第39話
「……所でユウさん」
「ん? なんだよ?」
「勇気との再同盟って、どうなるんです?」
「まだまだ反対意見多いから、その人たち納得させない事にはどうにもならないな」
憤怒のナワバリで、ずっと懸念され続けている事。
――それは、勇気との同盟関連と、正義に対する方針。
戦争が起こることへの危惧、あるいは戦争に賛同する声等、様々な声があがっている。
「あんな内容が流れたのに……」
「出所不明なのが問題なんだ。そもそもあの映像が本物だったとして、内容的に勇気は美徳を裏切ったと取れるから――あんな事があった以上、慎重になるのも無理もない」
「――それもこれも、全部正義の所為だ。なんであんなのが」
「美徳の方針をかけた決闘で宇宙に勝って、その権利を手に入れたから。元々美徳で勇気と共に中心に位置する実績をあげていたし、盟主として立つ手順はもう踏まれてる以上、個人が騒いだところで――」
「それで納得しろと言うのが無理でしょう、こんなの!」
そう怒鳴る様に言い放った修哉の横で――
うんうんと、続く様に3人が頷いた。
――その様子に、ユウは呆れたように溜息をつき……
「――美徳の方針の決定権をかけた決闘の場に立つ事の意味や、世の状況自体をわかってないから言える事だよな」
そう言った。
修哉を始め、錬に和人もその様子に表情を変えるが――
「貴方それでも大罪!? あんな事になって、悔しいとは思わないの!?」
それより先に紫苑が激高し、ユウに詰め寄った。
「悔しいと思ったら何? ――ブチのめせば満足。そんな勝手をまかり通そうとする奴が増え過ぎた事が、あいつの正義が肯定される一因なんだけど」
「だからってこんな事――!」
「現状じゃ無理だ。仮に出来たとしても、その後北郷正輝を怖がってた奴が一斉に暴れ出して、収拾がつかなくなる事態に陥って、逆に“自分勝手に世の秩序を壊した大バカ者”のレッテルの出来上がり。誰にとっても不幸な結末しか生まれやしない」
「…………」
「予想だにしなかったって顔だな――覚えときな。感情だけの否定をまかり通した所で、一時の自己満足と不幸と無理しか生みやしない。一概に正義ばっか否定できねえんだよ」
「――政治的な話で、正攻法じゃ無理だって言いたいの?」
「そう言う事。世の状況が酷過ぎて、正義の方針じゃないと秩序として形を成さない以上、あいつを責める事自体お門違いだし、むしろ問題はそうしても抑えられない奴等の方――だから宇宙も、あの対立が起こるまで不満を押し殺し続けてたんだ」
――あの対立。
といわれて、紫苑と和人の脳裏に突如流れてきた映像が浮かぶ。
――どう見ても演技とは思えない、光一を一撃で倒した男に激怒して詰め寄る男の姿を。
「あの対立って――俺達が入院してる間に流れたっていう映像だよな?」
「そう。見てた奴ならわかるだろうけど、あんな事になる位ならそれなりに不満は溜めてたはずだ。なのに何故今まで耐えて来たか――俺が今言った事を否定出来ないからだ。でなきゃ“決闘”じゃなく“戦争”になってたはずだし、“決闘”に負けた後に“戦争”になっててもおかしくない剣幕だったろ?」
「「「「…………!」」」」
「その決闘にしたって同じさ。感情任せで美徳全体の命運をかけた戦い――背負う物を自覚できない奴が立てる場所か?」
――4人は絶句した。
「――それをどうにかするための正負同盟なんだよ。宇宙と北郷の対立は、世の秩序の問題に対する方針故の対立。だから俺達の同盟でその問題を解決する糸口が見つかれば」
「アイツを失脚させる事が出来るって事だな」
「違う。それじゃ友好の意味が成り立たないだろ――後、お前らのそういう考えは正側にだってあって……」
「――正義を肯定する一因にもなってる、でしょ? ……わかったわよ」
「――先はまだまだ長そうだなあ」
その様子を見ていたひばりが、そうポツリと呟いた。
「……ふぁ~……」
「あっ、おはよう」
「……う~っ……」
「ごめんね、ちょっと今お仕事で……」
赤ん坊が起きて、不機嫌そうにぐずる。
その様子に、まだ仕事が在るひばりは困った顔をして、抱き上げた。
「あう~っ……」
「よしよし」
――一方
「出入り口に合成獣を配備しろ! 1人たりとも逃げられない事前提に戦え!」
「「「了解!」」」
拘置所・契約者専用錬。
そこで起きた集団脱獄阻止の指揮をとりつつ、光一は周囲を拘置所の見取り図を見ていた。
「第二部隊、突破されました!」
「――展開が思う以上に早いな。この拘置所自体が、理性のタガが壊れた犯罪契約者の吹き溜まりだけに、暴動となると流石に手ごわい……よし」
全部を把握し終えると――
光一は上着を脱ぎ、内側に備え付けてある10丁の拳銃を露わにした。
更には、真っ白なペラ紙を数枚取り出すと、指を噛み切りその紙の一枚ずつに血で文様を描き、拳銃に貼りつける。
「――不謹慎ではあるけど、だからこそ新しく追加したサブ能力と、新しい力の実験とならしになる……行って来い、“鮮血の奴隷”」
「――よーし、行け行け! 自由は目の前だ!!」
「「「おーーっ!!」」」
囚人たちはブレイカーの保管室、看守室を占拠し、全員がブレイカーや奪った武器を所持。
尚且つ、犯罪契約者達の大半は、強盗殺人などの凶悪犯罪を平然と行う者揃いであり――
全員が量産型ブレイカーの為、現状最も強い“不満”を起点としており、1人1人の力が強く、看守側は苦戦を強いられていた。
「もうすぐシャバだ。そしたら真っ先にここにブチ込みやがったヤツ、ぶっ殺してやる」
「なら俺に付き合えや。通報しやがったクソガキで、苦しむ殺し方教えてやっからよ」
「しばらく女だいてねえから、女子高でも占拠してやる」
「酒を浴びるように飲みてえ――そんなパラダイスは、目の前……」
ドドドドドドドドドドッ!!
「うあっ!!」
「ぎゃっ!!」
突如の銃撃。
やられた囚人たちをしり目に、警戒した囚人が見た物は……
「――なんだありゃあ!?」
「まさか、思念獣か!?」
拳銃を蝙蝠にした様な、異様な何かが数羽飛び交っていた。
――それは円を描く様なフォーメーションをとり……
ドドドドドドドドドッ!
「ぎゃっ!」
「ぐあっ!」
囚人たちを的確に撃ち抜き――
「よし、未だ!
「「「おおおおおおおおおおおおおっ!!」」」
看守たちの援護を行い、次々と囚人たちを捕縛していく。
「――囚人たちは総崩れです!」
「よし、畳みかけろ!」
「「「おおおおおおおおおおおっ!!」」」
「――何とかなったな
『キキキキキキキキッ!』
『キキキキキキキキッ!』
そっと光一は腕を横に伸ばし――数羽の獣を媒体とした思念獣“血の奴隷”をとまらせる
「――結構きついな……まあ人格植え付けてない以上、あの龍清ってガキみたいにはいかないか」
思念獣とは、能力ではなく技法により生み出した物である。
故に技法の錬度が、物を言う能力である。
――しかしそれはあくまで非人格系の思念獣であり、思念獣に人格を与えた場合は確実に才能が物を言う能力である。
光一の“血の奴隷”は、銃を媒介に創りだした非人格系思念獣。
故に操作は、基本的に“精神感応”と“念動力”で行っている。
「――さて」
在る程度頭の中でまとめた所で、光一は周囲を見回し――
「これが終わったら、脱獄の原因調査と――看守の身元調査かな? 可能性としては、大地の賛美者辺りが犯罪契約者の危険性のアピール目的に、手引きしたってところか。じゃあ一先ず看守から搬入まで片っ端から……」
ドンっ! ドガガァァアァアアン!!
「!? 何だ! どうした!?」
「脱獄の主犯が、何やら薬品の様な物を――」
「グオオォオォォオオオオオオ!!」
報告を受けると同時に、咆哮の様な物が響き――看守たちを薙ぎ払い、2mを超す大男が突進してくる。
「――! あの顔、確かひばりの捕まえた……!」
「づがまっでだまるがああああああっ!! あのグゾガギ、オレザマヲこごんなドゴろにおしごみやがっでーー!! おがじでびぎざいでぶぢごろじでやるううううううっ!!」
「――何か薬使ったな。こいつは俺がやる! お前らは他の囚人を取り押さえろ!!」
「はっ、はい!!」
「さて、あの赤ん坊の親の仇……とはいかないよな。事件が公になってる以上、殺す訳に行かないし――正義が発言力持つ理由、わかる気がするよこれじゃ」




