第49話
「……旋風!」
先手を取ったのは、綾香を下がらせた宇宙。
右の二の腕に竜巻を纏わせ、白夜めがけて正拳突きを繰り出す。
「――ふんっ」
白夜は横に手を突きだし、ぐっと拳を握りしめ――
バリバリバリッ!!
握り拳の動きに合わせ空間が歪み、轟音をあげながら紙を破るかのように、空間が破り取られる。
その破り取った空間を、宇宙の正拳突きの軌道に割り込ませ……
「――!」
宇宙の正拳突きが、止められた。
「――空間の隔ては最強の盾。いかなる攻撃も、空間を隔てる事は出来ない」
「――相変わらず厄介な能力だな……だが!」
左手を人差し指を突きだした形に握り、その指先に螺旋状の風を纏わせ--
「“風銃”」
風の弾丸を、白夜めがけて発射させる。
その全てを、顔と体を少しひねった程度で回避し、白夜は一歩踏み出し、大剣を突きだした。
「――! 甘い!」
その突きを腕で払い、宇宙が踏み出すと同時に突如白夜の足元から、突きあげるかの突風が吹き出し、白夜の身体を押し上げる。
「もらった!」
その突きあげる突風に向け手を突きだし、握りしめると宇宙は飛び上がる。
風に身体を締めつけられ、白夜は身動きを取れず――空間を引き裂く事も出来ないままに、宇宙は自身の動きと風を同調させるかのように、握りしめた風を操る。
「――気流投げ!」
白夜をとらえた風を帯の様に操り、円の様な軌道を描き――
「でえええやっ!!」
丁度真上の地点に到達すると同時に、宇宙は身体を捻って勢いを着け、白夜を地面にたたきつけた。
たたきつけられた地面は陥没し、そこを中心に轟音をあげながらせんべいの様に割れ、破片と土ぼこりを、宇宙の制御から離れた風にまき散らされる。
「……」
宇宙は着地し、巻き上げられた土ぼこりと破片を風で払い、白夜の落下地点へと警戒しつつ歩み寄る。
「――今のは効いたな」
ガラガラと破片を押しのけ、額から血を流しつつ白夜は立ちあがった。
「ウソつけ」
「北郷に敗れ、落ちぶれた負け犬にしてはな」
「――ああそうかい」
「……怒らないのか?」
「――ああ。俺は北郷に負けた挙句、その方針に従うのが嫌で尻尾巻いて逃げた負け犬だ。負け犬だの恥さらしだのと罵られても否定は出来ないが、それでも出来る事はある」
「…………」
それを聞き――白夜の纏う雰囲気が、ほんの少しだけ変わった。
「出来る事とは何だ? ――悪戯に世をかき回す事か?」
「――違う。必要以上に命を剪定するやり方じゃない、別の方法の模索だ」
「……そんな物があるとは思えんがな」
「探すんだよ! 殺し殺されが続くんじゃ、第三次世界大戦の終結させた意味がないし、このまままたどこかの誰か、今度は赤ん坊にでも救われるのを待つんじゃ、底なしの恥さらしでしかないだろ! ――大体お前は、対をほったらかしにして一体何していた!?」
「――北郷正輝の正義には十分な正当性がある以上、私はそれを止める気は一切ない」
なんでもないかのように言い放った言葉。
――それは宇宙が自分の耳を疑うには、十分なシロモノで。
「――負の契約者だろう、お前は?」
「生憎と私は、のうのうと生きてきた訳でも、恥を知らん訳でもない――子供に救われた世界でこんな事になっている以上、しかたのない話だと思っている」
「仕方がないで済む話じゃないだろ」
「仕方がないですまない話など、幾らでもあるだろう。我ら14人を恐れ、その血筋に関係者を対象に魔女狩りじみた行為を行った、“大地の賛美者”の前身にあたる者達。更には、量産型ブレイカーの力を悪用し、自らの欲望を満たす事しか考えない者達……人の価値が腐りきった証明として、これ以上の物はないだろう」
「ああそうだ、それを否定できないから俺は黙っていた……だがそれでわかった事は、理解する事と納得する事は別物だって事だ」
「――違いない」
白夜はそう言うと、地面から突き立てた大剣を抜き構える。
「――さて、どうする? 戦うと言うなら相手はしよう」
「――どの道、否定なんて出来やしないだろう」
現状、勇気は美徳の反逆者であり、正の契約者でも厳しい立場。
傲慢と正義の上級系譜がぶつかっている以上、勇気側にも何らかの功績――例えば、正義と互角の戦いを繰り広げた傲慢相手に勝利――が欲しい所。
「――では問おうか。何の為に戦う? ……北郷正輝を踏み躙る為か?」
「違う――俺はあいつを否定したい訳じゃない。俺は――ただ、狂気が秩序を担わねば安寧など存在しない、この暴走しきった世界を変えたいだけだ」
「止められるのか? おまえに」
「その覚悟が出来てないなら、北郷との決闘の場には立たない」
しばし無言の時が続き――
「――負け犬の言葉は撤回しよう」
突如、白夜はそう言い放った
「――ならば私も、相応の覚悟で参らせてもらおうか。勇者」
「……お前の目的は何なんだ一体?」
「…………」
「――だんまりか。まあいい!」
――所変わり、正義と傲慢の交戦地点
「うおおおおおおおおおおおっ!」
「うおらあああああああああっ!」
怒号、轟音、銃声――あらゆる音が重なり合う場、戦場。
「この!」
「うあっ!」
1人、また1人と倒れゆく中――
「傲慢軍を追いこめ! 1人残らず殲滅しろ!!」
正義軍の士気は依然として下がらず――寧ろ、時がたつごとに上がり続けていた。
意思その物を鉄槌とするかのような、鬼気迫る気迫。
それもまた、正義の軍勢の武器である。
「行け! 負の契約者を皆殺しにしろ!!」
「悪と言う存在を絶対に許すな!!」
「正輝様の掲げる正しき世界、絶対に創り上げるんだ!!」
それに対する傲慢軍も、その気迫に押される事無く一進一退の展開。
相手が正義ともあり、意思の強い系譜候補を選別した精鋭ともあり、気迫負けはしていない。
「――我らが気迫に押されぬとは」
「生半可で正義に挑んだ所で、勝負以前の問題でしょう?」
白夜と宇宙のやり取り
――思った以上に難しい。




