第29話
列車ジャックにおける、正負戦争扇動派の暗躍。
それは、各地の大罪や美徳の知るところとなっていた
――傲慢のナワバリ
「――憤怒を炊きつけての、正負戦争の火種構築か」
「ですが、それは失敗に終わったようです。また、これを聞きつけての正義に対する不満も、各地で」
「――不満も何もないだろう。欲望に腐り、自分勝手を美化した愚者が増長し続けた結果が、正義をより強力にした……因果応報、自業自得だ。正義側に悪用を考えるダニが居ない事は確かである以上、放っておいても何1つ問題はない。それで、憤怒と勇気の動きは?」
「今回の事で噂されていた同盟破棄は撤回し、憤怒のナワバリの住民の不満を鎮静する方針で、活動するそうです」
「――今回の事で、慈愛と友情は正義に対する不満を強める筈。契約者社会はまだまだ暴走の兆しを見せる、か……」
「いかがなさいましょう? 今ならば、ナワバリ拡大の――」
バキッ!!
「がはっ!!」
「兵力も資金もナワバリも、これ以上はいらん――この私、大神白夜を、簡単な欲に流されるバカと同列にするな」
「――申し訳、ありません」
「その程度で事を起こし、無暗に周囲を刺激する意味もない――しばらくはナワバリ防衛に専念する」
「はっ!」
――強欲のナワバリ
「――随分と大事になってやがんな。まあ、オレ達大罪や美徳の動きは、そのまま世界を動かす以上無理もないが」
「憤怒と勇気はこの事もあり、同盟継続のための住民鎮静が方針だそうです。どうしやす、兄貴?」
「んー? そうだな……現状維持だ。仲良しこよしが大嫌いなバカどもの茶番に付き合ってやるのも癪だし、今は欲をかけば余計な火種を生みだすだけ。何より――」
「?」
「兵も金も、このナワバリにある全てがオレの物だ。無意味に消える事だけは許さねえ」
――怠惰のナワバリ
「――めんどくせえ。今の世、超めんどくせえ」
「で、どうすんだヨ? アンタ一応頭なんだかラ、何か指示くれヨ」
「――めんどくせえ……ZZZ」
「寝るナ!!」
「――めんどくせえ……めんどくせえから、さっさと騒動の元凶たたく。出陣準備」
「――了解ダ」
――暴食のナワバリ
「――やれやれ。落ち着いて食事もできないとは、大罪も楽ではありませんね」
「いや、ドン。牛の丸焼き50個も喰ってる時点で、落ちついてないなんて言えねーぜ?」
「いえいえ、小生にとっては落ちつけていませんよ――では、昴さんの動きを見てから決めましょうか。今の美徳のストッパーが小生の対である以上、迂闊な事をすれば契約者社会が崩れかねません」
「――準備はしとくぜ。先走りはしないから、安心しなよ」
「その前に、まだまだ追加お願いしますとシェフに伝えてください」
「…………」
――嫉妬のナワバリ
「――以上が報告となります。いかがなさいましょうか、マザー」
「…………」
「――? いかがなさいましたか、マザー?」
ドガンッ!!
「!? ――いきなり何を!? ミス・ファントム。一体何が?」
「落ちついてください、マザー。幾ら身体検査の結果が悪かったとはいえ」
「……間が悪かったと言う事ですな。失礼いたしました」
「…………(むかむか)」
「――すまないが、ミス・ファントム。後は任せる」
「畏まりました。落ちついてください、マザー。支倉ひばり嬢がお嫌いなのはよくよく理解はしておりますが、今は迂闊に動けば逆に攻め入られかねません」
「…………(ギロッ!)」
「――お願いします。どうか、ご自重を……」
「…………(ちっ)」
――慈愛のナワバリ
「――どこまでも、人は闘争を望む物なのでしょうか?」
「怜奈様……」
「――蓮華さん、内情調査の方は?」
「……まだ終わっていない。今事を起こせば、この前の二の舞になりかねない」
「蓮華ちゃんは――今はどうなの?」
「正直、反対ではあります……ですが、ティナをあんな目にあわせた事は自分にも原因がある以上は」
「――そんな自分を責めてはダメですよ。ワタクシの不甲斐なさが原因である以上」
「いえ、怜奈様は……調査を急ぎます。失礼」
「蓮華さんも、色々とつらいんですよ」
「つぐみも、ありがとう」
――希望のナワバリ
「ふむっ……そう言う事か」
「親方! 先陣はぜひとも、この赤羽竜太に!!」
「いえ、この名取雄太率いる世界一の機動力を誇る、熱血騎馬軍に!!」
「バカヤロウ!!」
ドガ―ン!!
「「ああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
キィーーン…………………………………………………………
ヒュー…………………………………………………ドッカーーン × 2
「ぐほぉっ!!」
「先走んじゃねえぞ、テメエ等!!
「おっ、親方……」
「今世は不安定な状態である以上、無暗に動いては事を仕損じる――今は大きく燃え上がる時ではなく、静かに湛える時期である。小さき火種を強大なる炎へと変えるは、希望なり! わかったかああっ!!」
「しかとこの胸にぃぃぃいいいいっ!!」
「刻み込みましたぁぁぁああああっ!!」
「ならばかかってこい!! 貴様等ぁっ!!」
「「おうっ!! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」
――友情のナワバリ
「あーあ……やっぱり、時代はいがみあいかあ」
「どうすんだい? 姐さん」
「姐さん言うな。ボクとしては一条君を助けたいところだけど、ねえ」
「友情にはきっつい時代だねえ。姐さんも辛いだろうなあ」
「姐さん言うなって――慈愛に連絡取ってみようか。あそこも多分同じような心境の筈だし、ボクの悩みもわかってくれると思うんだ」
「ならすぐ準備するぜ、姐さん」
「だから姐さん言うな!」
――誠実のナワバリ
「――帰ったか、龍清」
「凪さん、わかってたでしょう?」
「久遠光一と支倉ひばりの両名と接触した事なら」
「――何故教えてくれなかったんですか?」
「お前の見聞を広め、自立心を促す為だ。お前は自分に自信もなさすぎれば、何も知らなさすぎる――それで、お前から見た負の契約者はどうだ?」
「――負の契約者にも、あんな人がいるんだって事は良くわかりました。正直、あの人たちが死ななければならない人だなんて、思いたくない位」
「――そうか」
時代は静かにかつ確かに、動きを見せていた。
大罪も美徳も、そして小組織ですらも決断を強いられるほどに。




