第38話
「絶対的正義における心得! その1!!」
「「「正義に妥協、後退、躊躇は一切許されない!!」」」
「その2!!」
「「「悪の可能性は徹底的に根絶やしにすべき!!」」」
「その3!!」
所は、正義のナワバリ。
正義の組織の詰め所にして正義の契約者、北郷正輝の住居である、古城を買い取り改築した通称“正義城”。
その敷地内の広場において、正義の傘下契約者達の心構えの唱和が響く。
「では正義城外回り100周、始め!!」
「「「はっ!!」」」
「座禅室にて座禅を組み、2時間瞑想!」
「「「はっ!!」」」
「打ち込み始め! 相手を殺す気でかかり、気絶するまでやめるな!!」
「「「はっ!!」」」
その後の訓練。
傘下契約者の血のにじむような訓練の最中……
「……」
正義の契約者、北郷正輝は客の相手をしていた。
知識の契約者、天草昴と共に備え付けられた茶室で、正輝自ら点てた茶を飲みつつ
「相変わらず、見事な手並みだね」
「――我にとっての楽しみの1つだ。熱心にもなる」
「見る人が見たら驚くよ。何せ北郷正輝の趣味が、茶の湯だなんて――まあ、それだけじゃないけどね」
“絶対的正義”
正輝直筆の半紙が飾られた額縁に目をやり、昴は苦笑する。
「礼に始まり礼に終わる――我は礼儀、即ち正しさで成り立つ美しさを主体とする文化が、何よりも好きなのだ」
「失礼だけど、苛烈な思想で有名な北郷さんには、落ちついた雰囲気は似合わないよ」
「結構だ、自覚はしている――最も、その苛烈な思想でなければ止められん悪や理解出来んバカ者の存在は、問題ではないのかを問うてみたい物だが……それで、今日は一体何用だ?」
正輝が聞くと、昴は表情を引き締め――
「憤怒で起こった電波ジャックは聞いたかい?」
「報告は入っている――憤怒の技術班を欺けるとなると、お前位だが……」
「生憎と、離れていてくれた方が宇宙君に干渉しやすい以上、僕にあんな事をした所で利どころか害しかない--それを理解した上で、僕達の対が僕達の動きを抑制するために流した可能性はあるね」
「“傲慢”か“暴食”か――あるいは両方か……九十九の完治も太助の開発している兵器の完成もまだ先である以上、今は耐える時か」
「説得する手間が省けて助かったよ。僕も朝霧君相手の傷が癒えていないんだから、今大罪とやり合うのは御免被りたい――次は……」
「……えーっと、ここは確か」
かたかたと、キーボードを打つ音だけが、室内に響く。
支倉ひばり
上級系譜であり、憤怒の重鎮である彼女は――。
「――なんか、同い年にしてはかけ離れてるな」
「だよなあ。あのちんまい身体に加えて、不釣り合いなかじ……」
「セクハラはやめなさい。そっちじゃなくて、立ち位置がでしょ?」
「修哉の言う事はわかるよ――俺達と年が近いのに、世界の均衡をになってるんだから」
修哉達が見守る中で、仕事をしていた。
「……すぅっ……すぅっ……」
――傍らに、拾った赤ん坊を寝かせつつ。
「すまん、遅くな――あれ? 客か」
「あっ、ユウさんに裕香ちゃん」
「こんにちは、ひばりお姉ちゃん」
そんな中、来訪者――朝霧裕樹が、ゆっくりとはいってきた。
妹の裕香を引き連れて。
「いらっしゃい。天城さんとこの、修哉だっけ? それと、友達の……」
「佐伯紫苑。同い年だから朝霧君って呼ばせてもらうわよ」
「弟の和人です」
「鬼灯錬」
「改めて、憤怒の契約者の朝霧裕樹。皆からはユウって呼ばれてるから、そう呼びたきゃ呼んでいいよ」
そう言ったユウの横で、おずおずと1人の少女が前に出て――
「あの……朝霧、裕香です。初めまして」
それだけ言うと、逃げだす様にユウの後ろに隠れてしまった。
「久しぶり、元気そうだね。裕香ちゃん」
「へえっ、可愛い子ね。将来楽しみだわ」
「本当だね。きっとすごい美人になるんじゃないかな?」
「もうちょっと早く生まれて欲しかったなー、なーんて……」
「「「…………」」」
「いや、冗談だから! 冗談だからな!?」
「へえっ、随分と面白い奴らじゃないか」
面白そうに笑うと、ユウはひばりに歩み寄り――
「――この子? 報告に会った赤ん坊って」
「はい。すっかりなつかれちゃったんで――」
「ひばり、引き取るの?」
「いえ、受け入れ先は探してるんです」
「受け入れって……じゃあ施設に預けろよ。里親探すんなら、情をかけたらお互い辛くなるだけなのに」
「……」
「――まあ、ひばりがやりたいようにすればいいけど……ところで、光一は?」
「連絡があって、どこか行きました。口ぶりから、すぐ帰るみたいな感じだったから」
「――そうか」
――所変わり。
ウーーーッ! ウーーーッ!
「急げ! 包囲しろ!!」
「構うな、ぶっ殺せ!!」
拘置所・契約者専用区域。
契約者の囚人たちの大規模脱走が勃発。
所々で白兵、砲撃戦が繰り広げられ、喧騒に包まれていた。
「出入り口を固めろ!」
「第2連の障壁、破られました!」
「よーし、自由は目の前だ! 行くぞ!!
「「「おおおーーーっ!!」」」
「――寝言は寝て言え」
バヂバヂバヂバヂバヂバヂ!!
「「「うあああああああああああああっ!!」」」
「久遠さん! ――申し訳ありません!」
「謝罪は後だ――行け!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」




