第3話
「あっ、そうです。後これを」
「ん。出来たのか」
「はい、支倉さんと久遠さん用の武器を」
「――わかってはいるんだけど、ね」
ビオトープと言う施設がある
ここでは、現存する生物の遺伝子等を使用し、異なる生物の特徴を併せ持つ“合成獣”を造り、管理する場所である。
合成獣の用途も、食用に愛玩、戦闘に捜索と様々な物がある。
そのビオトープは、出来る限り通常の自然そのままに、と言う前提のもと。
研究施設を兼ねた防壁で、取り囲むように固めている元のままの自然の中で、合成獣は放牧されている。
「きゅーん」
「はっはっはっは」
「わん! わん!」
憤怒で活躍している合成獣は、柴犬ベースのソルジャードッグ。
能力は警察犬をしのぎ、尚且つ愛くるしい外見と人懐っこさから人気もあり――
集団戦闘でなら下級系譜にも対抗できると言う、人気者兼優れ物。
であるが、現状ではまだ3匹だけで、量産体制は整っていない。
「信長ちゃん、秀吉ちゃん、家康ちゃん。あんまりあちこちうろうろしちゃだめだよ」
「「「わんっ!」」」
そんなソルジャードッグ第一世代、信長、秀吉、家康の3匹を引き連れ――
ひばりは、街へと買い物に出ていた。
ソルジャードッグの要人警護実験と言う名目の、幼女誘拐対策として
「――はぁっ」
ひばりは元気がなかった。
――と言うのも。
「負の契約者の手による大量虐殺が!?」
「ああっ――なんでも、バイキングで欲しかった料理横取りされた事と、それで殴った事を注意された事に腹立てて、のことらしい」
「そんな、子供じゃあるまいし……」
「そんな子供が起こした事件で、連日頭悩ませてるのが俺達なんだけど……とにかく、また勇気が攻めてくる可能性はあるから」
「……あたし達、一体どこへ行こうとしてるのかな?」
「――俺が聞きたい。でもふらふらする訳にもいかないだろ」
「それは……わかるよ。あたし達の組織のナワバリだもん」
と言うやりとりを、光一と行ったばかりの為である。
「――でも、やっぱり割り切れないよ。元々は大罪も美徳も、仲間だったのに」
と、ため息をつきながら、買ったばかりの夕食の材料に目を落とす。
「……って、こんな事じゃダメだよね。あたしだって上級系譜だもん、もっと頑張らな……え?」
「うぅ~っ!」
「ぐるるるっ!」
「ぅぅーっ!!」
ひばりがぴたりと立ち止まり、後ろを振り向く
それと少し後に、ソルジャードッグ達が唸り声を上げひばりの前に立つ。
ドゴォォォォオオオン!!
「っ!」
その少し離れた場所で、爆発が起こった。
「わあああああっ!」
「きゃああああっ!」
「……! いっ、いけない。調査しなきゃ!」
周囲がパニックに陥った悲鳴で、我に返ったひばりは荷物を持ったまま、爆発のあった地点へと駆けだす。
小さい身体故に周囲に埋もれ、あるいは押されながら突き進む。
「きゅーん」
「わんっ!」
「くぅーん」
その後ろに、信長、秀吉、家康を引き連れつつ。
「見つけた!」
「え?」
「見つけたあああああああああああっ!」
人の流れを漸く抜けた所で、両手にナイフを持った男が、歓喜の声を上げながらナイフを構え、ひばりに襲いかかってきた。
バキィっ!
「っ!」
男が振り下ろしたナイフは、地面が隆起して出来た壁に阻まれ、へし折られる
「なっ、何するんですか!?」
「何を……? ふざけるな、世を乱す悪魔め!!」
「っ!」
「憤怒の系譜“悲愴”の契約者、支倉ひばり! 貴様ら負の契約者に殺された家族の無念、思いしれ!!」
「そこまでだ」
ドンっ!
「ぐあっ!」
発砲音が響き、ナイフの男の腕が撃ち抜かれた。
「光一君!?」
「騒ぎがあったって聞いて来てみれば――おい、ウチのマス……紅一点に、一体何のつもりだ?」
「今マスコットって言おうとしたよね!?」
「残虐の契約者か!? 丁度良い。勇者の名を汚す憤怒の系譜を“2匹”も!!」
へし折れたナイフを捨てて、撃ち抜かれた腕に持っていたナイフを持ちかえ、光一へと襲いかかる。
光一もナイフを抜いて、それを受け止めた。
「ひばりが何やった!?」
「負の契約者の分際で存在している事だ! 全部貴様らが存在して居る所為で!!」
「――俺達の不甲斐なさが原因名のは認めるさ。だがお前がやってる事は」
「正義だ!」
「っ!」
「あちこちで騒ぎを起こして人を殺す、お前達悪魔を退治する!」
ひばりはショックを受け、うつむいてしまう。
「そう、負の契約者を抹殺する。世の秩序を乱し、法を犯した悪を制裁する事は正しい! 俺は正しい事を」
「アホかお前」
その反面、光一はジト目かつため息をつき、バッサリと切り捨てた。
「法を犯したヤツ裁くの個人じゃねーし、全然公正じゃねーなら、裁きじゃなくて攻撃だろ。正義騙るんなら、法と人間学位勉強しろ。バカ丸出しの一方的な否定して、偉そうに悲劇の主人公面してんじゃねーよド三流」
「――――うるっせえ! テメエ等悪魔が偉そうに正義騙んじゃねえ!!」
激高してナイフを突き出すのを、光一が回避し肩を極め取り押さえる。
「そんなカスタムもしてない量産型で、系譜に打ち勝てるわけ……」
カチッ!
「っ! ひばり、離れろ!」
「え?」
光一が慌てて男から離れ、庇う様にひばりを抱きかかえた瞬間……
轟音が響き、周囲を爆風が薙ぎ払った。
「光一君、大丈夫!?
「何とか……まさか自爆とは」
咄嗟に、アキに貰ったリボルバーで“超電磁砲”を撃ちだし、衝撃を相殺するも、完全にとはいかなかった。
「……ごめん。あたしが早く反応してたら」
「気にすんな。俺だってあそこで自爆なんて……さて、まずは場の整理だな。」
その後、ひばりに手当てしてもらいつつ、光一は連絡して部下を呼び、混乱の鎮静と場の調査と片付けを手際よく指示。
――それから2週間が経過。
「正の契約者側でも、強硬派の連中が横行し始めてるらしい」
「――あの時の人、みたいな?」
「ああっ。何せ“負の契約者は悪魔だ、生かしてはおけない”――そう言う考えがのさばるには、十分過ぎるほどやらかしてる」
「第三次世界大戦がどうして起こったか、今ならわかる気がするよ……」
ヴィーっ! ヴィーっ!
「どした? ――なに!? わかった、すぐ行く」
「どうした?」
「――宇宙さんが系譜2人を連れて、境目に来てるって」
「何の用だ? まさか戦争、って訳でもないだろうし」
「――あの情報と関係あるかもな。家族を養う為に契約者になったって奴を、正義の北郷が負の契約者だったって理由で殺し、そのことで抗議した家族も殺したことで、宇宙さん反論して戦いになったって」
「……幾らなんでも酷いよ。何かやったって訳でもないのに、負の契約者ってだけでそんな事する何て」
「……どの道、あってはなさなきゃ分からねえな。ちと行って」
「いや、まず俺が行く。ボスが安直に動かないでくれ」
「――わかった」
「宇宙兄。大丈夫か?」
「――なんとか、な……綾香、鷹久。お前達は」
「何言ってんだよ宇宙兄! あたしもタカも、宇宙兄見捨ててのうのうと生きるなんて出来る訳ない!」
「そうですよ。それに……やっと僕達が望んだ事を実現できるんです。確かに風当たりは辛いかもしれないけど――やりましょう。僕達で!」
「……すまない。いや、ありがとうか」