第43話
正義と傲慢の一騎打ちが始まり、丁度一日が経過。
廃墟区画であったその場は、最早文明の痕跡すら残さず消し飛ばされた揚句、その周辺すらもその姿を変えていた。
――草木一本残さず、消し飛ばされた更地へと。
「はああああああああああっ!!」
バギィィィィン!!
――その元凶ともいえる2人の男が、その中心がぶつかり合う光景。
“異界物質”で造り上げた大剣の刀身がへし折られ、その破片が宙を舞い大地に突き刺さる。
へし折れられると同時に、2人の男が距離をとり――
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン……ドスっ!!
「ぐっ……くぅっ……」
へし折られた大剣の刀身が宙を舞い、地面に突き刺さる。
――と同時に、へし折った左拳を抑え、微かに呻く。
「……漸く拳1つ潰れたか」
「――舐めるな……まだ右拳も脚も健在。それも潰れたなら、這って噛みつくまで」
貫かれた傷を、熱量を圧縮し焼いて塞いだため、焼けただれた腹と背。
両拳は既に血まみれとなっていて、左拳は痙攣しながらだらりと力なく垂れた状態で、尚も動けと言わんばかりに左腕に力の入った状態。
――残された右拳をギリっと握りしめ、北郷正輝は眼前の敵を見据え、睨みつける。
「――拳1つでは、意思は折れんか」
肩まで伸びた白い髪も端整な顔も、その半分以上を自分の血でまみれさせ、更には背から生える3対6翼の天使、堕天使、悪魔を思わせる翼も殆どがボロボロに。
更に言えば、正輝の“徹拳星砕”を、まともに受けたダメージは決して軽くはない。
だと言うのに、疲労もダメージも顔にも雰囲気にも一切出さず、常に戦闘時の――相手を射抜くかのような、冷たい眼光を瞳に湛えた状態を決して揺るがせない
なんともない――そう言わんばかりに、白夜は構えをとり相対する。
――ぶつかり続ける事、丸1日。
それでもなお、2人の意思は折れる事無くひたすらに相手を見据えていた。
「――その意思は大したものだ。だが……」
「――否定なら幾らでもしろ。それに自己満足以外の意味を持たせる事が出来るのならな」
「なかなかに言ってくれる」
「この世界には自己満足しか生み出せん者が、あまりにも増え過ぎた。それが負の契約者の横暴、大地の賛美者、そして我が正義を肯定する流れをも創り上げたのだ――肯定も否定も、本来意味など必要ないと言うのに」
「その通りだ――だが貴様の正義然り、一条宇宙の思想然り、全に幸福を与える思想など存在しない以上、人は本来意味などない筈の肯定と否定を繰り返すしか道はない……人の歴史など、所詮はそんなものだ」
そして我らもまた同様。
――そう白夜は続け、正輝は顔をより険しくする。
「だがそれも最早止めねばならん――言葉を聞き入れようとせず、体罰を逆恨みの引き金とし、常に自分が満たされて当然と勘違いする者達が、欲望を現実の力に変えてのさばる世となり果てている……だからこそ、我はその存在を否定する」
「――それもまた、肯定と否定が織りなす輪廻の一部にすぎんと言うのに」
「ならば今はその輪廻の一部となろう――延々と欲望を垂れ流し、苦痛を生み出し続けるのみになり果てた輪廻を否定し、終わらせる為にな!!」
そう宣言すると同時に、正輝は拳を振り上げ――
「“大地震”!!」
――その一方で、世は2人の戦いにより大混乱へと陥っていた。
全面戦争程ではないが、それでも大罪と美徳が直接ぶつかる事自体、世を揺るがせる重大な事件。
更に言えば、契約者最強の14人の中でも、大罪最強と美徳最強がぶつかる事による影響は、直接的にも間接的にも世界その物に大打撃を与え――。
「落ちついてください! 既に準備は整ってます、焦らなくても大丈夫ですから!」
「コラそこ、何やってんだ!? ケンカすんなよ!!」
勇気のナワバリでも、難民キャンプの設営に食料や医薬品などの準備。
そして所々で起きる暴動の鎮圧に、総動員で事に当たっていた。
「落ちついて! 落ちついてください!!」
「大丈夫、ケンカしなくたって――ってコラ! 何やってんだそこ!!」
「――ええ!? うん、わかった。今からそっちに行くから!」
「どうした、タカ?」
「第5キャンプで大喧嘩が発生してるって。綾香、テレポート」
「よし、任せろ!」
現状、どこも難民の鎮静に大あらわだった。
それも落ちついてきた頃合い。
「――ふぅっ」
「疲れたね……」
所変わり、憤怒のナワバリ。
こちらは瞬間移動能力者が居ないため、移動手段自体がクエイクに頼り切り。
「――お疲れ様です」
「あ~」
光一とひばりが普段執務室として使ってる部屋。
そこで、出不精の来島アキが、ひばりの拾った赤ん坊の面倒を見ていた。
――合成獣ソルジャードッグ、信長、秀吉、家康の3匹を護衛に着けて
「何故私が……?」
「出歩いての仕事はないんだから良いだろ?」
「それはそうですが……」
「それに護衛だって付けたんだからさ」
「わんっ! わんっ!」
「きゅ~ん」
「わんっ!」
足元で柴犬ベースの合成獣、信長、秀吉、家康の3匹が揃って鳴き声を上げる。
「……まあいいでしょう。でははい、どうぞ」
「う~」
「おいでおいで」
――こっそりそんな3匹に和みつつ、アキはひばりに赤ん坊を手渡す。
「――それで、状況は?」
「よくない。どこもかしこも、正義がらみって事で恐慌状態だ――避難が終わってる以上暴動は起きないだろうけど……大地の賛美者が何かやらかさないかが心配だ」
「――確かに、暴動起こすには絶好のチャンスですからね」
「――一応、身元自体はチェックしてるから大丈夫だとは思うけど、何かあった時の為にクエイクはここに置いとく」
「――メンテナンス機器一式の搬送と同時に私を連れて来たのは、そう言う事だったんですね」
「そう言う事だったんです。と言う訳だから、頼りにさせて貰いますね。来島大先生」
――グラグラ……!
「――? 地震……?」
「ただの地震じゃないな……恐らく、正義が地震引き起こしたかな?」
「……まだ続いてるんでしょうか?」
「頂点同士の戦いだと、ヘタに人員送れんのが痛い所だよ」




