第31話
「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「どりゃあああああああああああっ!!」
咆哮、金属のぶつかり合う音、爆音が響く。
テロが潜む街――それだけだった筈のその街中では、少数とはいえ契約者による戦争が巻き起こされていた。
正義と勇気の軍勢のぶつかり合い。
互いに、系譜数名と下級契約者の混成部隊故に乱戦となり、接戦が繰り広げられる。
「相手を見て当たれ! 下級は絶対に複数で纏まり、系譜とはやり合うな!!」
「「「了解!」」」
「次の砲弾を!」
「はっ!」
そんな中で鷹久は指揮をとりつつ、降り注ぐ砲弾を撃ち落としていた。
――ただ、遠距離攻撃系の能力がないため、砲弾を殴って撃ちだすという方法で。
「――それでも、戦車砲すら桁違いに思えるほど、強く早く飛ぶんだもんな」
「そこ、無駄口たたいてないで砲弾を撃ち落とす!!」
「はっ、はい!!」
「避難状況は!?」
「現状9割方!」
「総員、奮起せよ!! 正義の軍勢を1人たりとも、街に入れるな!!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」
内容は、住民たちの避難を最優先とした、防衛戦。
戦力はほぼ互角である上に、勇気側には上級系譜が後ろに控えている。
――負ける理由は特になかった。
「……」
「鷹久さん?」
「――何かが、おかしい」
『『『グルルルルルルッ!』』』
「!?」
唸り声をあげ、正義の勢力の後ろから現れた獣の群れ。
――契約者の技術で創られた、合成獣
「行け! 1人残らず喰い殺せ!」
その群れを統括する合成獣使いと思わしき男が、号令をかけると同時に犬笛らしきものを吹く。
それを聞いた合成獣達が、凶暴化したように咆哮をあげ、勇気の軍勢に飛びかかった。
「合成獣には系譜が当たれ! 何としても食い止めるんだ!!」
「「「了解!!」」」
「砲撃手、少し空けるから頼む!」
「「「了解!!」」」
「系譜および合成獣の戦闘には、僕も出る!」
その一方で――
「――どうしたよ? 大口たたいといて、随分と呆気ないじゃんか?」
「……」
綾香は“幻想舞踏”を駆使し、九十九を圧倒していた。
純白のマントも、ローブの様な服務、斬り裂かれ血を吸い、赤く染まりつつある。
「九十九様!」
「砲撃の手を休めるな!!」
「はっ、はい!!」
推されているにもかかわらず、九十九は砲撃を優先させ、介入を許さない。
――系譜格以上からは、レベルの差が絶対の物である。
下級系譜相手には量産型では勝てず、上級系譜には下級系譜に勝てず――大罪・美徳は同じ大罪・美徳にしか対抗できない。
それは、契約者にとっての絶対的な階級ルールであるが――
ガンッ! ガンッ!
「――よっと」
撃ちだされた銃弾を、綾香が能力も使わず避ける。
――これには、流石に綾香も疑問符を浮かべていた。
「……どういうつもりだ?」
「よそ見をするな!」
剣の腕は確実に自分よりも数段上で、銃の腕も光一程ではないがかなりの物。
接近戦でまともにぶつかれば、間違いなく勝ち目はない――それ位の腕である事を、綾香は剣を交えると同時に理解していた。
――しかし、その苛烈な人格と性格の所為で、先ほどから“幻想舞踏”を赤いマントに見立てた、闘牛の様な戦法が幾度となくまかり通っている。
幾ら度を超えた苛烈な人格とはいえ、上級系譜を相手にしているとは思えない――それが、何かの琴線に引っ掛かっていた。
「……そろそろか」
ぼそりと九十九が呟いた途端――
ドゴォッ!!
「かはっ!」
突如、綾香の腹に何かがめり込み、吹っ飛ばされた。
「――“思念兵装”」
綾香が見た物。
それは、九十九のわき腹から生えた様に備わっている、方向から煙をあげるバズーカ砲。
「――機は熟した。これで終わりだ!」
そう叫んだ途端、九十九の身体中から次々と重火器系の兵装が、植物の発芽を早送りさせているかのように次々と姿を現す。
九十九自身の身体を埋め尽くしてしまったその瞬間――。
「――! まさか!?」
「腐った猿どもを浄化せよ! “破滅の暴風雨”」
綾香が止める間もなく、九十九の身体を包む兵器が一斉に発射。
「鷹久さん! 避難、完了しました!」
「よし、ならすぐに攻勢に出――っ!?」
「――? なんだ!?」
「え? まさか――そっそんな!」
「! 全員僕の後ろに下がれ! 急ぐんだ!!」
「うっ、うわああああああああああああああああっ!!」
発射された念動の砲弾は、絶え間なく撃ち続けられ、街を破壊していく。
建物を薙ぎ払い、地面をえぐり、人の文明の痕跡を全て根絶やしにせんと言わんばかりに、念動砲弾は降り注ぎ……
「――正気の沙汰とは、思えねえ」
その慣れの果ての光景を見て、綾香は
先ほどまで、人類の文明がずらりと並ぶ光景があったとは、とても信じられない。
そう言わんばかりに、破片すらも木端微塵に砕かれた、がれきの山と化した。
「――さて、次はシェルターの破壊だな」
そのがれきに向け、一歩踏み出した九十九を――綾香が遮った。
「……仲間ごと薙ぎ払っておいて、まだやる気かよ?」
「当たり前だ。街を破壊しただけで、まだ悪の可能性は潰えていない」
「……どこまでも狂った正義だな!」
「言葉に意味はなく、殴っても逆恨みしか生まん――世と人は腐り過ぎているが故の正義だ」
右手に軍刀を握り、左手は今度は“思念兵装”によるロケットランチャーを出し、構える。
「――最も、腐ったメス猿にはわからん事だが」
「誰がメス猿だ!」
「お前意外誰が居る? 腐ったゴミどもと共に、この町のガレキの一部となれ!!」
「――! 今のは……!?」
「余所見厳禁だよ」
ガギィっ!
ユウと昴の激突は、徐々に苛烈さを増していた。
2人の激突地点を中心にクレーターが作られ始め、周囲には巻き上げられた岩石や土砂で取り囲むかのような小さな山が出来始めている。
――所々で、その山が溶けていたり綺麗な円状に穴があいていたりと、不自然な光景も目につく中で、2人はぶつかっていた。
「――あっちも尋常じゃないか……何とか手ぇ貸してやりたいってのに」
「シバ君じゃあるまいし、美徳1人を止めておいて欲を張った事を言わないでくれたまえ」
「――昴、お前は」
「どんなに否定した所で、闘争は人の性だよ、裕樹君」




