が釣り合う様にだ。それに、上級系譜が一々2人も出張ったら、滞る物だってある」
「でも、最初は……」
「やめようよ綾香。久遠さんにも考えはあるだろうから」
「……わかったよ」
「じゃあすぐ、こちらから出すメンバーを選ぶから」
「ああっ。じゃあ俺達は俺達の仕事があるから。行くぞひばり」
「うん! それじゃ綾香ちゃん、吉田君。またあとで」
鷹久と綾香は、光一から渡された資料をもとに、派遣する系譜のメンバーの選考に。
光一とひばりも、それぞれ仕事のためにその場を後にした。
「……嬉しそうだな」
「うん! やっぱりみんな笑顔が一番だから」
「……」
「? どうかしたの?」
「いや……なんでもない」
「じゃあ急ごうよ。組織の重鎮が遅刻したら示しつかないよ?」
「……ああっ」
その日の夕方
「――殆どが仲間割れで失敗!?」
その日受け持った仕事の結果の報告にて。
「成功したのは数件。ほかは最悪のタイミングで仲間割れが起こって、完全失敗……そんな! あれだけ、言ったのに」
「まだ始まったばかりだろ。それに失敗のデータは取れたし、データはもう纏めてある」
「流石は光一、仕事が早いな」
「明日の分の仕事も確保してある。今日の失敗が響いて、多少制限つきだが」
「――その辺りは、仕方ないね」
制限付きとはいえ、仕事は仕事であり正負友好の糸口。
鷹久も苦笑しつつ、光一から資料を受け取り、選別に入り始めた。
「……ねえ、こう」
「ダメだ」
「まだ何も言ってないよ!?」
「上級系譜はダメだって言ったろ? 俺達は俺達で、同盟反対派が動いた時に備えなきゃならないんだから」
「それはそうだけど……」
「……焦るな。まだ始まったばかりなんだから」
「……そうだね」
その2週間後
“大笑い! チグハグ二人三脚、憤怒と勇気”
「……大笑いはないだろ」
結局、チグハグ感はぬぐえないまま、失敗に失敗を重ね続ける事2週間。
完全に周囲には、正負友好自体など既に笑い話以外の何ものでもなくなっていた。
「……光一君」
「深紅か。どうだった?」
「ほぼ光一君の予想通りに進んどるで」
「ん……じゃあそろそろ引きあげさせといて」
「了解や」