第32話
「――いたた……」
がらりと、がれきの山の一角が崩れる。
そこから、1人の男が姿を現した。
「――! 吉田鷹久!」
その瞬間、九十九が右手のロケットランチャーを発射。
「させるかあっ!!」
間に綾香が割り込み、念動弾丸を切り裂き爆破。
綾香は切り裂いた瞬間“瞬間移動”で回避し、鷹久の隣に立ち構えをとる。
鷹久も九十九を見据え、拳を討ちつけ続く様に構えをとった。
「――どいつもこいつも、正義を解せず腐敗を肯定するか」
「こんな無意味な犠牲を撒き散らして、何が正義だよ!!」
「世界を救った尊き力、契約者がクズどもに穢され尽くされた、この腐りきった時代――この時代に必要な物は、握手ではなく鉄槌である……貴様等恥さらしどものやり方では、腐敗を増長させるのみだ。何も変わりはせん」
「違う! 理解し合った先に、本当の幸福があるんだ!」
「幸福など、独占しようとするクズが必ず現れ、喰い散らかされる物だ。だが絶対の正しさは誰一人として干渉は出来ん。世界に必要な物は、慣れ合いによる偽りの幸福ではない――絶対的正義の下での統率だ!」
「そうやって、自分たちにそぐわない物を全部切り捨てる気かよ!? ふざけんな、あたしは絶対認めるか!! 間違いは正せばいい、そうじゃなきゃ人は先に進めないだろ!!」
「――正しさを否定する者に、命を持つ資格はない。そうでなければ、欲に腐った人間どもは絶対に理解出来ん!」
「――なら来いよ。徹底的に否定してやる!!」
「綾香……やろう」
銃声が響き――2人は改め、構えをとる。
「――恥さらしといえど、上級系譜2人……ならば!」
九十九が何やら、仮面を取り出した。
人の頭2つ分の高さを持つ円錐型の、所々に眼球を模った装置の取り付けられた、見る人が見れば悪趣味と捕らえる様な仮面を、ゆっくりとかぶる。
「――なんだ?」
「……わからないけど、警戒はした方がいい」
「――うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
その次の瞬間、先ほどと同様――いや、先ほどと違い、背から突き破るかのように、6つの砲門と、九十九の身体程ある砲門が1つ姿を現す。
稼働式らしい砲門が、忙しくざわざわと蠢くのと連動するかのように、仮面の眼を模ったかのような装置がギョロギョロと周囲を見回す。
「――ターゲット選定開始」
「――厄介そうだね。あの仮面は恐らく、あの能力の補助の為の物だから」
「だったら、あたしがさっさと片を着けてやる!!」
「あっ、待って綾香!」
“幻想舞踏”を駆使し、距離を詰める綾香。
――その次の瞬間。
「……ファイア」
仮面の眼が、一斉に一点を凝視する様に動きを停止。
それを確認した九十九の言葉に従い、背の砲門1つが発射され――
「うあっ!!」
「綾香!!」
“幻想舞踏”で、機械ですら捕らえられない筈の綾香をとらえ、砲撃が命中した。
「あたしの“幻想舞踏”が、破られた!?」
「――あの仮面だ。多分高度な照準装置に加えて、“精神感応”や“透視能力”に関する媒体かもしれない」
「……ファイア!」
次の砲撃が放たれ、綾香を襲う。
「“武装解放・重装!”」
その間に割り込み、鷹久は武装解放で、両手の武器を重量強化。
向かって来る弾丸を受け止め――
「っ!?」
「ほおっ……」
「――重い」
重量武装にもかかわらず、押し切られる寸前に追い込まれた。
「――タカ」
「……綾香の幻想舞踏も、僕の武装解放も、通用しない――でも、なにか方法がある筈」
ツッ……
「ん?」
ふと鷹久は、九十九の仮面に2筋の赤い物――血が線を描くのを見つけた。
仮面は目の部分だけ開けており、後は覆い隠す形となっているため、あれは血の涙を流していると思われる――が。
「……もしかして」
「いい加減諦めて死ね、正義にたてつく悪党どもが!! ――ファイア!」
「! 綾香、シンクロ!」
「え!? ――わかったタカ!!」
――一方
「――はぁっ……はぁっ……」
「――ふぅっ……ふぅっ……」
地形は完全に原形をとどめておらず、寧ろ現在進行形で造りかえられていた。
――その元凶に意識はないどころか、現状の副産物でしかない。
「君も大概執念深いね」
「憤怒だからな――お前は知識なんだから、執念関係ないだろうに」
「知識にも執念位あるさ!」
手を突き出し、指先に光が収束すると同時に、レーザーが撃ち出される。
ユウが半歩下がってそれを回避し、居合の構えをとりながら駆けだす。
「――“ジョワユーズ”!」
剣戟自体は、昴は決して苦手と言う訳ではない。
しかし、剣の腕ではユウに勝てる様なレベルではなく、基本的に距離をとる事前提の剣戟が基本となる。
最初の一撃を受け止め、そこからのカウンターを狙い、剣を振り――
「!?」
それが避けられた。
生じた隙をユウが見逃す訳もなく――。
ガドンッ!!!
「!!?」
昴の顔面にパンチをブチ込み、その勢いのまま昴の頭を地面にたたきつけた
たたきつけられた地面は昴の頭がめり込み、その地点からあちこちにひび割れが走る。
「ぐぅっ……このぉっ!!」
昴が右掌に光を収束させ、手刀でユウの胸元を切り裂いた。
ユウはそれに怯みもせず、左手にマグマを纏わせ――
「――“灼熱の剛腕”!」
そのマグマごと焼き尽くすかのような炎に包まれた、燃え上がるマグマの腕を昴にたたきつけた。
「!!?」
灼熱の腕は昴の身体に突き刺さると同時に、その周囲の地面をも焼き払い、昴を地中へと沈めて行く。
――在る程度まで進んだ所で、ユウはそのマグマを左手から切り離した
「――これなら足止めにはなる筈……急がないと」




