第4話
勇気と正義の決闘
勇気の契約者、一条宇宙と正義の契約者、北郷正輝。
正の契約者側としては、あまりにも特異ともいえるこの勝負は、一種の注目を帯びた。
負の契約者殲滅を掲げる北郷と、正と負の友好を掲げる一条。
正の契約者の方針を決める戦い――
そして結果は正義の契約者、北郷正輝が勝利。
「――戦いはむしろ激化の一途をたどる、か」
強欲の契約者、武田シバ。
その知らせを受けた彼は、やれやれとため息をつく。
「で、どうすんです、兄貴?」
「やるべき事が変わるのは、宇宙の野郎が勝った場合だ。これからも変わりやしねえさ」
「宇宙さんが勝ったら、どうするつもりだったんです?」
「事業でも起こすさ。正と負の縛りがあるんじゃ、出来ねえ事も結構あるしよ」
「今でも十分潤ってやすけどね。更に言えば、真っ当なビジネスでしっかりかつめちゃくちゃ稼いでるのも、すごいですが」
「高級スーツに身を包もうが、よだれ垂らした間抜け面さらせば台無しになる様に、品格が伴わない奴はあらゆる物を台無しにする――意地汚えバカは、自分の痴態には全く疎い物なのさ」
スキンヘッドにサングラスをかけ、背に竜の刺繍の入ったジャケットを着た男。
強欲の系譜、渇望の契約者、斎藤和樹。
その横のに視線をやり……
「そいつらの様にな」
吐き捨てる様な言い方で、そう言い放った。
「くそっ! 離せ!!」
「負のゴミが!!」
「俺達が何やった!? たかが人間で遊んだだけじゃねえか!!」
「見逃してくれたっていいだろ、たかが1匹や2匹殺した位で!!」
正の契約者側のテロ未遂者と、ナワバリで暴れた下級負の契約者達
「見苦しいバカどもが……!」
シバが背の土瓶をとり、砕く。
その破片が全て砂へと変貌し、シバの右腕に集まり巨大な砂の腕と化す。
「品も羞恥もねえゴミどもが……」
シバは砂の腕を振りかざし……
「ひっ! うっ、うわああああああああああああああああああっ!!」
ザザッ! ザンッ!
「ナマイキに善悪掲げて否定してんじゃねえよ!」
その次の瞬間。
目の前に広がる、巨大な砂漠のバラが墓標の様に立ちならぶ光景。
その1つ1つに、水分を奪われ干からびた有様の捕らえられた者達が、手足を貫かれ無残な姿で磔にされた姿があった
「あーっ、気分悪ぃっ。ウサ晴らしだ、誠実のナワバリ攻め込むぞ!」
「え? はっ、はい! わかりやした――そう言えば誠実ですが、龍清とか言うガキが最近になって系譜に入ったとか」
「なら一目見に行くか。凪の野郎が系譜に引き込むって事は、将来性はあるってことだしよ……それと、勇気の動きはしっかり監視しとけ」
「了解っす!」
――所変わって
「いきなりの、しかもボロボロのあり様での訪問って――」
「僕達だって止めたんですけど……」
「宇宙兄、聞いてくれないんだもんな」
憤怒の契約者が使う、集会所にて。
その一室で、ユウは光一とひばりを伴い、訪問者に会っていた。
勇気の契約者、一条宇宙とその系譜、吉田鷹久と夏目綾香に。
「あの、すぐに手当てを」
「いや、時間が惜しい……率直に言おう。同盟を組んでくれ」
ひばりが救急箱を手に、手当てをしようと歩み寄るのを制止。
宇宙は率直に、自身の意見を告げた。
ユウは頭をかき……
「率直なのはいいが、どういうつもりで? ――北郷に負けた腹いせなら」
「そうじゃない……第三次世界大戦を終結させたその先が、こんな事なんて納得できないからだ。これじゃ戦争を終わらせたんじゃなく、火種をくすぶらせてただけじゃないか」
「違いないっちゃ違いないな。でも俺達負の契約者にとっては、一枚岩じゃない以上問題と言える様な事は、部下たちの説得位だが……お前らの場合は、正の契約者に対して裏切るも同然だろ」
キッと目を細め、宇宙の目を見据え始めた。
「覚悟はできてる……部下たちにも、納得できないなら去っていいと言った」
「更に言えば、ナワバリにも事情説明はしてきました。余所の美徳を紹介しましたから、問題はない筈です」
「結局みんな出て行かなかったけどな……皆、あたし達の考えを理解してくれたよ」
宇宙、鷹久、綾香とそう告げる。
光一とひばりが目を丸くしてる中、ユウは変わらず――
「正直、俺達が同盟組んでも無駄な気もするんだが」
「ユウさん!」
「だってそうだろ? 当時10かそこらの子供に救われた揚句、その救いからたった5年かそこらでこの様って、呆れるなって方が無理だ」
第三次世界大戦を止めた英雄たち。
そう言えば聞こえはいいが、14人の英雄も実際は子供。
――実際はかなり情けない内容ではあった。
「最もだな」
「光一君まで!?」
「完全に甘えてるとしか思えない事ばっかだし、この戦争にしたって誰かが何とかしてくれる、ってのが一般的な……」
「誰かって誰で、それは一体いつやってくれるんだ!? 子供に救われた次は、幼児か赤ん坊にでも救われるつもりかよ!? ――素晴らしい言い分だな。自分には関係ないって、そう言えば自分が何しようと恥にならないって、本気で勘違い出来るんだから」
ユウが光一に目配せし……光一が頷き、退室。
「?」
それに続く様に、ひばりも出て行った。
「……で、どうする気だこれから?」
「――理解してもらえるまで粘るさ。ユウに理解してもらえないなら、この先誰一人として理解されない以上」
「そうじゃねえ。正と負の同盟は初の試みだから、一体どうする気かを聞きたい」
「おっ、わかってくれたかユウさん?」
「同盟組むとは決めてねえよ。ただ、具体的な案を聞いてから考える」
「――すまないが、具体的な案自体は前から考えていたが、それを実行に移す手順までは」
「手順は良い。案さえあるなら、そこから手順なんて考えられる。じゃあ始めよう」
「あっ、ああ。まずは……」
「以上だ、納得できないって奴は集めてくれ。俺から説明するから」
ピッ!
「ふうっ……」
「――最初からうける気だったんじゃない」
「――そうでもないさ。これからを考えると、間違いなくこれまで以上に俺達の周囲は荒れる事になる以上、組織の重鎮としてはあんま賛成はできない」
「――正と負の争いを納めるきっかけになるかもしれないのに」
「だからこそ、正と負の争いを望む奴等にとって、目の敵にされる――ナワバリのテロ増加にもつながるだろうしな」
「……」
「ボサっとすんなひばり。戻るぞ……それを防ぐために頭働かせな」
「うん……わかった」