第44話
正義と傲慢の一騎打ち開始から、1日半経過。
「――うっ……」
「――くっ……」
満身創痍。
2人の今の状態を表現するとしたら、まさにそれである。
白夜も正輝も、意思はまだ途切れてはいないが、最早身体は限界を超えた状態。
一日半を休みなしで戦いを続け、更には周囲の景色を軽く一変させるような力をぶつけ合い、身体が原形をとどめている事自体がまずあり得ない話。
動け動けと言わんが仮に力を込めているのか、2人の身体は痙攣のような細か過ぎる動きをただ続けるのみ。
「――貴様……何が、目的だ……?」
「……何がだ?」
「……ただの、時間稼ぎで……ここまで、やる、理由等……ない筈」
「教える……必要など、ないな……お前は、どの道……進み、続ける……以外の、道など……ないのだ」
北郷正輝の正義の根幹は“後退、妥協、躊躇を一切許さない”
それをモットーとした、徹底的な強硬姿勢を崩さない意思の力にある。
白夜の呼び出しを拒否せず、要求通りに単独出来た事も、それによる物である。
――その反面融通が全く利かないため、幾分に狂気を孕んでしまっているが。
「――しかし、お前は……わかっているのか?」
「……私と貴様が共倒れとなった以上、貴様の影響力で抑えていた一般人側のテロ組織が、一斉に決起するだろう。世は大混乱へと、見舞われるだろうな」
「――! それを、知っていて……」
「――構わんだろう。どうせ人は力で、それも狂気でしか理解出来ないまでに堕ちたのだ。この契約者社会にのさばっている大馬鹿者共も、口ばかりが達者で現状を省みる事も出来んゴミ共もだ……用は済んだ。また会おう」
「――! 待っ……!」
ビキッと、何かが割れるような音が響く。
――それと同時に、白夜はその姿を地面に呑みこまれるかの様に、跡形もなくその場から姿を消し去った。
「――本当に手遅れならば、我がやった事でも抑えられはせん……」
――そう呟き、北郷正輝は意識を手放した。
――その次の日。
“2日に及ぶ傲慢対正義の一騎打ち、終結。結果は引き分け、互いに重傷
そのニュースは、即座に世を駆け巡った。
世は漸くの戦いの終結に、一先ず安堵を感じ――
「やったー! ざまあみやがれ、正義め!!」
「よくやってくれたな、傲慢!!」
憤怒のナワバリでは、歓喜の声さえも上がっていた。
――一般人の間でのみ。
ただ、一般人より早くその情報を手に入れた者達……契約者の頂点達は、情報が入った時点で行動を起こしていた。
――強欲のナワバリにて。
「――結果は引き分け、互いに重傷か……」
「で、どうしやす兄貴?」
「ナワバリの警備強化と、傲慢の調査だ。あの野郎が何を目的に正義に吹っ掛けたのか、それを調査するんだ」
「へいっ!」
「――さて……場合によっては、交戦か同盟か。いずれにせよ、覚悟は決めとくか」
――暴食のナワバリ
「――勇気と正義の決闘。その舌の根も乾かぬ内に、よくここまで色々と起こるものです」
「俺様たちはどうすんだよ、ドン?」
「防衛に徹する方針でいきましょう。小生達にとって、この騒動で得る物はない以上ヘタに動く訳にも行きません――事によっては、小生も直々に出向きましょう」
「ん、了解だ」
「――しかし、一体何が目的でこんな事をしたのでしょうね? 大神さんは」
――怠惰のナワバリ
「――めんどくせえ……大神、めんどくせえことしてくれた」
「どうすんダ? これじャ、ヘタに動くと俺達があぶねえゼ」
「――めんどくせえ。ナワバリの防衛するの、めんどくせえ……」
「へエ――え? おいおイ、ヘッド自ら出んのかヨ?」
「――めんどくせえ。めんどくせえから、さっさと終わらせる……めんどくせえけど、もっとめんどくせえことにならないようにする」
「普段かラ、そうしてくれるとありがたいんだがネ。いざという時以外しカ、自分で動こうとしないんだからヨ」
――嫉妬のナワバリ
「…………」
「それで、いかがなさいましょう? 吾輩としましては……」
「…………(ギロッ!)」
「――失礼いたしました。では、防衛に徹する事としましょう。吾輩が陣頭指揮を執ります故、ご安心を――では、そろそろ演奏のお時間です。ミス・ファントム」
「ええ。ではマザー、こちらへどうぞ」
「…………(コクっ)」
――色欲のナワバリ
「うーん……やってくれたわね、大神ったら」
「……どうしましょうか?」
「――病院に私の能力で、防壁を張って回りましょ。しばらく病院はカン詰になるだろうけど、そこは我慢してもらうしかないわね。と言う訳で、瞬間移動使える系譜、呼んでちょうだい」
「畏まりました」
――希望のナワバリ
ダダダダダダダダダダっ!!
「「――親方! 先ほどの情報は……」」
「騒ぐな! ――我らの方針は防衛だ。ただ……」
「「ただ?」」
「正義と勇気の上級系譜の激突の際に、怠惰の怪人と思わしき者の動きがあったという情報も入っている以上、怠惰にも気を……」
「ならば討って出ましょう、親方!」
「熱血騎馬軍、いつでも出撃準備は――」
「バカヤロウ!!」
バキャアッ!!
「「ぐはあっ!!」」
「先走るな! ――正義の影響力が弱まった今、何が起こるかは分からんのだ。迂闊な行動は己が首を絞める事になる!」
「「――失礼、致しました……」」
「――では、ナワバリの警備強化を優先とし、怠惰には斥候を送れ!」
――誠実のナワバリ
「凪さん、先ほどから何度もタロットで何を占ってらっしゃるんですか?」
「――おかしい」
「――?」
「傲慢が何故こんな行動に出たのか――それが出ない」
「――? ちょっと待ってください。凪さんが、ですか?」
「――仕方ない。龍清、これを」
「? なんですか、これは?」
「襲撃があるだろう場所のリストだ。そこに重点的に人員を配置する様伝えろ」
「――! はっはい!」
「――世の暴走は、尚もとどまらないか……」
――慈愛のナワバリ
「――つぐみ、蓮華ちゃん……ナワバリ防衛には、ワタクシも出向きます」
「――そんな! 怜奈さん直々に出るなんて」
「そうです、怜奈様。ここは我々に……」
「いいえ、最早何事もなく終わることなど出来ない以上、せめて少しでも被害は食い止めねばなりません――このような時にまでお飾りで居ては、このナワバリに安心などあり得ません」
「――わかりました。我ら2人、どこまでもお供します」
「怜奈さんにそこまでの覚悟があるのなら、それを支えるのはあたし達の役目です」
――友情のナワバリ
「――あーあ、怜奈ちゃんとの話し合いに入る前に、こんな事になるなんて」
「どうすんだい、姐さん」
「姐さん言うなって何度言えばわかるの? ――こうなった以上、仕方ないね。ナワバリの防衛をメインに、しばらく耐えるしかないか」
「――了解っす」
「……ああ待って。防衛にはボクも出るからね?」
「! 姐さん自ら!?」
「だ・か・ら! 姐さん言うな!!」
各地の頂点達は、これから起こる事の予期と、それに対する備えを進め始めていた。
――そしてここ、憤怒でも
「――もう影響が出てるとはな」
場所は、難民キャンプ周辺。
――憤怒の契約者、朝霧裕樹はごちていた。
『――死ねえ、バケモノぉ!!』
眼前にそびえたつ、盗んだだろう土木作業用パワードスーツ。
ドリルとなっているその腕を振り上げ、ユウめがけて振り下ろす。
ガシィッ!!
しかしそれは、あっさりと片手で止められた。
――ドリルを掴み、回転もあっさりと止められた上で。
「――よいしょ」
『うっ、うわあああああっ!!』
そのまま掴んだままで、ユウはパワードスーツを持ちあげ――
ガシャアアアアア!!
およそ30度くらいの角度になった後に、地面に軽くたたきつけた。
操縦者が軽いパニックに陥っている間に――
バキィッ!!
操縦席をこじ開け、操縦者を引っ張り出し――鎮圧終了。
「――楽観視してたわけじゃあないけど……」
ドゴッォォオオオン!!
「――こりゃ予想以上になりそうだなおい!」
戦いの終わりは、決して平和を生みだす訳ではない。
傲慢と正義の共倒れと言う事もあり、契約者側の均衡自体は何とか釣り合っている状態。
しかし――契約者社会の秩序を担う要である存在、正義の契約者の影響力が弱まった事。
それにより、一斉に大地の賛美者を始めとする反契約者団体、あるいは現政権に対するテロ組織等、一般人側のテロ組織が決起。
第三次世界大戦終結時から、確かに存在していた物――一般人達の黒い意思。
正義の契約者の影響力で抑えられていた……否。
正義でなければ抑えられなかったそれらが、ダムの決壊の様に噴き出し――世を混乱の渦へと引き込む事となる。
最近、本編の改訂がうまく進まないです
――何かいい剣ないかなと思ってみたり




