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第41話

「――ただいま」


時は夕暮れ。

憤怒の契約者達の詰め所に、少々疲れた雰囲気で光一は戻ってきた。


「よう、遅かったな」

「――すまん、拘置所の囚人たちの暴動だから、ちと手間取った」

「そうか」


備え付けのソファーに腰掛け、フゥッと一息。

それから……


「あっ、そうだ。これ退院祝い――」

「……いらねえよ、もう」

「? ――何か、あったのか?」

「――お前ら契約者と俺達一般人とじゃ、見てる物が全然違うって事がよくわかった。所詮俺達じゃ、どう足掻こうと……」

「錬!」


修哉達に止められ、煮え切らない――そういった態度で、錬はムスッとした表情でどっかりとソファーに座る。


「――報告しても良いか?」

「ああ」

「俺が赴いたのは、拘置所の契約者専用連での暴動鎮圧だ。主犯は……」


光一はふと、ひばりの方に目を向け……ひばりの腕の中ですやすやと眠る赤ん坊を見た。


「――この前ひばりが捕まえた強盗殺人犯だ」

「……!」

「そいつが、看守に紛れ込んでた“大地の賛美者”の手引きで、大規模脱獄を引き起こしたんだ――暴動は鎮圧、大地の賛美者は捕らえた。今後の処置としては、拘置所の警備体制の見直しと、配備する人員の身元調査の……」


「――なんで殺しちまわなかったんだよ? そんな危なっかしいの」

「錬!」


錬がムスッとした表情のまま、ぼそりと呟いた言葉。

それは、光一の耳にも届いており――


「――そんな事したら、余計な物を呼びこんじまうだけだ」

「久遠君も同じような事を言うのね?」

「――そう言うのがせめぎ合ってるのが正と負、そして契約者と一般人なんですよ、佐伯さん。納得できないもんなら、契約者だろうと一般人だろうと抱えてます」

「だから我慢しろっていうの!? 一方的に契約者に蹂躙されるしか――」


「もうよせ。赤ん坊の前だぞ!?」


ユウの仲裁で、双方ははっと眼を見開き、ひばりの方を――

正確には、ひばりに抱かれてる赤ん坊を見据える。


「――光一ももうよせ。一般人にしても契約者にしても、もうどっちが悪いかなんて比べようはない事くらいわかるだろ」

「ちょっと、それは聞き捨てならない――」

「世界大戦終結から契約者社会樹立までの間に、大地の賛美者の前身ともいえる奴等が契約者の家族や友人に対して、魔女狩りみたいな事をしていてもか?」

「「「「――!」」」」

「――契約者だ一般人だって言った所で、所詮は同じ人だ。俺だって失った物は少なくはない以上、失う事に力の有無は関係ないんだよ……さ、今日はもう帰った方がいい。いろんなことあり過ぎたろ? 今タクシー呼ぶから」



――修哉達が帰って、数分後。


「――さて、さっきの報告だが……この時期に厄介な火種が舞い戻ってきやがったな」


大地の賛美者の活動再開。

――勇気との再同盟を控える側としては、浮上した新たな問題とも言えた。


「――美徳側は強硬派筆頭の正義が掌握。住民は強硬論が横行し、更には大地の賛美者の再動……か」

「わかってたけど、問題だらけ――ですね」

「まずは片付く物からやって行くべきだろ。まずは住民の説得と――クエイクの量産体制を整える事、からかな?」


「あ~う~」


重々しい雰囲気が包む室内。

無邪気な赤ん坊の声だけが、異様に響いていた



――その次の日。


「――ふぁあっ……」


結局、朝霧兄妹は光一にひばりと共に、詰め所で寝泊まり。


「おふぁよ~、ひばり姉ちゃん」

「おはよ、裕香ちゃん」


ひばりと裕香は、女性用仮眠室で一緒に就寝。

――一緒のベッドで眠るその姿は、年の“近い”仲良し姉妹。


その横では、急きょ用意されたベビーベッドが用意されており、そこでは引き取った赤ん坊がすやすやと眠っている。


「――? どうしたの、ひばり姉ちゃん?」

「今何か不快な物を感じた様な……」

「よくわからないけど、お腹すいた」

「じゃあまず身支度してからご飯作るからね」

「はーい」


ひばりは裕香を伴い、洗面所で洗顔歯磨きetc……等など、朝の身支度を済ませ、いざ食堂へ――


バタバタバタバタ!


「――?」


向かおうとした途端、何やら駆けまわる様な音が響いてきた。


「? どうしたのかな?」

「――わからないけど、何か事があったのかな? ……あっ、ちょっと待ってください!」

「え? あっ、おはようございます。支倉さん」

「どうしたんですか? 何か騒がしい様ですけど……」

「騒がしいも何も、先ほど傲慢が正義と接触したという情報が――」

「え!!? ――そんな! 傲慢に動く気配はなかったって……!?」

「ですので、警戒態勢が敷かれる事となりましたので。失礼します!」

「あっ、はい。ごめんなさい、引きとめたりして!」


そう言って、去って行った下級契約者に、ひばりは叫ぶように礼を言う。


「ごめん裕香ちゃん、赤ちゃん見てて」

「うん!」


ひばりは一路、自分たちの執務室へと駆けだした。


タッタッタッタッタ……バンっ!


「傲慢と正義が接触って、どういう事なの一体!?」


執務室へと駆けこんだひばりは、まず叫ぶように問いかけた。


「まだわからん。突然の報告だから、一体いつからかも目的も何一つわかってない」


返答を返したのはユウで、光一は――。


「――わかった。じゃあもう良い、戻ってこい」

『ええの?』

「ええよ。分が悪過ぎる以上、無駄な犠牲でしかない。増して深紅、お前を失う訳にはいかないんだから」

『了解や』


情報源と連絡を取り、引き上げ命令を出しているところ。

携帯を切って、光一がふうっと一息。


「――さて……ああ、来てたんだひばり」

「それで光一君、どういう事なの一体?」

「どうもこうも、朝一で正義のナワバリに、傲慢から“一対一で話をしたい”的な内容のメールが届いたらしい。北郷正輝は呼び出しに応じて、単身指定された廃棄都市区画に出向いてるって」

「――どういう事なんだろ?」

「わからん。ただ、そのまま傲慢と正義がぶつかる可能性もある以上、警戒態勢は取る必要が出てきたから――陣頭指揮は光一、お前が執ってくれ。ひばりは俺の補佐頼む」

「「了解!」」





「要望通り、1人で来たようだな?」


場所は、今や無人となった廃棄区画。

再開発計画もたちあがらず、誰の管理下にある訳でもない、荒れた廃墟が立ち並ぶその区画の一角にあるビルの屋上。


――肩まで伸びた白い髪を風に靡かせ、空を見上げる1人の男。

引き締まった体躯に、絶世の美男子と呼ぶに相応しい端整な顔立ちで、氷の刃を思わせる鋭い眼光を湛える瞳。


負の契約者の頂点、大罪の1人にして大罪最強と名高き男。

傲慢の契約者、大神白夜が立っていた。


「――挨拶はいい。一体何用だ?」


振り向く事なく、問いかけた相手。


黒い硬質な髪に、石を削り取った様な頑強な顔立ちに加え、彫刻の様な屈強な体つき

白夜とは対照的に、燃え上がる様な強い眼光を湛える瞳。


生の契約者の頂点、美徳の1人にして美徳最強と名高き盟主に位置する男。

傲慢の対である、正義の契約者、北郷正輝。


――対にして、互いに大罪・美徳最強と言われる2人の男。

それが今、対峙していた。


「よもや、憤怒の仇討とは言わんだろうな?」

「弱者に家畜が何人死のうと知るか。目障りなゴミを消し続けている事には、寧ろ感謝している位だ」

「実の父親を殺した者らしい返答だ……だが、今は置いておこう。お前には聞きたい事もあった」

「――なんだ?」

「――憤怒に我らの対立の映像を流したのはお前か?」

「そうだ」


――あっさりと返ってきた肯定に、正輝は目を見開く。


「――何の目的で流した?」

「お前の動きを制限するため――呼び出しに応じた礼で言えるのは、ここまでだ」

「ならば、我を呼びだした理由は?」

「――簡単な事だ」


バキッ! バリバリバリバリバリ……!!


「美徳の盟主――その立場を貴様が理解し、受け止めているかどうかを確かめる為だ」


手を伸ばし、拳を握りしめ――横なぎに払うと同時に、空間が紙を破るかのように引き裂かれて行く。

その中に手を入れ、一本の大剣を取り出し――正輝に向けて構えた。


「真偽のほどは疑わしいが――良かろう、示してやる……貴様の命と引き換えにな!」


両の拳を打ちつけ合い、正輝は構えをとる。


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