第30話
「――成程ね」
所は、修哉達の入院している病院。
和人は修哉と錬の病室に赴き、見舞い品を持参。
そして、巻き込まれたテロ事件の事を話ていた。
「勇気って、あの人だよな? あの時、あの二人を圧倒したあいつに、殴りかかった」
「うん。契約者の頂点の14人の1人……あの、朝霧って人や、光一に支倉さんを圧倒したあの人と同じ」
「――色々いるのは、どこも同じってコトか。あの北郷とか云う奴の所為で死にかけたと思ったら、一条って人に命救われたり、わかんねえや」
「――それで、ケガはどう?」
「俺も錬も軽傷だったから、すぐ退院は出来る」
「――ただ、愛奈ちゃんはショックで個室養生だから、まだまだかかるらしい」
「――そっか」
――一方
「…………」
未だショックが抜けない愛奈は、紫苑から顔を背けぼーっと窓の外を眺め始めた。
テレビは設置せず、漫画や女性雑誌などは置かれてはあるが、手をつけた形跡は全くない。
「――タイミング悪いと言うかなんというか」
「?」
「ううん、こっちの話。こっちの方はまだ落ち着いてるとはいえないけど、憤怒もあちこちで復興に尽力してるし、すぐ元に戻るわよ」
「……だと良いんですけど」
あんな事があった以上、しかたがない
そうわかってはいても、歯痒い紫苑だった。
――時は過ぎ
「九十九様、準備完了しました」
所は、とある街周辺。
そこにテロリストが潜んでいるという情報を得た正義は、一徹の契約者、椎名九十九の率いる正義憲兵部隊を派遣。
テロリスト――もとい、街ごとテロリストのせん滅が、始まろうとしていた。
「――よし、ならばこの先は……わかっているな?」
「「「はっ! 悪は根絶やしとすべき存在であります!」」」
「そう。正義には妥協も後退も、増して躊躇も――」
「「「許されません!!」」」
「そうだ……人など生まれるが、正義は少しでも傷がつけば、世の秩序に大きな打撃を与える。増して人は、正義の管理下でなければ一瞬で腐り、悪となる――故に」
「「「悪の可能性は根絶やしとすべきであります!!」」」
「――よろしい。秩序の為、正義のために……全ての悪を殺せ!!」
「「「了解!!」」」
正義の契約者、北郷正輝と勇気の契約者、一条宇宙の決闘以降。
決闘の勝者、北郷正輝の方針が美徳の方針となり――正の契約者の間では、負の契約者に対する攻撃姿勢が主流に。
負の契約者の横暴自体が酷かった事もあり、大半が諸手を挙げての賛同。
――慈愛や友情がメインとなる、穏健派の意向は完全に弾圧される事となった。
「砲撃用意」
「「「砲撃用意!」」」
街を取り囲んだ兵器が、砲塔を向ける。
全員が躊躇いもなく、武器あるいは能力を発動させ構えをとり、いざ――
「撃――」
「待て!」
という所で、遮られた。
「――?」
号令を取ろうとした男。
純白のマントを羽織り、ローブの様な服を纏い、軍刀を右手に、左手には銃を持ち――軍用犬の様な鋭さを放つ瞳を向けた先。
「あの街に潜んだテロリストは捕らえた。だから退け……無駄に血を流すな」
勇気の上級系譜、夏目綾香の姿を……。
「撃て!」
無視して号令をかけ――街へと砲撃が放たれた。
「――!?」
しかしそれも、突如の砲撃に阻まれた。
「――やっぱり、止まらなかったか」
「鷹久さん! 次の指示を!」
「第二撃が来る前に、次弾装填! 住民の避難と、迎撃態勢急げ! ――流石、憤怒忍者部隊だよ」
――憤怒と勇気の再度同盟締結の為に必要な事。
それは、信用を示す事である。
現状、憤怒のナワバリでは正義の侵略ともいえる攻撃により、勇気との同盟など火種以外の何物にもならない。
だからこそ、勇気の本懐は正義の方針と対立している――それを示す必要があった。
しかし、正義の方針と存在が契約者犯罪を抑えている以上、ヘタに手を出せば犯罪契約者の助長を促す事になりかねない。
故に、犯罪助長にならない内容であり、正義とは違う方針の秩序を打ち立てる事が目的。
それを促せる内容での正義の動向を探り、それを妨害する。
「行け、正義の兵達よ! 恥さらしどもを蹴散らし、悪を根絶やしにしろ!!」
「「「おおおおおおおおおおおおおっ!!」」」
「――鷹久さん! 正義の突入部隊が!」
「なら迎え討つ! 行くぞ、街の人達を守れ!!」
「鷹久さんに続けえ!!」
「「「おおおおおおおおおおおおおっ!!」」」
「これほどの迅速な対応……憤怒忍者部隊か」
「――退いてくれ。あたし達は……」
「黙れ! 悪の可能性は根絶やしにせねばならない! よって、テロリストの仲間が潜んでいる可能性、街ごとテロの参加である可能性を持つあの街の殲滅は、正義の決定事項である!」
「やりすぎだって言ってんだよ! ありもしない事のために、無関係の人まで……」
「黙れと言っている! 悪の可能性がある――人が死ぬ理由など、それだけで十分だ! どこまでもクズどもを庇い立てし、秩序を踏み躙るか!」
九十九が軍刀を綾香に突きつけ、撃ち貫く様な眼で睨みつける。
「あたし達は無駄な血を流す方法をとるなって言ってるだけだ。宇宙兄だって……」
「黙れ!! 正義は絶対、正義は必要不可欠、正義に妥協はない!!」
「――どうしてもやるしかないのかよ!」
「正義の妥協は人の腐敗! 我らは退かんぞ!!」
突き出される軍刀に向け、綾香は双剣を抜き打ち払う。
「正義の名のもとに、死ね!!」
「あたしには待ってくれてる奴がいるんだ! そいつの為に、絶対に死ねない!!」
「――そろそろ来ると思っていたぞ」
「……何故君がここにいるんだい?」
「邪魔をさせないためだ」
所変わり、正義と勇気の系譜のぶつかり合いの場から、離れた地点。
そこで、2人の男が対峙していた。
高級感あふれるスーツを纏い、背まであろうかという長髪にメガネをかけた、知的な雰囲気を醸し出す中肉中背の男。
――知識の契約者、天草昴。
額にバンダナを巻き、ごつい生地のTシャツにカーゴパンツ。
サスペンダーの様な、背に交差する形で6本の太刀を納めた鞘の取り付けられた、皮のベルトを着け、左手に打刀と呼ばれる日本刀を持つ男。
――憤怒の契約者、朝霧裕樹。
「……どいてくれないか? 僕は」
「そうはいかない……いずれ正義には、落とし前をつけさせるつもりだ。それには勇気との同盟が不可欠である以上、お前の進軍を許す訳にはいかない」
「ならば、仕方ないな」
――右手に強烈な光を収束させながら、覚悟を決めた表情で昴は構えをとる。
それを見たユウの背から、黒煙があがると同時にマグマが噴き出し、それが6本に収束され――腰の6本の太刀を引き抜いた。
それと同時に、打刀を持たない右手がグラグラと煮え返るマグマに包まれ、巨大な腕を模り始め――
「なら――行くぞ!!」
2人は同時に踏み込み―――
繰り出されたマグマの腕と、強烈な光の弾がぶつかり……辺り一面がその衝撃で薙ぎ払われた。
「“ジョワユーズ”!」
「噴火七刀流!」
その衝撃をモノともせず、2人は相殺されると同時に駆けだし――2本の光剣と7本の刀がぶつかり合う。
鍔迫り合いには移行せず、2人は撃ち合うと同時に距離をとり……
「“ロンギヌス”!」
「“迦具土”!」
2本の光剣が伸び、その先端が6本の太刀を牙にした溶岩竜とぶつかり――相殺され、昴は下がり、ユウは手元に戻った太刀を背の鞘に戻した。
ただ数合うちあっただけ。
――だと言うのに、2人を中心とした景色は一変していた。
衝撃波だけで、地面は乱暴な形で平らにした様な荒れた平面に。
そこにあった物は、人工物自然物問わず薙ぎ払われ――跡形もなくバラバラに、あるいは燃えていた。
「――流石に、そう簡単にはいかないようだね」
両腕に光を収束させ、辺り一帯を照らすかのような強い輝きを放つ昴。
「――そう簡単に決着がつくもんじゃねえだろ」
殆ど全身から黒煙をあげるマグマを噴き出し、まるで汗の様に滴らせながら、打刀“焔群”を構えるユウ。
「――綾香、鷹久、頼むぞ」




