第33話
「ん?」
場所は、正義のナワバリの研究ラボ。
「――“真実の瞳”が起動してる? ……って事はぼくちんの予想通り、やっぱ九十九に勇気の妨害があったのか」
培養液で満たされ、合成獣が中に浮かんでいる巨大ビーカーが立ちならぶ室内。
そこで端末を操作する1人の男。
肩まで伸びた髪に、冴えない印象が目立つぬぼ~っとした雰囲気を、白衣の上からまとったような1人の男が、携帯用の端末の変化を見てそう呟いた。
「……あの野郎、どこまでもマー君を否定する気か」
彼は正義の下級系譜“忠誠”の契約者であり、正義の技術班長、東城太助。
Pipipipi!
「ん?」
携帯の呼び出し音が鳴ると同時に、太助はバシッと両手で顔を挟む様にはたき――
「はい、東城太助です」
先ほどのぬぼーっとした雰囲気があっと言う間に消え去り、キリッと引き締まった雰囲気と表情へと変貌。
口調も先ほどと違い、はきはきとした物へと変わり、みる人が見れば完全に別人へと変貌したかのような印象を醸し出していた。
『太助か』
「正輝様。いかがなされましたか?」
『九十九が勇気側の妨害を受けた様だ。合成獣の援軍は送れるか?』
「いつでも――でしたら折角なので、僕の開発中の新しい合成獣の試験運用の許可頂けませんか?」
『わかった、許可しよう――感謝する』
「ありがとうございます。それに感謝など、当然のことをしたまでですよ」
正義の契約者、北郷正輝と東城太助は、幼馴染である。
――公私の区別が人一倍どころか万倍うるさい為、太助も仕事ではプライベートでの呼び方である、マー君とは呼ばない。
「――ぼくちんは“正義の鉄槌”専門の鍛冶屋さんだからね」
太助が表情を冷たい物へと変え、端末を操作。
目の前に立ちならぶビーカーのうちのいくつかから、培養液が抜かれ――床がせりあがり、上階へと上がっていく。
「人が目指すべきもの――それは、目先のなれ合いや欲望なんかじゃない……腐敗や不純物を徹底的に排した、絶対の秩序なんだから」
それを見届け、太助は部屋を後にする。
「そのためなら、人間なんて幾らでも死ねばいいさ……ぼくちんがいくらでも創りだすんだからね」
シンクロ
感情を経由し、人に超人的な力を与える演算装置、ブレイカー。
その機能の1つで、機械的な以心伝心を可能にする機能。
『やるよ、綾香』
『わかった』
その機能を使い、綾香と鷹久は――脳内での会話を行う。
「無駄だ。“真実の瞳”から逃れる術はない」
ギョロギョロと蠢く、仮面に取り付けられた眼を模った装置。
それらが一斉に、綾香たちに照準を合わせ――砲門の2つが狙いを定める。
「――“真実の瞳”って、その仮面の名前か?」
「……外見の悪趣味さからは、想像できないネーミングだね」
「――その余裕ごと破壊してくれる。ファイア!」
砲撃が綾香めがけて襲いかかり、それを鷹久が受け止め……
「ファイア! ファイア!!」
その隙を狙って、それも連続砲撃が鷹久を襲い――
「うああっ!」
ガードしきれず、吹っ飛ばされた。
「ファイア! ファイア! ファイア! ファイアー!!」
確実に仕留めるべく、連続放火が鷹久を襲う。
そのすべてが着弾し、
「タカ!」
「ファイア!」
ドゴォッ!!
「ぐはあっ!!」
“瞬間移動”で駆け寄ろうとした綾香が、砲撃を受け吹き飛ばされた。
――鷹久と同じ方向へ。
「――まずは1人……ファイア!」
砲撃を数発喰らい、ダメージが多い鷹久を確実に潰す事を選び、鷹久向けて砲撃が放たれ――
「やら――せるかあっ!!」
2発分のダメージで、身体が悲鳴をあげているにもかかわらず、綾香は駆けだし――
「――のがれたか」
鷹久を抱え、“瞬間移動”で少し離れた場所へとのがれた。
それを見つけた途端、苦虫をかみつぶした表情で2人を見る九十九。
その背では、6つの砲門がうねうねと蠢いていた。
――その中心に鎮座している、未だ使われていない最も大きい砲門の存在感を、より引き立てるかのように。
『大丈夫、綾香?』
『なんとか……それより、気付いたか?』
『……じゃあ、わかってるね?』
『ああ……ならタカ、早めに決着付けよう。あの6つの砲撃数発程度でこの有様なのに、あの一番でかいので来られたら、あたし達木端微塵だ』
『うん――やろう!』
――所変わり
「――援軍かよ」
ユウは思いもよらぬ遭遇に、舌打ちをした。
目の前には、新種と思われる合成獣を多数引き連れた、正義の軍勢。
「憤怒――! 何故ここに!?」
「まさか、昴殿の動きが妙に遅いのは……」
正義側の軍勢も、憤怒との遭遇は予想していなかったのか、動揺が走っていた。
――それを見逃すユウではなく
「――仕方ない、さっさと片付けるか」
手負いとは思えない覇気を纏い、一歩踏み出す。
正義の軍勢に動揺が走ると同時に――
ピュンッ!!
「――!!?」
「はぁっ……はぁっ……偶然と言うのは、恐ろしい物だね……」
突如の乱入者――昴に、ユウは肩をレーザーで撃ち抜かれた。
「昴殿!」
「早く行きたまえ。彼は僕が抑える!」
「はっ! ――行くぞ!!」
「……思ったより早かったな」
「美徳を甘く見ないで欲しいね!」
ガサっ!
「!? 今のは--!?」
「ぎゃあっ!」
「ぐああっ!」
ユウと昴は激突――かと思いきや、突如感じた気配に足を止める。
その次に聞こえてくるのは、先ほどの正義の軍勢と合成獣の悲鳴。
「――なんだ?」
「……君の仕業じゃあないのかい?」
「――いや、こんな所で正義の援軍との遭遇自体想定してなかった」
「となると――思った以上に事の進みが早い、か」
「ちっ……」




