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第45話

正義と傲慢の一騎打ちから、1週間が経過。


「――どうなってんだよ一体!?」


北郷正輝の重傷が齎した物。

――それは安息の日々ではなく、逆に今まで以上の不安が渦巻く混迷の日々だった。


傲慢と正義のトップであり、大罪と美徳両陣営最強戦力。

その2人の、特に一般人に被害を出していると言うものの、徹底的かつ苛烈な思想で秩序の要となっていた正義の影響力が弱まったことで、一般人側のテロが一斉決起。

大地の賛美者を始めとする反契約者集団から、現政権に対するテロ組織――契約者の殲滅の為に、手段を選ばない者達。

それにより避難勧告は解かれる事はなく、あちこちで引き起こされるテロに怯える日々。


――ニュース自体は流れてはいるが、契約者社会でまず開発される事のない毒ガス兵器や、核兵器の使用未遂。

そんな不安を促すような内容ばかりが報じられ、誰もが眠れぬ世を過ごしていた。


「――なんでだよ、畜生」

「……信じられない。なんでこんな急に」


――憤怒の難民キャンプ。

緊張と疲労がピークに届きつつある極限状態で、修哉、和人、錬、紫苑は、修哉達にあてがわれたテント内で横になり、ごちていた。


正義が重傷を負った事への喜びもつかの間。

間髪いれずに、テロの連続勃発に不吉な報道の数々……ものの見事に、喜ぶどころの話ではなくなっていた。


「――もしかしてユウさんが懸念してたの、この事なのかも」

「修哉!!」

「でも、それ以外に説明がつかないだろ? だって正義と傲慢の一騎打ちの終わりからだぞ。毒ガスだの核兵器だの、そんなニュースばっかり流れるようになったの」

「うっ……」

「……修哉の言う通りだよ、錬。毒ガスや核兵器が一朝一夕で用意できる訳もないし、俺達が遭遇した大地の賛美者のテロだって、そんな物あるなら首相も来てたロボットのお披露目で使ってる筈――こうなる事を見越してたとしか思えないよ。もう」

「――つまり、あれを肯定しなきゃいけない理由が、こうして明るみになってるって事? ……笑えない話ね」

「――正義のボスが大怪我負って、気がすっとした途端に地獄……そんなの在りかよ畜生」


吐き捨てるようにそう言った紫苑に、錬も続く様にそう呟く。


「――あちらを立てればこちらが立たず、か」

「……確かに、契約者社会で手を出される事がない核兵器だの毒ガスだのが出てくるんじゃ、納得できないで済む話じゃないね」


――契約者社会において、毒ガスや核兵器は需要自体がほとんどなくなっていた。


毒ガスに関しては、警察や自衛隊と言った一般人側の治安組織はパワードスーツを使用しており、ガス兵器の意味を成さない事が多い。

それに加え、契約者の中には毒を扱う能力も確かに存在するが、そう言った能力は自身も危険に及ぶ事があり得る為、致死性の物や毒ガスが使われる事は全くない。


格兵器においても同様。

契約者社会においては、上級系譜や一部の下級系譜以上が精製できる思念結晶体クリアが、主なエネルギー源として使用されている。

それ以外は風力や水力と言った物に限られていて、原子力発電は必要とされていない上に、核兵器の需要自体大罪と美徳の存在により、既に失われていた。


「――まあ、それ位であの人やそれと同格が死ぬとも思えないけどな」

「そうだね。俺達にとって救いと言えば、傲慢と正義以外の大罪や美徳が直々に出張ってて、次々とテロを鎮圧してる事だからね――要を失ったにもかかわらず、快進撃の正義の軍勢の事は耳障りだけど」




「うっ、うわあああああっ!!」

「うっ、撃てえ! 撃ちまくれ!!」


――所変わり、憤怒のナワバリで起きたテロとの交戦地点。


相手はたった1人――にもかかわらず、テロリスト達は恐慌状態だった。


ジュウッ……ジュウッ……!」


「――うっとおしいな、おい」


そのたった1人――憤怒の契約者、朝霧裕樹。

手には打刀と呼ばれる刀と、その鞘をもちゆっくりと歩みを進めている。


――全身からマグマを噴き出し、滴り落ちたマグマが地面を焼き、自身に向け撃ち放たれる銃弾すらも溶かし、マグマの一部としながら。


「銃や砲弾じゃダメだ、ミサイル撃て!!」

「けど……」

「こうなったら道連れだ! 撃……」


ヒュンっ! ヒュンっ!


「うあっ!」

「ぎゃあっ!!」


キンッ!


「――甘く見過ぎだ、バカが」


格兵器の砲撃指示

それが飛びかけた一瞬、その周囲にいた人間は昏倒し倒れ――


「――第二陣の片付け終わった。状況説明と、この地点に向けての回収班の手配頼む」


刀を鞘におさめ、マグマを纏わない姿のユウが携帯電話を取り出し、指示を出していた。




「うわああああああああああああっ!!」

「ひっ、ひいいいいいいいいいいっ!」


一方、勇気のナワバリ。


パワードスーツが風で四肢を切断され、吹き飛ばされ、次々と身動きが取れぬ状態で積み上げられていく。

砲弾や銃撃も風に巻き上げられ、勢いを殺された上で地面に散らばり――


使用した毒ガスも、風で造られた膜に閉じ込められ――


「おい、ボサッとしてないで誰かタンク持ってこい!」


勇気の契約者、一条宇宙。

テロリストたちは、正義に敗れたと言えど勇者の異名はダテではない事を、思い知らされる結果となっていた。


「――あたし達が苦労してんの、一体何なんだって思えてくるなあ」

「綾香、次だ! 急ぐぞ!!」

「了解だ、宇宙兄!」




ザバアッ!!


「だっ、だずげごぼごぼっ……!」


「――“乱海”……“氷獄”!」


陸地だと言うのに、洪水が巻き起こされ――テロリストの一群を呑みこむ。

その洪水は、次の瞬間――


ピキィーーン……!


音諸共に、そのすべてが凍りついた。

長刀を手に、丈の短い着物を翻し、舞うような動作でそれらを引き起こした女性は……


「蓮華ちゃん、こちらの方々の処理をお願いします。次に行きましょう」

「了解です。つぐみ、怜奈様の援護は任せる」

「はい、任せてください」




「――“誘惑テンプテーション”……潰し合いなさい」

「「「――はい」」」


チャイナドレスの上に、自身の腕の二倍の長さの袖の白衣を羽織った女性。


姿を現した途端、男性のテロリストは全員が行動を停止し――

敵の指示をうのみにし、同士討ちを始めた。


「色欲の契約者、花柳月!」

「あの女だけでも!!」


それが通用したのも、男性のみ。

女性もしっかりといる為、それらは惑わされず攻撃を――


「あらあら、ダメよ女の子がそんな顔しちゃ……“薔薇ローズダンス”」


袖が膨れ上がり、袖口から幾多もの薔薇が姿を現す。

オーケストラの指揮をするかのように両腕を振り上げ――舞うような動作で、次々と女性のテロリストを蹴散らしていく。


「品を欠くようでは失格よ。女性らしさと強さは、両立しないと」




「がっ! カかっ……!」

「――オレのナワバリ荒らすんじゃねえよ、バカが」


ワニ革のコートを纏い、オールバックの男。

左腕に砂を纏わせた巨大な手を構築しながら、右腕でテロリストの男の首を掴み――。


「あっ……かっ……」


その次の瞬間、テロリストの周囲の空気が一瞬で乾き――テロリスト本人もみるみる干からびて行き、ミイラの様な姿へと変貌。


「――これで最後か」

「兄貴、兵器の処理班到着しやした!」

「ああ、じゃあ次行くから処理頼むわ」


そう言って、砂に埋もれたパワードスーツを始めとする、兵器群

その中や外問わず――テロリストは1人残らず、干からびたミイラとなって横たわっていた。




「――なっ、なんだよあれ」


ロングコートにフードを被る男は、眼前のテロリストたちを見据え――

その次に彼は、自身を守る様に周囲に控えている4体の思念獣に目を向ける。


形は鹿、顔は龍に似ていて、牛の尾と馬の蹄、頭に角を持ち、後方に控える獣“麒麟”

炎を纏い、神々しさを纏い頭上に控える鳥“鳳凰”

山を思わせる様な風貌の甲羅をもち、盾の様に控える“霊亀”

強固な鱗を纏い、その長い身体を鎧の様にして男に巻きつく“応竜”


“四霊”を模った思念獣達。


「――ひっ怯むな! 撃て! 撃ちまくれ!!」

「――行け。殺すなよ」


四霊たちが了解と言わんばかりに咆哮し、テロリストたちに襲い掛かる。

――内容は、怪獣映画かと言わんばかりの一方的な弾圧でありながら、死者は皆無という結果に終わっていた。


「凪さん!」

「--処理を頼む」




「――めんどくせえ」


けだるそうな雰囲気が見てわかる、3メートルを超す大男。

右手に鎖が巻かれ、それはさらに自身程はあるだろう鉄球に繋がれている。


「撃てえっ!!」

「――めんどくせえ。この程度の攻撃」


銃撃の嵐が襲い、ハチの巣――と思われたその男は


「――めんどくせえ」


一切無傷で、銃弾は身体に突き刺さる事なくバラバラと地面に落ちて行く。


「――めんどくせえ。殺さないよう手加減するの、めんどくせえ」


「なっ、何だ?!」

「かっ、身体が!? うっ、うわああああああああああああっ!!」


男が左手を掲げ、その掌に何かのエネルギー体を構築。

その瞬間、それに引き寄せられるかのように、兵器群にテロリストどころか、草木に岩石や意思までも引き寄せられていく。


「――めんどくせえ」


ぐしゃっ!!


「ぎゃああああああああああああああああっ!!」


断末魔が響き――


「――ヘッド、次行くぜ」

「――めんどくせえ。後処理、めんどくせえ」

「やっとくから次行ってくれ」

「――めんどくせえ」


処理班が見た物

――それは、地面にめり込み昏倒しているテロリストたちと、兵器の残骸だった。




「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


咆哮が響き、銀の毛皮のジャケットに、爪を模した銀の小手に大斧を持ち、強い意志が湛えられた瞳に一本線の切り傷のある顔。

そんな歴戦の勇者を思わせる、3mはある大男が咆哮し突進。


「ぬおらああああっ!!」

『うっ、うわあああああああああっ!』

『ちょっ、マジかよ!?』


その男は、軽く自身の体格を凌駕するパワードスーツの群れを蹴散らし、突進。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


その鬼気迫る方向に、テロリストはひるみ――

その間に格兵器を積んだ兵器群は動力源を引きちぎられた揚句……


「“爆砕撃”!!」


周囲は、爆発を纏った斧の一撃で、簡単に薙ぎ払われた。


「よーし、次だ!!」

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」




「…………」


黒いゴシックロリータドレスを纏い、手には日傘を持って頭にはヘッドドレス。

顔には化粧が施され、まるで人形を思わせる少女が、テロリストの集団向けて歩む。


「…………」

「嫉妬の契約者、陽炎詠だ!」

「撃て! 撃ち殺せ!!」


テロリストは、嫉妬の契約者であることを確認し、一斉射撃。

少女は怯む事なく、日傘で自身の影を突き――


『オォォォオオオオオオオっ!!』


その影が唸り声をあげ、起き上がるかのように立ちあがって、少女を銃撃から守る。


「…………」


その次に、少女は日傘を持たない手をすっと前へ突き出し


『オオオオオオオオッ』

『クルシイクルシイクルシイクルシイ』


苦声の様な物をあげる何かを集め――それをテロリストに向け、解き放つ。


「あっ……ああああああああああああああああああああああっ!!!」

「ひっ、ひぃひわばあえがtけおあれあらえらか!!??」

「ごっ……ふえあわわ……けひ……」


断末魔、狂ったような叫び声が響き、中には倒れ中には苦しみもだえ――1人残らず、狂人になり果てていた。


「お見事です、マザー。後の処理はお任せを」

「…………」




「さーて、やりますか」


ホットパンツにタンクトップ。

適度に引き締まった、運動系のしなやかな身体を惜しげなくさらす少女。


その少女は、手に電撃を纏わせ――


「なっ、何だ?! ぶっ、武器が!!」


その手を掲げると、敵側の金属製武器が引き寄せられ、1本の巨大な腕を構築。

更にはそれらは電撃を纏い――


「悪い子にはお仕置きだよ!」


その巨大な腕で、テロリストを薙ぎ払った。




「――ふむっ」


スキンヘッドに、口元が耳まで裂けた頬に、ファスナーを付けた顔。

更に、生体改造で取り付けられた手首から先が口になっている腕を含めた、4本の腕が特徴的な男。


向かって来る砲弾を――。


バギンッ!


「ボリボリゴクン……不味いですね」


噛み砕いた揚句喰った後――思い切り息を吸い込み、べゴンと音が鳴るかのように腹が膨れ上がる。


「“破壊音声クラッシュボイス”!」


――破壊力を持った声が、衝撃波となり敵を薙ぎ払った。




ピュンッ! ボムっ!


「――警告だ、帰りたまえ!」


肩まで伸びた髪に、高級感あふれるスーツを纏い、メガネをかけた知的な雰囲気を持つ男性が、眼前のテロリスト集団に警告。

――レーザーを撃ち、パワードスーツ1体破壊した上で。


「撃てえ!!」


「やれやれ」


放たれた銃弾は見事に空を切り――


ザンッ!!


「え……?」


その次の瞬間、パワードスーツの群れは光の剣で、全てが薙ぎ払われていた。


ピュン! ピュンッ!


「うわっ」

「わっ!」


その次にレーザーが放たれ、武器を撃ち抜き――


「おしまいだ」


武装を全て破壊され、あっさりと捕縛される事となった。


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