第37話
『――これが、現実だ……時代は貴様ではなく、我を選んだのだ。一条宇宙』
『……くっ……うぅっ……』
『……決闘前の宣言、守ってもらうぞ――美徳の方針は我の……北郷正輝の物だ』
「――また、あの時の……か」
美徳の方針をかけた、北郷正輝との決闘での敗北。
それは未だに、一条宇宙にとって大きな傷を刻みつけていた。
――北郷正輝との決闘
――美徳からの離反
――今行っている、憤怒との同盟
全てが、美徳に対する反逆であり、世に与えた影響は計り知れない事ばかり。
――恥さらしと罵られても、しかたがない。
自分はそれ相応の事をやっているのは、事実なのだから。
それでも……
「……よし、今日もやるか」
今更退く訳にはいかない。
――自分を信じ、付いてきた者達の為にも
――電波ジャック事件から、3日が経過。
「――不覚ですね、私とした事が」
「相手の方が上手だったってコトか……で、アキはどう思ってる?」
「久遠さんと同意見ですよ。私達の再同盟で利を得る者など、私達以外居ませんし、それ以外でこんな事を謀り、私を欺ける技術の持ち主となると、知識位しか思い当りませんね」
「――でも、知識でも疑問は残るな」
技術班長来島アキのもとへ、光一は調査の進捗を確かめに単身出向いていた。
「まあ何にせよ、わからない事議論しても仕方ないか……で、勇気から貰った正義との交戦データだけど」
「現状勇気と正義では、正義の方が総合力は上ですね。通常戦力もさることながら、上級系譜ですら2人がかりで1人重傷――更に言えば、その際用いたという“真実の瞳”と言う仮面。あれは恐らく試作品の筈ですから」
「――綾香の“幻想舞踏”すら捕らえたのが試作品かよ」
「目的がテロ殲滅で、勇気との接触は不測の事態の筈でしょう? ならばあれは試験運用のつもりだった、と考えるのが妥当です」
「――となると、それ相応の技術系契約者が居るってコトか」
系譜以上の同格同士の契約者の戦いは、1つの要素で差が出来る場合が多い。
例えば相性、例えば能力の錬度、例えば使用している媒介。
九十九VS綾香&鷹久の場合――明らかに、媒介である“真実の瞳”による“幻想舞踏”の打破による物が大きい。
「開発者は恐らく、通称“正義の鉄槌鍛冶”事、東城太助でしょう」
「知ってるのか?」
「ええ、ちょっとした縁で……人格的には問題が山積みですが、技術者としては確かな物を幾つも持つ――北郷正輝の正義に最も従順な男、ともいえますね」
「――だとしたら、厄介だな。それ程の人材がいるんなら、北郷正輝の勢力は時間に比例して、より強力な正義の軍勢になりえるって事だ……なら、頼りにさせてもらうよ?」
「ええ。その為の私達技術班ですから」
アキが頷くと、光一はにっと笑みを浮かべる
「それじゃ、後は頼む」
「ええ。そちらも、お気をつけて」
Prrrr!
「はいもしもし?」
『あっ、光一君?』
「? どした、ひばり。何か問題でも?」
『えーっと、何と言ったらいいか……』
「?」
その次の日。
「――街並み、あっと言う間に直ってるな」
「第三次世界大戦後の復興だって、同じような物だったけど……流石に改めてみると、契約者のすごさを実感できる」
そんなにひどい怪我ではなかった上に、色欲の医療技術もあり退院した修哉と錬。
佐伯姉弟と共に、復興済みの区域の町並みを見つつ帰宅。
「――でも名残惜しいぜ。色欲の病院って、ナースから医者まで美人揃いだったのに……特にあの月ってすっげー美人、また会いたいもんだ」
「――大罪の1人だぞ、あの人」
「……マジ?」
――そんな中で1人、名残惜しそうな男と、それに呆れる男。
「あれから大変だったのよ、ここでも」
「そうそう。何せ、正義と勇気の対立場面が流れて、その事で大騒ぎだったんだから」
「それ俺達も聞いたけど、一体どういう事なんだろうな? 薄気味悪い」
「なんなら、退院報告も兼ねて聞きに行くついでに、退院祝いでもせびりに行くか?」
「図々しいわよ。けど気になるのも事実だし、行ってみましょうか」
「じゃあちょっと待ってて。今連絡するから」
――所変わり、憤怒の契約者達の詰め所にて。
「あっ、天城君に鬼灯君。よかった、退院おめでとう」
「「「「…………」」」」
4人はひばりを見て、唖然としていた。
――正確には、ひばりの抱きかかえている……。
「あ~……あ~う~」
赤ん坊に。
「ミルク出来たよー」
そこへ、哺乳瓶を手に光一が入って来て――
「久遠テメエ! あんな小さい身体に何羨ましい事やらかしてやが――」
「えぅっ……えぐっ……」
「ああよしよし、大丈夫、大丈夫だからね」
――数分後。
「――つまりこの子は親を亡くした孤児で、たまたま見つけた支倉さんに懐いちゃったから、一時出来に引き取る形になっちゃったって事?」
「……そう言う事です」
「――そうならそうと、早く言ってくれれば」
「言う前から殴りかかっといて何言ってやがんだ」
不機嫌そうに睨みつける光一に、錬がひるみ距離をとる。
「でも親を亡くしたって事は、正義の?」
「違う、この子は犯罪契約者に親を殺された子だ。犯人はひばりが捕まえたけど」
「――そっちかよ」
「実際よくある話なんだよ、契約者犯罪で子供を殺された親、親を殺された子供ってね。そう言った人たちの為の里親の仲介も、俺達の仕事――この子の里親は、まだだけどね」
「聞けば聞くほど胸糞悪い話ばっかだな」
「――そういうのが、正義のやり方がまかり通ってる一因なんだ」
聞こえない様に、光一はぼそりとそう呟いた。
Prrrrr!
「? ちょっと失礼――はい……何ッ!? バカ野郎、何やってたんだよ一体!? ――わかった、俺もすぐに行くから!」
プツッ!
「どうしたの、一体?」
「――来たばっかで悪いが、ちと出てくる。終わったら2人の退院祝いにケーキでも買って帰るから、ゆっくりしときな。ひばり、後の事務処理任せるけどいいか?」
「え? うん、わかった。気をつけてね」
光一は上着を手に駆け、部屋を出て行った。
「――忙しそうね」
「うん、勇気との同盟に対して色よい返事は出せる様になってるけど、ヤッパリまだまだ不安に思ってる人はいるから」
「色々と大変なんだな」
「元々がそう言う道だからね。宇宙さん――勇気の契約者も、そう言う覚悟でココに来たんだから」




